冒険の書をあなたに
既にとっぷりと日が暮れて、月明かりが仄かに辺りを照らしていた。
リュカが馬車からまた魔法の絨毯を持ち出してきて、ルヴァとアンジェリークへと視線を投げた。
「夕食は用意して貰ったんで、ちょっと砂漠へ出ませんか。少し賑やかに騒げる場所まで」
アンジェリークは魔法の絨毯が気に入っているようで、嬉しそうに目を細めていた。
「素敵ね、ご一緒させて貰うわ」
そうして全員が絨毯に乗り──なんとこの絨毯、大きな幌馬車までもが乗れるのだ。絨毯に触れるとたちまち小さくなってしまった!──民家から少し離れた砂漠へとやってきた。
ルヴァとリュカが手分けして周辺から木材を集めてきて、焚き付けに使う枯れ草を求めてリュカが幌馬車の上を覗き込んだ。
「クックル、ごめんな。おまえの巣草をちょっと貰うよ」
そんな声が聞こえた後、リュカの片手にはもっさりと枯れ草が握られていた。
不思議そうな顔をしているルヴァへ、子供たちが教えてくれた。
「あのね、うちのクックルがいつも馬車の上に巣を作ってるんだ。焚き付けの材料はそこから貰ってるんだよ」
「馬車の上にいるときは魔物が出てきたらすぐに鳴いて教えてくれるんです」
ティミーがモンスター図鑑を引っ張り出してクックルーという魔物の頁を見せてくれた。カラフルで随分と丸い、可愛い鳥だ。
この世界にはメラという便利な呪文があるのに、どうして使わないのだろうかとルヴァは疑問に思った。
「そんなことをしなくとも、呪文で燃やしてしまえばいいのではないですか?」
その問いにはポピーが答えてくれた。
「呪文は元々精霊さんの力だから普段はできるだけ使わないようにしなさいって、お父さんの方針なんです」
リュカが腰に下げた袋から取り出した火打ち石で火花を飛ばし、焚き付け用の枯れ草に火を熾した。そこに強く息を吹きかけて小さな火を育て、からからに乾燥した木材に燃え移ると一気に炎が上がり、それが熾き火になった頃に宿で用意してもらった料理を鍋ごと熾き火の上に置いて温める。
鍋には肉と野菜、そして豆がトマトと香辛料で煮込まれたものが入っていた。
他には香りのいいピクルスなどが出た。アンジェリークはトマトとキュウリに香菜とレモンが混ぜられたサラダを気に入り、ひたすら食べていた。
馬車の中にいた魔物たちも食事を共にして、食後は焚き火を中心に語らいの場となっていた。