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LIFE! 9 ―Memorial―

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 オレが答えると、凛は、ね? とセイバーを安心させている。心から納得はしていないようだが、セイバーも頷いて玄関へ向かった。ランサーもそれに続く。
「あ、そうだ。アーチャー、あんた、なんて登場の仕方をするのよ!」
 思い出したように廊下の手前で立ち止まって、凛はこちらに矛先を向けてくる。
 オレがランサーの営業車の屋根から飛んで、あの記者の輪を飛び越え、士郎の前に降り立ったことを、凛はイレギュラーすぎるから却下だと怒っている。
 しかし、一秒をも争う状態だったのだ、あんな中に士郎を長く置いておくわけにはいかなかった。
「しかも、概念武装で飛び込むなんて、校庭から見えた時は焦ったわよ!」
 凛の言うことも一理あるのだが、それよりもオレには士郎の方が心配だった。
「まったく! 士郎が令呪を使わなかったのが救いね。あんな人たちに囲まれて、令呪でアーチャーを呼んだりしたら、それこそ奴らの餌食よ」
「時間が惜しかったのだ」
 当然だろう、と言うと、凛は目くじらを立てた。
「あんなねぇ、いきなり空から降ってくるみたいな出現の仕方はだめよ!」
「しかし、時間が、」
「問答無用よ!」
「っ!」
 お仕置きとばかりに、わき腹に肘をお見舞いされた。不意を突かれたとはいえ、一瞬息が詰まって、前屈みになる。
 我ながら、情けない……。
「あんたが動揺してどうするのよ」
 静かに言われて、わき腹を押さえたまま凛を上目に見る。
「気持ちはわかるけど、一番辛いのは士郎よ。しっかりして。じゃなきゃ、セイバーに大丈夫って言った私の立場がないじゃない」
 静かに凛に諭され、自分が動揺していたことにようやく気づいた。
 あんな士郎を見たのは初めてだった。不安定さが思念として流れてくるほどに士郎は震えていた。
「ちゃんと、看てあげなさいよ」
 凛はオレに言いつけ、玄関に向かう。
「は……、そうだな……」
 オレが動揺していてどうする。今は士郎の心を安らかにしてやることが先決だというのに……。
 凛の面倒見の良さは、相変わらずだな。
(まったく、いつまで経っても頭が上がらない)
 少女の背を、苦笑交じりに追った。

「んじゃ、嬢ちゃんたち送ってくわ」
「頼んだぞ、ランサー……、あ、いや、待て」
 凹みと穴の開いたランサーの営業車の屋根に手をかざす。
「投影、開始」
 緑光が車の屋根を撫でていき、穴と凹みが消えていく。
「おお、サンキュー。つか、今度はいきなり穴開けんなよ。誰だって事故っちまうかんな、いきなり天井から拳降ってくりゃ」
「ああ、すまなかったな。今後は気を付けるとしよう」
「次なんざ、ねぇよ……」
 呆れた口調のランサーに、
「問題ない。屋根は少々のことでは凹まないように強化しておいた。私の拳も通らないだろう」
 ふふん、と口端を上げて言うと、
「もう、屋根に乗るんじゃねぇ……」
 ランサーは目を据わらせて、ため息をついていた。



