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LIFE! 9 ―Memorial―

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 そう言ったら、パッと手を放され、よろめく。
 おれを引っ張って来たこの男は、衛宮というこの屋敷の門を出て、塀沿いに少し歩いてきただけ。遠くに行く気はないみたいだ。そうか、あいつの保護者だし、あいつのことが心配なんだな。
(面倒くせぇやつがいる……)
 じっとこっちを見下ろしてくる、なんだか色素の薄い気味の悪い瞳に、威圧されそうになる。ガタイもいいし、力も強いことは実証済みだ。どうするかな……。
 少し考えた。でも、やることは一つだ。
「あいつの話、聞かせろってんだよ!」
「言っただろう、記憶がないと」
「んなの、わかんねぇだろ!」
「どんなものか知っているのか、お前は」
 この威圧感、半端ねぇ。でもおれだって負けてられねぇんだ。
「大火事で大惨事だってんだろ、知ってるよ、んなこと! いまどき小学生だって学校で習うぞ!」
「私が言っているのは、その実態のことだ」
「実態?」
「彼の記憶は十年前からしかないのと同じ。忘れたわけではないが、それ以前の全てを閉じ込めている。考えてもみろ、知り合いが目の前で死んでいくのを助けることもできず、立ち去れば罵られて、十に満たない子供に、そんな過酷な現実が圧し掛かったのだ、自衛のために忘れようとしたとしても仕方がない。
 それでも訊こうというのか、炎の中を彷徨った、彼の心が死んだ日のことを」
「心が、死んだ……日……?」
「あの火災で命を落としたご家族は気の毒だと思うが、それをたった一人生き残ったからといって、彼にどうこうしろと押し付けるのはお門違いだ」
「何がわかんだよ。あんたにおれの何が? おれだって一人残された。一日で家族を亡くした。おれがちょっと入院してる間に、みのりまで……」
「だからと言って、彼には関係のない話だ」
「んだと、てめぇに何が――」
「何も知らないのは、お前の方だ」
 なんだよ、この男。□□士郎の保護者って言ってたけど、なんだ、この今にも斬りかかってきそうな感じ。
「心が死んだ人間が、どうなるかも想像できない者に、彼をどうこう言う資格などない」
 なに言ってやがる。このひと月ほど見てたけど、□□士郎は、学校でも楽しそうに笑ってやがったぞ!
 この家にしても、なんかでけぇし、いっぱい人の出入りがあって、いっぱい人に囲まれて、楽しそうで、楽しそうで!
「おれの妹はあの時、死んじまったのに、どうしてあいつだけ、今も楽しそうに生きてるんだ!」
「それが、本音か」
 この男、でけぇから、見下ろしてきやがるのがムカつく。こんな用心棒みたいな奴があいつの側にいるのも予想外でムカつく。
 ああ、ムカつく、ムカつく……。
 ぶっ壊してやろうと思ったのに、幸せな顔して生きてやがる。□□士郎なんか、おれみたいにのた打ち回って生きてりゃいい。この手で二度と太陽の下なんか歩けないとこに引きずり込んでやろうと思ってたのに、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!
「てめぇ、落ち着き払って、ムカつくったらねぇな」
 呟いて、腰の後ろに手を回して、カーゴパンツにはさんでいたサバイバルナイフを引き抜いた。
(このデカブツもぶっ壊してやる)
 デカブツめがけて飛び込んで、真横にナイフを走らせる。咄嗟にデカブツは腕で防ごうとしてる。
(腕、使い物にならなくなっても知らねぇけどな)
 キン!
(なんだ?)
 確かにこのデカブツの腕を切ったと思ったのに、弾かれた?
 金属がこすれるような音も微かにした。こいつ、何か持ってる。
「本音も本音なら、やることもあくどいな。記者に情報を流したのはお前か」
「だったらどうだってんだ? ちょうど十年って区切りだ、テレビも雑誌も飛びついてきたぜ」
 一瞬、デカブツを中心にして風が起こった気がした。
(なんだ? 今、なんか光ったようにも見えたけど?)
 おれを見下ろす目が、尋常じゃない。
(なんだ、こいつ……、なんだこいつ!)
 寒気がして、さっさと終わらせたくなる。なのに、何度ナイフを振り回してもかわされる。しかもこいつ、余裕の面してやがる!
「ムカつく奴だな、てめぇ!」
「やめろ!」
 デカブツから距離を取って、仕切りなおそうとしていたところに、頭上から声がする。
 塀の天辺に葺かれた瓦から、おれの背後に飛び降りた小柄な影。明るい色の髪が、街灯に照らされる。□□士郎が立っていた。
 振り返って、ちょっと驚いたが、けど、まあ……。
「へ、ノコノコ出てくるって……、ラッキー!」
 言いながら、□□士郎へと標的を変更した。おれの目的はあのデカブツじゃないし、それに、大本命のこいつの方が近い。
「士郎!」
 デカブツの声が聞こえた。
(もう、遅ぇよ、ざまぁ!)
 ナイフを真横に薙いで、刃が□□士郎に届く直前、何かが後ろから飛んできて、おれの頬をかすめた。それを□□士郎は左手で受け取ったみたいだ。それから、おれのナイフをなんの構えもなく受け止めた。
 キィンと甲高い音がする。手が痺れて、ナイフを落としそうになる。
「へ?」
 何が起こったのかわからない。
「アーチャー! ストップ!」
 何かが街灯の灯りを遮っていることに、おれはやっと気が付いた。目を向けると、デカブツが変わった形の刃物を高く振り上げたままで、止まっている。
「士郎、止めるな」
 なんだ、こいつら。なんだよ、このデカブツ保護者って、言ってたよな?
 なのになんで、□□士郎のが立場が上みたいな感じで……?
「俺がやる」
「は?」
 □□士郎の言葉に、おれは間抜けな声を上げていた。そして、ナイフごと右手を下へ押しやられる。
(こいつ……)
 おれよりも華奢に見えるのに、なんて力だよ。しかも、平然として、左腕一本で……。
 驚愕して目の前の□□士郎を見る。おれよりも小さい体つきで、ガキみたいな顔してんのに、こいつの目は喧嘩慣れしたガラの悪いヤツらよりも、ずっと迫力があった。
 不意に右手にかかった圧力が消えたと思ったら、ナイフを弾かれる。地面に転がったナイフを咄嗟に取ろうと、手を伸ばす。
「アーチャーに、何してくれてんだっ!」
 言いながら、おれに背中を見せた□□士郎の意図がわからず、おれはじっと見ていた。くるりと一回転した□□士郎の顔が見えた瞬間、吹き飛ばされる。痛いとか思う間もなく、おれは塀にぶつかって、そのまま意識が遠のいた。



***

「士郎、やりすぎだ」
「アーチャーこそ、干将・莫邪とか出しただろ」
「オレは、実害は与えていない」
「だって、こいつが……」
 アーチャーに斬りかかったから。俺は気が気じゃなかったんだ。サーヴァントは普通の人に手を上げられないと思ったら、身体が勝手に……。
「まあ、とにかく中に入ろう」
 アーチャーが塀にもたれたまま意識のない神崎を肩に担ぐ。
「それにしてもアーチャー、概念武装って……」
 神崎を蹴り倒した俺もあれだけど、一般人相手に武装するアーチャーも、どうかと思う。
「士郎が出てくるからだ。間に合わないと思った」
「俺だって、戦えるんだぞ」
「身体が勝手に動くものは仕方がない」
(同じようなこと、言ってる……)
作品名:LIFE! 9 ―Memorial― 作家名:さやけ