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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 そうしてかなり奥まった場所に辿り着いた。
 ルヴァが梯子を上り始めたとき、アンジェリークが妙な気配を感じてルヴァを見上げた。
 するとちょうどルヴァの真上から、一冊の本──例の青い表紙の本のようだ──がいきなりぽーんと飛び出して、重力に全く逆らうことなく落ちてきた────ルヴァの頭目掛けて。

 妙に重たい音が響いて、よろけたルヴァが頭を押さえて梯子にしがみつく。

「ルヴァ!」
 図書館では静かにしましょう、という常識すらすっぽ抜けていた。
 よりによって角だった。可哀想に、あれは相当痛い筈だ。

(わたしの宇宙一の頭脳になんてことするのよこのクソ本! ルヴァの脳細胞がちょっとでも減ったら焚き付けにしてやるから!)
 心の中で人様には決して聞かせられない暴言を吐きつつ落下してきた本をなんとかキャッチした刹那、アンジェリークの耳にとても小さな歌声が微かに聴こえて来た。

────……は来た……り……────

(……歌?)
 確かに女性の声だが、何を言っているのか聞き取れないほどに小さい声だった。そしてどこから聴こえて来るのかも分からないままに歌声は途切れた。
「うー、いたたた……あーびっくりしました。アンジェのほうはお怪我はありませんかー」
 するすると梯子から降りてきたルヴァが真っ先にアンジェリークを気遣う。
「わたしは何ともないわ。ルヴァこそ大丈夫? 痛かったでしょ……コブになっちゃわないかしら、心配だわ」
 アンジェリークがすかさずよしよしと撫でてみせるとルヴァの目尻が下がった。
「ターバンの厚みがあったので平気ですよー。でも結構重たかったんで梯子から落ちなくて良かったです」
 そう言って手渡された本の表紙を眺めるルヴァ。アンジェリークも横から覗き込んでみるが、全く読めなかった。
「ね、どういう本?」
 頁をぱらぱらとめくり、中の文章にざっと目を通す。
「ええとですねー、『星空の神秘』という本です。星空にまつわる神話や言い伝えが書かれていますねぇ……これは結構読み応えがありそうなので、ちょっと時間がかかると思います。あなたはその間、お城の散策に行かれてみては?」
「そうね、邪魔しちゃ悪いからお出かけしてくるわ。……ちょっと寂しいけど」
 最後を強調して口を尖らせるアンジェリークに、柔和な微笑を浮かべたルヴァが金の髪を撫でた。
「できるだけ急ぎます。ちょっとだけ待っていて下さいね、アンジェ」
 アンジェリークはひとつ頷いて小さく手を振りその場を後にした。
 その静かな歩みはとても優雅で、かつてぱたぱたと足音を立てていた少女の面影はない。
 それなのに────ルヴァの目の前をあどけない笑みを浮かべ走り去っていく制服姿のアンジェリークが通り過ぎ、扉へ向かうドレス姿の彼女に重なるのが見えた。

「────アンジェリーク!」

 驚いて思わず声を上げた。
 扉に手をかけたアンジェリークが振り返り、しいっと唇に指を当てて不思議そうにルヴァを見ていた。
「あ……いえ、なんでもないんです。すみません、お騒がせしました」
 アンジェリークに手を振り小さく微笑むと、アンジェリークのほうもにこりと口角を上げて扉の向こうへ行ってしまった。
 ルヴァはそれから周囲で書き物をしていた天空人たちに謝り、椅子に腰を下ろした。
(今のは……幻、だったんでしょうかね。白昼夢を見るなんて、疲れでも溜まっているんでしょうか)

 ざわめきと共に聞こえたアンジェリークの笑い声──誰に憚ることなく快活に笑っていたあの頃の声──が、まだ微かに耳の奥に残っていた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち