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美月~mitsuki
美月~mitsuki
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時津風(ときつかぜ)【最終章】

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「先日僕が写経をさせて頂いたお部屋の事です。あそこはもしや・・・」
 赤司が最後まで言い終わらない内に院主は『ほう』と驚いた様な声を洩らした。
「よう気付かはりましたなぁ。そうです。あの部屋は生前の母君が写経をしに通わはったお部屋です。あの日、征十郎はんが写経を申し出たのも何かのお引き合わせや思て、あそこにお通ししたんどす。」
 車がアンダーパスを抜けた。再び車内が明るさを取り戻す。

 どおりで茶が出て来ない筈だ。
 もっと早くに気付くべきだった。
 
 家族を一度に失ったと言っていた。思いがけず早くに息子と離れてしまったと。
 彼女は一度も『家族を亡くした』とは言わなかった。
 彼女は自分と同じ『残された側の人間』では無く、『遺して逝った側の人』だったのだ。
 恐らく彼女は全部知っていた。全部見ていた。それでも敢えて自分の話に耳を傾けに来てくれた。
 胸の奥底に誰にも言えぬ想いを抱えたまま、子供のように泣きながらうろうろと彷徨う息子の心の手を引きに。
 伝えきれなかった想いを伝える為に。
 別れる間際、最後に見た彼女の唇の動きは不思議と今でもはっきり瞼に焼き付いている。
 今なら分かる。
 彼女があの時、何を言おうとしたのかを。
 

 ─── 征十郎。
 

 懐かしい母の呼び掛けを、その時赤司は確かに聞いた。