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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 一方、アンジェリークは図書館を出て西側の棟へと向かっていた。
(さっきのルヴァ……なんか様子がおかしかったわね。本が脳天直撃した後だし、体調悪くしてないといいんだけど……)
 扉の向こうから楽しげな女性の歌声が聴こえて来て、そっと中に入るとそこには耳の尖った女性たちが気持ち良さそうに歌いながら花の手入れをしていた。
 美しい装飾が施された水差しを水場に浸して汲み上げては、色とりどりの花をそっとかき分けて根元の土に水を与えている。
「こんにちは、綺麗なお花ね。少し見ていってもいいかしら」
 アンジェリークに話しかけられた女性がにこやかに答えた。
「ええ、どうぞ好きなだけ見て行ってね」
 笑顔でありがとうとお礼を言って、アンジェリークが再び水場に視線を移したときだった────ぴしゃんと水音が響き、水面にゆらゆらと映像が浮かび上がってきた。

 長い黒髪の女性がオルガンを弾きながら歌っている。
 後ろ姿しか見えないために顔立ちは分からないものの、壮大でゆったりとした調べに乗せて蕩けるような優しく甘い歌声が響く。

「嗚呼、眩き夜明けの空、輝けり……────」

 誰かに恋焦がれているかのような、切ない歌声だった。
 歌い終わると足元でぴょこんと跳ねる青いゼリー状の生き物──ピエールが乗っていた生き物を小さくしたような──が話しかける。
「マーサ様、もう一回歌って! もう一回聴きたい!」
 マーサと呼ばれた女性が両手を出すと、青い生き物が勢い良く飛び乗ってふるりと震えた。
「また歌うの? あなたはこの歌が本当に好きなのね……いいわ、あと一回だけね」
 そう言ってマーサの手の上から飛び降りた生き物を見つめた。
(誰かに似ているわ……わたし、あの目を知ってる。でもどこで……?)
 名前もどこかで聞いたことがある。
 アンジェリークはおぼろげな記憶を少しずつ辿っていった。

────先代のパパス王も攫われたマーサ様を助けるため……

(……そうだわ、確かサンチョさんが言ってた。じゃあこの人がリュカさんのお母様……!)
 オルガンがゆっくりと音を奏で始めた。
 この歌を覚えてリュカに聴かせてあげたい────アンジェリークはその一心で、マーサの歌声にじっと耳を澄ませていた。
 やがてぐにゃりと映像が歪んで、水面には何も映らなくなった。
「……あら、もう見えなくなっちゃったわ。残念〜」
 メロディはどうにか覚えたが、歌詞までは覚えきれなかった────そもそもアンジェリークの使っている言語とは発音がまるで違っていて、覚えきれないのも無理はない。

 そこへ金髪の少年がアンジェリークを見て駆け込んできた────ティミーだ。
「お姉ちゃんみっけ! あのね、お父さんがさ……」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち