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 「さて、安室君。彼女の指示に従って行動を起こすとしようか?」
赤井はそう言うと、さくさくとコナンの着衣を脱がして、自分も一糸まとわぬ姿となって浴室へと足を運んで行った。
「お前に命令される筋合いは無いっ!!」
つい赤井に食って掛かってしまった安室だったが、遅れをとるのは不本意だったので自分も素早く着衣を脱ぐとそのあとについていった。

 浴室の中はアロマの入浴剤によるウディな香りに満たされていた。
その香りが、黒の組織との戦いで波打っていた神経を癒してくれる。

「ほぉ〜。これはこれは」
「いい香りですねぇ」
二人は同時に同じ感想を口にしたが、どちらが先に身体を洗浄し、コナンを綺麗にするかでひと悶着した。
結果として、前者が安室、後者が赤井となったのだが、綺麗になったコナンを赤井の腕から預かって浴槽に一緒に入った安室は、胸に寄り掛かるクタリとしたコナンの身体に散らばる銃創や刺創の跡に目を見張った。
常であれば気づかれない程度の傷跡なのだが、湯に入った事で紅く浮き出してきたのだ。

「この子のこれは・・・」
思わず零れた安室の言葉に、赤井が返事を返してきた。
「君も判ったと思うが、この少年はあの組織壊滅に並々ならぬ決意で臨んでいる。幾たびも事件に巻き込まれたり、第三者をかばって負傷してきた。その証がそれだ。実年齢にそぐわない勲章だな」
「貴方がそれをご存じだと言う事は、何度もニアミスしていると言う事でしょう?」
「そう・・・だな。協力をして貰ったり、サポートに徹したりだが、な」

感情をあらわにしない男が眉間に皺を寄せたことに、安室は驚いた。
この子供は、こんな男にすら琴線を震わせるのだと。

「傷をつけずに守る事ぐらい、貴方なら出来るんじゃないですか?」
悔しいがこの男の実力を組織内で嫌と言うほど知っている立場として、子供に遅れを取るとも思えずそう告げれば、苦笑と共に優しい視線が胸の中の子供へと向けられた。

「このボウヤの実力はジェイムズが引き抜きを真剣に考える程だ。そんな相手の行動を先回りする事は、かなり難しいとは思わんかね」
「・・・・・たしかに・・・」
「だが、俺は出来るだけこのボウヤを守っていきたいと思っているがな。それはジョディもキャメルも同様に思っている事だろうが・・・」
そう告げて、洗い髪を後ろへ撫でつけてから浴槽へ入ってくる男の身体の素晴らしさに、安室は同じ男として劣等感を密かに抱いた。
長い手足に均整の取れた実用的な筋肉。
高い位置にある腰はがっしりとした力を蓄えていると知らしめる。
組織では、ベルモットと同様にハニートラップ的な役割を任される事が多い自分の、どちらかと言えば華奢なつくりと比べると尚更。

「熱が出てきているな」

赤井が腕の中の子供を自分の許へと引き寄せようとしたのを、ほぼ無意識で阻止しようとしてそれを果たせず、柔らかな身体は自分の胸の中から連れ去られてしまった悔しさに臍をかんでいる安室の耳に、驚く内容が告げられた。
「えっ?」
「無理が祟っているんだろう。一刻も早く治療をして貰わなくてはな」

そう言うなり、コナンを抱えたまま赤井は浴槽から立ち上がり脱衣所へと足を進めた。
背後では慌てて水音を派手に立てている青年がいるが、それを揶揄している余裕は今の赤井にはない。
脱衣所には、二人分の白と紺色のバスローブが置かれており、大きな手触りの良いビーチタオルも準備されていた。

(志保が来たことに気づかない程、俺はこのボウヤに集中していたと言う事か。・・・好ましい状態とは言えんが、このボウヤ相手ではそれも致し方ない、か)
自分の精神状態を考察しつつ、赤井はコナンの身体の水分をそっと拭うと、自分はざっくりと拭いて紺色のバスローブをまとって人の気配のするリビングへと歩き出した。
作品名:protection and attachment 作家名:まお