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美月~mitsuki
美月~mitsuki
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時津風(ときつかぜ)【最終章】

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  ◇◆◇



  
「それにしても、あなたはこういった話にとても造詣が深くていらっしゃるのですね。どちらかで学ばれたのですか?」
 感心した様子で赤司がそう尋ねると、彼女は少しの間の後、にこりと微笑んだ。
「修行中の身ですので。お蔭様でようやく少しずつ理解できるようになってきましたけれど、私などまだまだ。これからも学ばなければならない事は沢山あります。」
 その言葉の意味を汲めず赤司が怪訝な顔をすると、彼女は笑って言葉を続けた。
「輪廻を重ねている間はみんな修行中です。学びが全て終わるまではこの世に生まれ、体験し、天に還ってまた生まれて来る・・・その繰り返し。」
「修行中・・・」
 ああそれで、と赤司は彼女の言葉に納得した。彼女の生死に対する解釈はとても興味深い。確かにこの世にいる人間をそう考えると、自分も相手も共に修行中の未熟者、多少のいざこざは仕方の無い事だと思える。腹立たしい相手に遭遇してもそれ程気にならなくなるかもしれない。見方を変えれば、見えるものも変わる。こういう事に対してもその考え方は活かされているのだと改めて赤司は思った。
「あなたのその捉え方、僕も参考にさせて頂きます。」
 目の前の女性の感性に感服しながら赤司が呟いた時、ふいに内ポケットの携帯が震えた。
「・・・失礼。」
 そう断って電話を取り出すと、迎えの車の運転手から到着を知らせるメールが届いていた。
「───もうそんな時間か。」
 腕の時計に目を走らせながらそう呟き、赤司はやや気落ちした顔で彼女の方へ向き直った。
「・・・申し訳ありません。せっかくの興味深いお話しだったのですが、どうやら迎えの者が到着したようです。僕はお暇をしなくてはなりません。」
 それを聞いた彼女の顔にどこか寂しそうな笑みが広がる。
「・・・そう。残念ね。でも、お話し出来てとても楽しかったわ。」
「僕もまるで生前の母と話しているようで、久し振りに楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました。」
 穏やかにそう言う赤司を彼女はじっと見つめ、そして目を細めた。
「お元気でね。」
「はい。どうぞあなたも。」
 ではこれでと立ち上がった赤司を彼女はその場に座ったまま見上げる。彼のその背の高さや広さに彼女がしみじみとした視線を送った時、ふいに赤司の背がくるりと振り向いた。
「──また、お逢い出来るといいですね。」
 その瞬間、彼女が目を見開いた。その時彼女は何を思ったのだろう。一瞬眉根を寄せると何事かを言おうとして彼女は口を開きかけた。小さな唇が微かに動く。だがそれは言葉にならぬまま赤司の目の前で喉の奥に飲み込まれ、一瞬の間を置いて彼女はもう一度口を開いた。
「ご縁があればお逢い出来ますわ。その時はまた色々なお話しをしましょう。」
 彼女の言葉が耳に優しく残る。その心地良さに赤司は嬉しそうに目を細め、少年らしい屈託の無い笑顔を彼女に向けた。
「その日を今から心待ちにしています。いつかまたお逢いしましょう。」
「ええ、きっとね。約束よ。」
 彼女は赤司の姿を嬉しそうに見上げると、陽の光のような笑顔で彼を見送った。
 庭のナツツバキが揺れた。
 二人の間に、夏の終わりを告げる風が吹き抜けた。