ルパン三世~赤い十字架~
Episode.2 初めてとっつぁんと呼ばれた日
「長官!そんな事は断じてありません!ルパンが予告も出さず、殺しまで…いや!しかしですな…はい。ええ…分かりました。失礼します」
ルパン逮捕の為にインターポールへと身を置く男。銭形幸一。
彼は乱暴に受話器を叩きつけた。
「ルパン…何やってる、畜生め!」
訝しげに思いながらも事件の報告書に目を通す。テキサス州にある小さな宝石店に進入。店主を射殺。
頭に1発、胸に2発。即死。
盗まれた物は…?
「何だぁ?何も盗んでない?無差別殺人だと?そんな馬鹿な訳があるか!」
声を上げる銭形に、1人の警官が電話ですよ、と恐る恐る声をかけた。
「なんだ!俺は今腹の虫がおさまらんのだ!…ったく、はい、もしもし!こちら銭形!」
電話越しの声に、彼は一瞬、息を止める。
「よぉ、銭形…お久しぶり。相変わらず忙しそうで?」
「ルパン…ルパンなのか?貴様ぁ!無差別殺人とは血迷ったか!」
「さすがインターポールは仕事が早いねぇ。もう情報は耳に入ったか。あの店にはスコレリーファミリーの隠し財産があったはずだ」
「あの一派の…で、お前、殺ってないんだな?」
「当たり前じゃないのよ…予告も無しに殺しなんてよ、俺のルールに反するからね。でもな、俺で間違いねぇ…俺がやったらしい」
急に深刻に響くルパンの声に銭形は乱暴に煙草をくわえた。
「はあ!?何を意味の分からん事を…」
「まあ、俺にもまださっぱりさ。自分の昔の亡霊…狐につままれるってのはこういう事を言うのかね」
「昔の亡霊?なんだそれは」
「さあね、でな、アンタに頼みたい事があるんだ」
「泥棒風情の頼み等断る!」
「そう言いなさんな。あのな、もし、俺を見つけ出したら逮捕しないでいい射殺してくれ。頼んだぜ?…あばよ、銭形のとっつぁん」
「はあ?とっつぁんだと?ジジイ扱いしやがって!おい!待てルパン!どういう事だ!おいっ…」
虚しく切れた電話を握りしめ、銭形はゆっくりと荒い息を吐き出した。
どうも何かが起きている…。
もちろん、今の彼にそれがわかる訳はない。
しかし、銭形の勘は何かを感じとっていた。
慣れ親しんだスーツケースを睨む。
俺はいつも通りにあのサルを追いかければいい。そうすれば、自ずと答えは見えてくる。妙な不安を取り除くように自分にいい聞かせ、銭形はテキサスへと向かう決意を固めた。
作品名:ルパン三世~赤い十字架~ 作家名:Kench