「士郎、起きていたのか……」
 士郎の部屋に食事を持って向かうと、部屋の前の縁側で赤い外套を肩にかけたまま、夜空を見上げていた。
「うん。さっき、目が覚めた」
「大丈夫か?」
 食事を載せた盆を脇に置いて、士郎の頬にそっと触れる。
「うん。アーチャーが来てくれるなんて、思ってなかったから、すごくうれしかった」
 笑顔に翳りはない。ホッと胸を撫で下ろした。
「俺、令呪使ってないよな?」
 左手を見ながら確認する士郎に食事を渡す。
「どうして、アーチャーは来てくれたんだ? 何か用事があった?」
「ああ、聞こえたからな、士郎の声が」
「聞こえた? 俺の声が?」
「ああ」
 お茶を淹れながら、あの時の声を思い出した。
 “こわい、こわい、こわい、こわい……、アーチャー、こわい……”
 喫茶店のバイトが終わってすぐだった。帰宅しようと思って、バックヤードでシャツのボタンを外した瞬間、強烈な思念が飛んできた。
 頭痛を伴うその思念が尋常ではないとすぐにわかり店を飛び出した。
 時間的に学校だと当たりを付け、周辺を探りながら走っていると、ちょうど車で配達中のランサーがいたため、概念武装に切り替え、ランサーの車の屋根に跳び乗った。
 屋根を凹ませてしまい、ゲイボルクで串刺しにされそうになったのだが、訳を言うとランサーも二つ返事で了承し、全速力であそこに到着した、というわけだ。
「ランサーの営業車、凹ましちゃったのか……」
「凹ませて、穴も開けたが心配ない、きちんと直して、強化もしておいた」
「穴?」
「ああ、ランサーがアクセルを全開にしたので、振り落とされないよう屋根に掴まるために」
 手をグーパーとして、見せると、さすがだ、と士郎は笑った。


「アーチャー、魔力、足りてるか?」
 風呂上りの士郎の髪をタオルで拭いていると、ポツリと士郎がこぼした。まだ赤い外套を身体に巻き付けている。士郎の不安定さが手に取るようにわかる。
「士郎、こういうときは、魔力など関係ない」
「……アーチャー、俺、人が怖いって初めて思ったんだ」
 琥珀色の瞳を潤ませて、見上げてくる士郎を抱きしめる。背中を撫でて士郎が落ち着くのを待つ。
「来てくれてありがとう、アーチャー」
「士郎を守るためなら、どこへでも行ってやる」
「正義の味方みたいだな……」
「オレは士郎だけの味方だ」
 今夜は甘やかして蕩けさせて、何もかも忘れさせてやる。
 オレで包み込み、その上にこの赤い外套――外界からの守りであるこの聖骸布で包み込んで士郎を癒してやる。
 傷つかないように細心の注意を払って、士郎を温めた。

「アーチャー……」
 聖骸布に包まれたまま、まだ、ほんのり色づいた頬をして、オレを呼ぶ。
「どうした?」
「俺、忘れたいなんて思ってない。あの日が俺の原点だから。あそこから、俺は生きてきたから。だけど、それをどうだったかなんて、人に伝える必要なんて、あるのか? 俺の中でのあの風景は、俺にしか理解できないと思うんだ。だから、他の人に言ったって、わからないと思うから、誰にも言いたくないんじゃなくて、誰にも言う必要がないって、思う。それは、俺の身勝手なのか?」
 琥珀色の瞳は真っ直ぐにオレを見つめている。
「オレもそう思う。だが、人は知らないことを知りたいという知識欲が旺盛だ。特に今日のような記者と名の付く人間はな。だから、それも仕方のない性なのだということも、わかる」
「じゃあ、やっぱり、ちゃんと話した方がよかったのか……」
「そういう人間もいる、ということだけ知っておけばいい。わざわざ痛みを伴う記憶を晒してやることなどない。ただ、事実をそのままに受けとめていると感じられる者には、それなりの理由があるはずだ。ああいう囲みこんで何かをしようとする者は放っておいてもいいが、そうではない者に真摯に答えてやるのは、生き残った者であるお前の務めかもしれない」
「アーチャーは、やっぱり俺の正義の味方だなぁ」
「士郎の味方であって、正義の、ではない」
 きちんと訂正すると、士郎は自身をくるんでいた聖骸布の端を持ったまま抱きしめてくる。
「俺の、って言っただろ」
 不平の声は笑っていた。
 よかった、士郎が元気になってくれて。
作品名:LIFE! 9 ―Memorial― 作家名:さやけ