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LIFE! 9 ―Memorial―

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 少し、可笑しくなって、アーチャーが投げて寄越した莫邪と、神崎のサバイバルナイフを持ち、アーチャーと並んで家に戻った。干将はすでにアーチャーが消していたようだ。
「日が暮れててよかったなぁ」
「ああ、確かに」
「アーチャー、ケガは?」
「皆無」
 ま、予想通りだけど、念のために確認だ。アーチャーのマスターとして、このくらいは全うしなければ。
 神崎を居間の座布団を敷いた上に寝かせ、簡潔に答えるアーチャーに俺は笑顔を見せる。
「よかった」
「士郎は大丈夫なのか?」
 頷くと、俺の頭を撫でてくれた。

「夕飯の準備をしなければな」
 アーチャーが立ち上がったのを見て、思い出した。
「俺、洗濯物たたんでる途中だった!」
 慌てて居間を出ようとすると、アーチャーは座卓の上に置かれた神崎のサバイバルナイフを見ている。
「ふむ……」
(なに見てんだろ?)
 思いながら居間を後にする。
「まあ、こんなものだろう」
 アーチャーの独り言が聞こえた。
「士郎に何かしようなどと、百万年早いぞ、ガキ」
 その後に吐き捨てられた声は聞こえなかった。



***

「あ、目、覚ました」
 琥珀色の瞳が覗き込んでくる。
 あれ? □□士郎が、なんで?
「警察沙汰にならずに済んだな」
 少し遠くから冷静な声が聞こえる。
「やっぱ、俺が悪いことになる?」
「いや、正当防衛だ」
「でもアーチャーも持ってただろ?」
「……正当防衛だ」
 なんだろ、こいつらの会話。なんか、ついていけない感じがする。
「士郎、そろそろ凛たちが来る」
「え、もう? まだ俺、皮むき終わってないぞ!」
 慌てて□□士郎は立ち上がり、台所らしきところへ行ってしまった。
「急げ、門をくぐったぞ」
「うそだろぉ!」
 なあ、あんたら、おれのこと放置?
 ナイフ振り回したおれを放置していいのか、おい?
「士郎ー、調子はどーおー?」
 身体を起こしたところで、若い女の声が近づいてきた。
「何、こいつ?」
 すげぇ、可愛い子がおれを見下ろしてる。
「遠坂、セイバー、おかえりと、いらっしゃい」
「シロウ? お客さまですか?」
 もう一人いた! しかも金髪? なんだ、このS級クラスの美人たちは!
「ああ、暴漢」
 さらっと言ったよ、あいつ!
「なんですって?」
 美人が二人、鬼のような形相に……。空気が氷のように冷たく……。
 思わず壁に張り付いた。
「よー、なんか飯食わせてくれー」
 なんか、またでかい男が入って来たのが鬼の美人の向こうに見える。もしかして助けてくれる、かな?
「ランサー、一昨日はありがとな」
「おう、坊主、もう平気なのか?」
「ランサー、マスターに気安く触るな」
「いいだろ、頭撫でるくらい、なあ、坊主!」
「やめろ。減る」
「相変わらず、嫉妬深ぇなぁ」
 おれのことなんか、眼中にないんだな……。
「雑種! またアレを作ってくれ!」
 今度はすげぇ金きらの男が来た!
「ギル、今日は鍋だから、お子様ランチはまた今度にしてくれ」
 は? お子様ランチ? 金きらの奴が? 大人、だよな?
「む。鍋か……。それも捨てがたいな」
「だろ? 里芋いっぱいで、おいしいぞ」
「うむ。では鍋にしよう」
 なんか、いっぱい変なのがいすぎて、どうなってんだ、ここは!
「で? 士郎、暴漢って何やったの、こいつ」
 目の前の黒髪のお嬢さんが、冷たい口調であいつに訊いてる。
「ああ、アーチャーにナイフで斬りかかったから、俺が蹴っ飛ばしたら、脳震盪起こして寝ちゃったんだ」
 身も蓋もねぇ言い方すんなよ……。
「そいつはマスターを逆恨みしていた。マスターが幸せそうにしてるのが許せないとか、言っていたか」
 あのデカブツ、さらっとなに言ってんだよ。って、なんだ? 空気がさらに冷えてきたぞ?
「リン」
「いいわ、セイバー、やっちゃって」
 やるって、何をっ?
「坊主に逆恨みねぇ」
 なんか、青い髪のお兄さんが、赤い棒みたいなの持ってんだけど?
「雑種が幸せで何が悪いか、この虫けらが」
 金きらの人の後ろに、なんかいっぱい見える!
「エ、ク、ス、」
「はーい、ストップ! ご飯できたから、食べようー」
 緊迫した空間に、拍子抜けするくらいの呑気な□□士郎の一声に、みんなおれから興味を失い、離れていった。それぞれに座卓について、鍋を囲んでいる。
「あんた、食べられる?」
 壁に貼りついてたおれに、□□士郎が箸とお椀を差し出してくる。
「早くしないと、なくなっちゃうからさ。こいつら、すごい食べるんだ」
 □□士郎は笑ってる。あのデカブツは心が死んだって言ってたのに……。
 座卓につくと、デカブツがご飯を手渡してくれる。すげぇ勢いで金髪の女の子がご飯を食べてる。こっちでは青い髪の男が、同じような速さで。さっきの金きらの兄ちゃんはなんだか、優雅に食ってるし、ツインテールのお嬢さんも静かに食べてる。
「アーチャー、おかわり」
 ご飯茶碗が行きかう。
「早く食べないと、なくなるぞ」
 お玉で□□士郎が色々鍋からすくってくれる。
 なんか、いいなぁ、こういうの……。
 おれには、なかったなぁ、あの十年前から……。
 ご飯と鍋をかっ込んだ。
 なんか、しょっぱいのは、きっとおれのせいだ。鼻水が垂れんのは、あつあつの鍋だからだ。


「じゃあね、士郎おやすみ。今週は家にいなさいよ」
「はいはい、わかってるって」
「シロウおやすみなさい、また明日」
「うん、明日な、セイバー」
「坊主、またな」
「ランサー、魚釣れたら、また持ってきてくれよな!」
「雑種、今度は必ずだ」
「わかったって。でも前もって連絡してくれるとありがたいんだけどな」
「では、今度からはそうしよう」
 金きらの男は□□士郎の顎をついと指先で取って、顔を近づけていく。
 え? マジか、こいつ、と思ったら、デカブツが金きら頭を寸前で押し留めた。
「む、フェイカー、何をする」
「さっさと帰れ、金ぴか王」
「ふむ。まあ、夕餉の礼に素直に帰ってやろう」
 ではな雑種、と□□士郎の頭を軽く撫でて優雅な足取りで帰って行った。
 そうして、とりあえず、おれは謝ることにした。
「悪かったな」
「ああ、いや俺の方こそ……」
「あと、ごちそうさん。……えっと、お前、幸せだな」
 見開かれた目には、澄んだ琥珀色の瞳。
 こんなにきれいなのに、心が死んじまったなんて、信じられないな。でも、あんな奴らに囲まれてるから、きっとまた命を吹き返したんだろう。
「これを返すのを忘れていたな」
 デカブツが革のカバーに入ったサバイバルナイフを差し出してくる。
「あ、ああ……、これ……」
 おれは暫し言葉が出ず、じっとそれを見つめてしまう。虚勢を張って強がってきた証のような、刺々しいナイフ。
 実はもう、こんなものは必要ないとわかってたけど、おれが持ち帰らなきゃな。
 受け取ろうとすると、デカブツは、それを引っ込めて、
「ちなみに、刃は切れないように潰しておいた。先端も危険なので丸く、この凸凹も丸めておいてやったぞ」
 カバーから引き抜かれた、なんか丸々したナイフもどきに、
「ア―――――ッ! おれのナイフが、おれの、おれの!」
 叫びながら、それを受け取った。
作品名:LIFE! 9 ―Memorial― 作家名:さやけ