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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 へべれけで千鳥足になっているヘンリーを支えながら、リュカは私室に向かう廊下を進んだ。
 マリアはその後ろを歩いてリュカに申し訳なさそうに声をかけた。
「すみません、リュカ様……。ご迷惑をおかけしてしまって」
「いつものことだよマリアさん。でも今日はちょっと飲みすぎたのかな、珍しいね」
 苦笑いをしてうとうとと眠りかけているヘンリーを見た。
「おい、ヘンリー! 寝るなよ、もうちょっとしっかり歩け」
「……おう。寝てねーぞー」
 マリアが私室の扉を開け、リュカはヘンリーをぽいと寝台に投げ飛ばし、先程までの笑みを引っ込めた。
「……で? くっさい芝居してたけどどういうこと?」
 ごろりとリュカのほうを向いて、ヘンリーは目を開けた。
「はは……やっぱり気付いてたか」
 さて白状してもらおうか、と言うようにリュカが仁王立ちで腕を組み、じろりとヘンリーを睨みつける。
「ぼくと違ってザルのおまえが、あのくらいの酒でこんなになる筈ないからな。どうせぼくに言いたいことでもあったんだろ?」
 にやりとヘンリーの頬が上がり、それからすぐに真顔になった。
「なあ、あの二人は一体何者なんだ? ……只者じゃないだろ、なんか異様な力を感じるんだ。人のもんじゃない、あれはまるで……」
 幼い頃に感じた禍々しい気配に良く似た、邪悪さこそないがとても大きな魔力──それは人為らざる者の領域。
「……側にいて大丈夫なのか、おまえは」
 魔物と心を通わせるこの親友が、いつしか深い闇へと囚われてしまうのではないか────ヘンリーにはそれが気がかりだった。
「お二人は……至って普通の人間だよ。とても普通の感覚をお持ちだけど、マーリン曰くは竜の神に匹敵する力を持ってるんだってさ」
 リュカもごろりと横になり、ぼんやりと天井を見つめた。
「そうか。おまえが平気なんだったら、いいんだ。……マリア、ちょっとこっち来て」
 ヘンリーが隣を指差して、なんとなくその意図を察したマリアも横になった。ヘンリーを真ん中にして三人が並んで寝転がった。神の塔に向かう前に広い草原で時折こうして大空を眺めていたことを、三人は思い返していた。
「こうやって三人で並ぶの、久し振りだよなー。思えばさ、よくあんなところから生きて出られたよな、おれたち」
 ヘンリーには奴隷になっていた期間すらも、今となってはとても懐かしく思えていた。
 もう着の身着のままのボロボロの格好ではない。清潔な服に身を包み、広い寝台の上で寝転がっている────それでも、遥か遠くを見つめているようなその視線の先には、きっと澄み渡る青空が広がっているのだろう。
 マリアもくすくすと笑いながら懐かしそうに目を細めた。
「あんな高さから落ちて樽が壊れなかったのも凄い話ですよね、ふふっ」
 自由を手に入れてから見えた世界はとても広大で、あの頃の冒険は今もきらきらと輝きを放ってヘンリーの胸の中にある。
 仰向けのままリュカに視線を向けることはせず、どこか独り言のような声でヘンリーが呟く。
「絶対に……生きて帰ってこいよ、リュカ。魔王なんかに負けるな」
「わたしも微力ですけれど、毎日お祈りいたしますわ。皆さんが無事に帰還できるように」
 いまは違う道を歩んでいる二人からの温かい励ましに、ぐっとせり上がる喉の痛みを誤魔化すようにしてリュカは起き上がった。
「うん……ありがとう、二人とも。無事に帰ってきたらまた会いに来るよ、必ず」
 背中にドンと衝撃が走った。何事かと振り向けばヘンリーがじっとリュカを見つめている。痛みを感じた背にはヘンリーの拳が当たっていた。
「……これは餞別じゃないからな。戻ってきたらこの三倍はボコってやるから覚悟しろよ、出来の悪い子分め」
 これはヘンリーの照れ隠しなのだとリュカには伝わった。このちょっと偏屈な親友は、見れば今にも泣きそうなほど口元が歪んでいる。子供の頃から変わらない表情だ。
「はいはい、わかりましたよ、親分。ちゃんと帰ってくるからマリアさんと仲良くね」
「……ん」
 背に当てられたままのヘンリーの拳に、ごつりと音を立てて拳を突き合わせた。
「早く寝とけよ、酔っ払い」
「うっせーよ。じゃあもうおれはこのまま寝るからな、おまえは向こう行ってろ。マリア、後は任せた」
「そうだね、そろそろお開きの時間だな。じゃあまた明日な、おやすみ」

 また明日。それはリュカなりの流儀だった────さようならは、言わない。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち