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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

INDEX|86ページ/150ページ|

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「準備はできましたか? 忘れ物がないようにして下さいね。ぼくは最後にまた崖っぷちまで行ってきます」
 崖と聞いた途端にルヴァの体が硬直して、アンジェリークが不思議そうに首を傾げた。
「崖っぷちまで行く、って?」
 ルヴァが左右に首をぶんぶんと振っている。
「崖から飛び降りて、その途中でルーラする遊びなんです。昨日はルヴァ殿と一緒に落ちたんですよー」
 そのとても楽しげな様子に、リュカとお連れの方がどうのと衛兵が言っていたことを思い出し、このことかと内心合点がいくアンジェリークだった。
「なーんだ、やっぱり昨日の声はルヴァだったのね! でも危険なんじゃないですか、その遊び」
 ルヴァは昨日ケロリとして戻ってきていたのだから、そこまで危険ではないのかも知れない、と顎に指を当てて考え込む。
「いえいえ全然! でも飛び降りるんで結構恐怖感はあるかと……良かったらこれからアンジェリーク殿もやってみますか? エルヘブン入り口前にルーラできますから」
 その言葉にルヴァはぎょっとした。自分の目の前で堂々とアンジェリークを誘うなど、なんて不埒な人たらしだ────と言いたくても言えなかったため、なんとなくそれらしい理由で阻止を試みる。
「なっ! だ、だめですよリュカ殿! 宇宙において大切な至高の存在である女王陛下に、あああんな危険なことは────」
「わあ、面白そう! やってみます!」
 無邪気なアンジェリークの一言に、ルヴァの心配は音を立てて崩れ去った。
「じゃあルヴァ殿とポピーは、ティミーとビアンカが来たら一緒に入り口前まで降りておいて下さい。後で合流しましょう!」
 すいと差し出されたリュカの手をアンジェリークが取った。
 それからちらりとルヴァのほうを向き、ちょっと行ってきますね、と可愛い声で告げていく。
「スカートが絡まると危険ですから、ぼくが抱っこしていってもいいですか?」
 少し恥ずかしそうにこくりと頷くアンジェリークを軽々と横抱きにして、颯爽と駆け出すリュカ。
 いくらアンジェリークが軽いとはいえ、成人女性を横抱きにして急な階段を駆け上がれるタフさには脱帽する。
「…………」
 ルヴァはそんな二人の様子を呆然と見つめながら、自分の顔が歪み始めたことに気付き慌てて手でさすった。
 他意はないと分かってはいるが────妻子持ちの癖に人の恋人にベタベタ触れるのも不愉快だし、きっぱり断らない彼女にも腹が立つ。
 二人の姿がなんだかお似合いに見えてしまった己の自信のなさには、正直一番腹が立つ。
「……………………」
 きゃーきゃー叫んだアンジェリークがリュカにぎゅっとしがみつく様を想像しただけで胃がむかむかした。
 どんどん能面のような表情になっていくルヴァを見て、ポピーが恐々と声をかけてきた。
「あの……ルヴァ様、ごめんなさい。お父さんってお母さんだけじゃなくて色んな女の人にも優しいから……」
 決してフォローになっていない娘の言葉に、それはどうなのかと心底思った。
 醜い嫉妬だとは自覚していても、そういう態度は子供の教育上良くないんじゃないですかね、などと嫌味の一つや二つも投げつけてしまいたくなる。

 そしてまた扉が軋み、ようやくビアンカとティミーが出てきた。
「あれ、リュカは?」
 きょろきょろと周辺を見回すビアンカに、ポピーが困った顔で告げ口をしていた。
「聞いてよお母さん。お父さんったらまた崖行っちゃったの。今度はアンジェ様連れて」
 ポピーの言葉にビアンカはぽりぽりと頬を掻いて片眉を上げた。
「あらら、また? 懲りない人ねー。……ああ、それでルヴァさんは仏頂面してるのね? もー妬いちゃって可愛いんだからー!」
 からからと笑うビアンカは全く気にも留めていない様子だ。
「別にそういうわけではないんですが……しかし、あの、ビアンカ殿は気にならないんですか。そのー……他の女性にも優しいこと、とか」
「ん、何が? 浮気とかそっち系の心配ってこと?」
 ずばりと直球でものを言う彼女とは、回りくどい腹の探り合いなどは無用だ。それに少々面食らいながらもルヴァはぽつりと答えた。
「え……ええ、まあ、そういう意味合いで」
 青空のような瞳を緩く微笑ませてビアンカがきっぱりと言い切る。
「別に気にならないわよ、わたしが一番だもの。それにただ優しいってだけで、どうこうなってるわけじゃないし。あの人のタラシっぷりは種族と性別を問わないってことね!」
 確かに────人を惹きつけるどころか魔物まで虜にする彼は誰に対しても優しい。それはアンジェリークにも同じことが言えるために、やはり少々心配だったりもする。
 そんなルヴァの胸中を察してか、ビアンカが悪戯っぽく片目を閉じて笑った。
「あの人ね、お母さんの記憶がほとんどないでしょう。だからパパスお義父様とサンチョさんの教育通り、何にも疑うことなく紳士に育っちゃったのよねー。六歳の頃には既にああなってたわ」

 そのとき、絹を裂くような女の悲鳴が響き渡った────アンジェリークだ。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち