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LIFE! 9 ―Memorial―

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 もともと士郎の心は強いのだ。オレを打ち負かしたほどなのだから、相当に。
「これ、汚れてしまうか?」
 士郎が聖骸布をつまむ。
「必要ないならもう仕舞うが?」
「えー、俺、これ好きだなぁ。あったかくて、アーチャーそのものみたいなんだ」
 言うに事欠いて、何を言ってくれているのか、この天然マスターは!
 そういうことを平気で言うから、凛にほくそ笑まれ、セイバーに睨まれ、金ぴか王までほだされ、オレの悩みの種になっているというのに……。
「後で出してやる。今は邪魔だ」
 むう、と唇を尖らせても、可愛いだけだぞ、マスター。
「絶対、出してくれよ!」
「わかった、わかった」
 聖骸布を掴んで消した。士郎の上気した身体が露わになる。心許なさからか、士郎はしがみついてきた。
「士郎、そんなに慌てなくても時間はたっぷりあるぞ」
「このスケベ」
 オレの肩に顎を載せて呟いた言葉には承服しかねるが、まあ、このくらいは許容範囲だ。照れ隠しの悪態はいくらついても可愛いだけ。
「士郎、少しの間、学校は休んだ方がいい」
 コクと頷く士郎に、口づける。
「どうしても行かなければならない時は、オレが送迎してやる」
「やだよ、なんか、保護者みたいだろ」
「保護者に違いはないが?」
「い、や、だ。絶対、好奇の目に晒されんだから……」
「なら、空を跳んで――」
「目立ち過ぎだろ! 概念武装で俺抱えて空から登校なんて、余計変なのに囲まれるわ!」
「まあ、確かに」
 ということで、休みの決まった士郎に遠慮はいらない。オレは思う存分、士郎を“癒す”ことに専念することができる。
 士郎が憚ることなく求めてくる。はじめからこれほどに求めてくる士郎は、初めてだった。オレの方がどうにかなりそうなくらい余裕がなくなってしまう。もっと熱く、もっと奥まで、と息を乱しながら、声を嗄らしながら、士郎は少しだけ涙をこぼした。
 不安だらけだった士郎の思念から、不安感が次第に薄れていく。こんな紛らわすようなやり方でいいのだろうか、と思いながらも、士郎に求められてオレが止まれるはずがない。
 魔力を貰う気も、パスを繋ぐ気もなかったのだが、いつにも増して深く士郎と繋がっていたからか、魔力の供給を受けてしまった。
 流れ込んできた魔力は、とびきり甘ったるい。
(いつも以上に腰にくる甘さだ……)
 呼吸を整え、士郎を見下ろすと、びくびくと震え、いまだ痙攣を繰り返している。
「士郎、魔力まで、もらってしまったな……」
「俺……、なんか……変……」
 吐息交じりに、ぼんやりと呟く士郎の艶っぽさに、また身体が熱くなりそうだ。
「おかしくはない、こういうときも、あるだろう」
 目尻の涙を唇ですくう。
「……中が……まだ……熱い……」
 士郎の言葉に、顔に熱が集まるのを感じる。
「士郎、そういう不意打ちは……」
「赤く……なった……」
 へへ、と笑う士郎に、口づけた。

「なあ、さっきの、なんだったんだろ?」
 風呂で身体を流し、再び自室に戻って聖骸布に包まれたまま士郎は訊いてくる。
「ああ、まあ、士郎が、大人になってきたということだろう」
「は? なんだよ、俺、子供じゃないぞ!」
 不満げに言うが、まだまだ子供だ、ああいうことに関しては。
「士郎がうまくなってきた、ということだ」
「うまくっ?」
 ムッとしていた顔が、今度は動揺している。
 くるくる変わるこの表情が愛おしい。
 オレの失った表情がこんなに愛らしいものであったとは思えないが、いつか、オレにもこんなふうに表情を豊かにすることができる日が来るのだろうか、士郎といれば。
「なんだよ、笑うな!」
 士郎が両手で頭をガシガシと引っ掻き回す。オレも士郎の赤銅色の髪を撫でる。
「アーチャー」
 目の前の琥珀色の瞳が見つめてくれる。
「もっと笑ってくれ」
 笑うなと言ったり、笑えと言ったり、まったく、忙しいマスターだ。
「では、士郎も笑わなければな。オレは一人で笑えるほど能天気ではないので」
「ったく、素直に笑ってれば、いいんだよ!」
 言いながらキスをくれる。そのまま一緒に聖骸布で包んでくれる。
 温かいこのマスターに包まれて、オレもとても温かくなった。



***

「えっと、どちら、様?」
 チャイムが鳴ったので玄関を開けると、そこには見知らぬ男が立っている。
 夕闇はもう夜になろうとしている頃合い。玄関の明かりに照らされる、目深に黒っぽいキャップを被り、黒いダウンジャケットを着て、俺よりも背が高い男が無言でいる。
 アーチャーで見慣れてるから、自分より背の高い男に、それほどの威圧感は感じない、だけど……。
(なんだろ、この刺々しい感じ……)
 俺の僅かな不安感を察したのか、アーチャーが庭の方からやって来た。
「ご用件は?」
 背後から現れたアーチャーに、男は驚いた様子だ。一度、振り返ったけど、またこちらに向き直った。
「その……、士郎だろ?」
「え?」
 俺を知ってる?
「昔、一緒に遊んだろ、今、なんにもない公園にあった、あの辺で」
 なんにもない公園って……。
「神崎みのり。同級生だったろ? おれの妹と」
 妹? 神崎? 誰? 誰だ?
 ああ、記憶があそこまでしか行かない。あの熱風の中までしか戻らない。その前の記憶、俺はどこにしまっちゃった?
「なあ、妹は、みのりは近くにいなかったのか?」
「え……?」
「お前が助かったんなら、おれの妹だって、助かってるかもしれないだろ? なあ、教えてくれよ、みのりは――」
「お引き取り願おう」
 答えることができない俺を庇うように、アーチャーが神崎とかいう男の間に割り込んだ。
「なんだよ、あんた!」
「衛宮士郎の保護者だが? そちらこそ、何者だ」
 アーチャーの背中で、俺を知る神崎という男が見えなくなって、正直、安心した。
「さっき、言っただろが、こいつの同級生の神崎みのりの兄貴だ。十年前の火災で、おれ以外の家族はみんないなくなった。そいつ以外の人間は誰もいなくなった。だったら、そいつに訊くしかねぇだろ、おれの家族、妹がどうなったかを!」
 アーチャーに食ってかかるなんて、命知らずだなぁ、と呑気にかまえていられるのは、俺がアーチャーに守られているからだ。俺をその広い背に庇って、物理的な攻撃以外からも守ってくれている。
「彼には記憶がない。君のことも覚えていない。その妹のこともな」
「なんで、あんたにわかんだよ、そんなこと! こいつにちゃんと聞いたのかよ!」
 アーチャーを押し退け、俺に手を伸ばしかけたその腕を、アーチャーは掴んで捻り上げる。
「痛ってぇ、てめぇ!」
 ほんとに、命知らずだ……。
 腕を背中に捻り上げられているのに、まだアーチャーに食ってかかっている。
「アーチャー、あの……」
 玄関を一歩出たら、
「士郎、中に」
 と、こちらを振り向いてアーチャーは俺を止める。そして暴れる神崎を引きずって行ってしまう。さすがに、サーヴァントの力に普通の人間が敵うわけないよなぁ。
「アーチャーは冷静だし、危害を加えたりはしないだろうけど……」
 だけど、あの神崎って奴の言ったことが気になる。塀の内側から二人の様子を窺うことにした。



***

「なんっだよ、放せ!」
作品名:LIFE! 9 ―Memorial― 作家名:さやけ