冒険の書をあなたに
ルヴァのゆったりとたゆたうような朗読に子供たちは初めうっとりと聞き入っていたが、やがてくたりと寝入ってしまった。
もう一つの寝台ではアンジェリークまでもが静かな寝息を立ててしまっている。
「……おや。皆さんお休みですか……では私も、もう休むとしましょう」
アルコールランプの灯りを落としてどこで寝ようか少し迷いながら──子供たちは大の字で寝ていて隙間がなかった──アンジェリークの横へ滑り込む。
ルヴァはこの絵本の内容と、かつて読んだ神話との繋がりがあるような気がして考え込んでいた。
そして精霊デインセラフ────セラフィムのことではないかと仮定してみる。
(セラフィムの起源はカルデア神話に登場するセラピムと呼ばれる稲妻の精であり、六枚の翼を持つ蛇の姿で炎の様に飛んだという……ある惑星ではその姿を天使と捉え、崇められている。そしてデインは古の言葉で審判という意味を持つ……とすれば、デインセラフは『裁きを下す者』というような意味合いになるんでしょうかね。ライデインが雷の呪文ですし)
デインセラフの魂が宿った竜────裁きの雷を落とす竜の神。この世界にはとてもしっくりくる存在ではないか。もしかすると今はマスタードラゴンという名になっているのではないか、などとつらつら考えているうちにすっかり楽しくなってしまい、遂に眠るタイミングを逃した。
やむなくアンジェリークを起こさぬようにそっと窓辺へと移動して、月明かりに浮かび上がる砂漠のシルエットを眺め続けていた。
とりとめのない想像の翼がその飛翔をやめた頃、ルヴァはようやく眠りについたのだった。