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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 宴はそのまま和やかに進み、子供たちは就寝のため退出していった。
 ポピーだけがルヴァへ何かを言いたげにもじもじとスカートを握り締めて俯いている。
「あの、ルヴァ様…………えっとあの、やっぱりいいです。お休みなさい」
 ふわりと一礼をして足早に退出していくのを、ルヴァはぽかんとした顔で見送った。
「うーん、一体どうしちゃったんでしょうねえ……」
 ルヴァは八の字に下がった眉をそのままに、ぽり、と頬を掻いた。ビアンカがそこへ苦笑を交えて頭を下げる。
「ごめんなさいね。まだまだ子供とは言っても、ちょっと難しい年頃に差し掛かってきたみたいで。気にしないで下さい」
「あーいえいえ、何か話したいことでもあったのかなあ、と思いましてねー」
 ルヴァがふとリュカたちのほうを見ると、ヘンリーとチェスをやっているのが視界に入った。
「おや、チェスですかー」
 ふらりと近付いてみればこちらの世界でも駒やチェス盤にこれといった変化はないのが見て取れた。
 ヘンリーの口の端にはまだ余裕の笑みが浮かんでいる。リュカがんー、と唸りながらもルヴァに視線を投げつつ微笑んだ。
「おっ? ルヴァ殿もチェスをご存知ですか。どうです、良かったらぼくと対局しませんか」
 テーブルの横には葡萄酒の瓶が既に二本空いている。飲むペースを見ればヘンリーがその殆どを飲んだようだ。ルヴァは二人へにっこりと笑顔を向ける。
「ええ、いいですよー。チェスは久し振りなので楽しみですねえ……あああ、ヘンリー殿! あなた方の対局が終わってからでいいんですよ、そんな」
 既に少し酔っ払っている様子のヘンリーが盤上の駒をさっさと片付け、白と黒のポーンを片手に一つずつ取り、後ろ手で握り締めた。
「ほい、どっちか選びな」
 ぐいとルヴァのほうへ拳が出され、ルヴァは左の拳を選んだ。ヘンリーの手にあったのは黒のポーン。後手だ。
「じゃあぼくからですね。ルヴァ殿相手は緊張するなあ」
 おれにも緊張しろよボケ、とヘンリーの拳がリュカのこめかみをぐりぐり押した。そんなやりとりに笑いつつ、アンジェリークが声をかける。
「リュカさん気をつけて、ルヴァはかなり強いから!」
 了解、と言って軽くウインクをするリュカに、ルヴァの片眉がつり上がる。
「アンジェ、あなたは私の味方をして下さるんじゃないんですかー」
「そうだけどー。たまにはルヴァが負けるところも見てみたいっていうかー?」
 ひどい奥さんですねー、としょんぼり途方にくれたルヴァの声に笑いがおきた。

 最初の対局はリュカの黒星であっさりと終わった。二十手ほどでリュカが詰んでしまったのだ。
 後頭部を掻きながら口を尖らせるリュカと、いつも通りの平静さで佇むルヴァ。その二人を眺めていたヘンリーがにやりと笑った。
「ふうーん……おまえでもまるで歯が立たない相手ってのも面白いな。じゃあ、おれも同時にってのはどうです?」
 ヘンリーが言っているのは多面指しと呼ばれるやり方で、一対複数での対局のことだ。
 ルヴァがその言葉へにこやかに答えた────珍しく少々強気な言葉で。
「いいでしょう、受けて立ちますよ」
 ヘンリーがマリアのほうを振り返り、声をかける。
「マリア、盤をもうひとつ持ってきてくれ」
 はい、と返事が返ってきてマリアがチェス盤を用意したところにヘンリーが盤の前に座り、ゆったりと足を組んだ。その手に蒸留酒の瓶を持っている。
「ルヴァ殿、ここは折角の勝負ですから負けた側が酒を一杯ずつ飲むってのはいかがでしょう」
 これ以上飲酒をしたいわけではないが、相手は王族。ここは一応雰囲気に合わせておくべきだろう。
 それに────負けなければいい話。
 暫し逡巡してから、ルヴァがいつもの調子で口を開いた。
「ええ、それで構いませんよ」
 ビアンカとアンジェリークはのほほんとその光景を眺めながら、紅茶を片手にせっせと焼き菓子を食べている。
「うわールヴァさんのあの余裕っぷり! かぁっこいいー。戦ってるときのリュカと同じくらいかっこいいわねー」
 恋人を褒められて満更でもなさそうにアンジェリークがはにかんだ。
「それならリュカさんの戦うところも見てみたいわー。でもそこは、リュカさんのほうがって言ってあげないと可哀想よ」
 口を尖らせたままのリュカがビアンカを睨んだ。彼も少し酔いが回ってきているらしい。
「聞こえたよビアンカ! 全く、こっちもひどい奥さんだ!」
「あはは、ごめーん。頑張ってねリュカ」
 ひらひらと片手を振り、軽い調子で応援するビアンカ。
「アンジェ、ちょっとこちらへ」
 ちょいちょいと手招きをされてアンジェリークがルヴァの元へと近付いた。
「どうしたの、ルヴァ?」
 ルヴァはとんとんと自分の唇を指差して、じいっとアンジェリークを見つめている。
「もし負けちゃったら飲酒で泥酔は確実なので、勝利の女神からの祝福が欲しいです。ほら、アンジェ?」
「え、ちょっ……ここで!?」
 冗談とも本気ともつかない甘えた口振りにすっかり困惑するアンジェリークへ、更にとどめの一言が投げられる。
「いけませんか……?」
 小首を傾げて切なそうな顔をされ、一層困り果てたアンジェリークがちらりと周囲を見渡せば、全員にやにやと笑みを浮かべて成り行きを見守っている。
「で、で、でも人前だし……あの……んっ」
 問答無用とばかりにルヴァの大きな手がアンジェリークの華奢な体を引き寄せ、あっという間に唇を奪った。
 途端にリュカが口笛を吹き鳴らし、外野が一斉に冷やかし──マリアまでがはにかみながら小さく手を叩いている──当のルヴァは満足気に顔を綻ばせていた。
「はい、ウィトゥラの祝福を頂きました。これで負けはしませんよー。見てて下さいね」
 ウィトゥラとは神話に登場する勝利の女神の名だ。頭の中がパニックになったまま、アンジェリークはふらふらとビアンカの横にへたり込んだ。一見普通に見えていたが、あれは確実に酔っている。
 ビアンカは両手を頬に当てて、少し興奮気味にアンジェリークへと話しかける。
「うふふ、やるじゃない。ルヴァさん……淡白そうに見えて結構熱いのねー、意外っ」
 世間ではそれをむっつりスケベって言います、とアンジェリークは心で呟いていた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち