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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 階下の長老たちに天の詩篇集を返し、丁重にお礼を述べてからルヴァが質問をする。
「この詩篇集は伝承歌の集まりということでしたが、歌の旋律は口頭で代々伝えているのですか?」
 詩篇集を貸してくれた長老が静かに頷く。
「そうです。譜面に起こしてしまうと悪用されかねないものもありますから……基本的にはエルヘブンの民以外には門外不出なのです」
 古来から歌には言霊が宿ると言われてきた。特にこういう特殊な力を持つ一族であればなお更だ──だが今はその掟を曲げて貰わなければならない。ルヴァはこぶしを強く握り締め、長老たちをじっと見据えた。
「その中の『泡沫の羅針盤』という歌を教えて頂きたいんです。決して悪用はしませんので、どうかお願いします」
 ルヴァの握りこぶしにアンジェリークの手がそっと重ねられて、柔らかな声色が響いた。
「なんとかして元の世界に戻らなくてはいけないんです。わたしたちの代わりは、どこにもいませんから……どうか、お願いします」
 長老の一人がルヴァを探るようなまなざしで見ていた。リュカやポピーとは違う、まるでナイフを喉元に突きつけられているかのような緊張がルヴァの体を支配する。
「あの歌は本来エルヘブンの葬儀で歌われるもの。民を天へと送り届ける為の祈りの歌なんですが……」
 ルヴァは懐から手帳を取り出し、天空城で見つけた「星空の神秘」の写しを読み上げた。
「天空城でこの一節を見つけたんです。『遠き彼方より来たる天の御使いは、聖なる歌声にて眩き扉を呼び覚まして帰らん。不思議な力を秘めし民より引き継がれし聖なる歌は、神の息吹となり天つみ空を駆け往かん』と。それを手掛かりに今日こちらへ伺って、見つけたのがあの『泡沫の羅針盤』でした。葬儀で使われるとのことですが、それはもしや海の神殿で行われていたのではないですか」
 眉根を寄せて困ったような表情の長老たちを取り巻くぴりぴりした空気が、数秒の沈黙の後でふいに和らいだ。
「偉大なるマーサの子、リュカが連れてきた方々ですからね。信用に値するのでしょう……。仰る通り、かつてエルヘブンの葬儀は全て海の神殿で行われておりましたわ」
 長老たちのリュカと同じ黒曜石のような瞳に優しさが浮かび、口角が上がった。
「良いでしょう……特別にお教えするとしましょう。それで誰が歌うのですか」
 アンジェリークが顔を上げた。翠の瞳が長老を見つめる。
「あの、わたしが歌います」
「そうですね……そのほうが宜しいでしょう。あなたからは我がエルヘブンの民と似た波長を感じます……すぐに練習を始めますか」
「はい、早速お願いします」
 即答すると長老たちがルヴァとリュカ一家に視線を流した。
「ということですので、あなた方はどこかで時間を潰してきて下さい。今日はひとまず宿をとると良いでしょう」
 リュカが驚いた声を出した。
「そ、そんな時間かかっちゃうんですか!?」
 長老の一人がくすりと微笑んだ。
「ただ旋律通りに歌うだけではないのですよ、リュカ。旋律に魔力を乗せなくてはいけません。それを習得するのに多少の慣れが必要ですが、その疲労度はかなりのものとなるでしょうから、今日は彼女をゆっくりと休ませておあげなさい」
 一見厳しそうに見える長老たちだが、心根はその声色と同じくとても優しいのだろうとアンジェリークは安堵した。マーサをこの塔に閉じ込めていたのも、彼女の身を案じてのことなのかも知れない──どことなくジュリアスの優しさと不器用さに通じるものを感じ取り、アンジェリークの口元がほんの少し緩んだ。
 リュカがアンジェリークに視線を向けてにこりと頬を上げた。
「分かりました、じゃあぼくらはこれで一旦失礼します」
 一家が祈りの塔を後にして、一人残ったルヴァがアンジェリークの側に寄って耳打ちをした。
「アンジェ、大変だとは思いますが頑張って覚えて下さいねー。私は皆さんと宿にいますから……健闘を祈っています」
 任せて、と微笑むアンジェリークに頷いて、ルヴァも退出していった。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち