ルパン三世~赤い十字架~
Episode.3 悪魔の銃を持つ男
荒野の何もない大地で、男はぼんやりと空を眺めていた。
白い雲と、飛び交う鳥達の影。
乾いた空気を吸い込み、彼は少し苦笑いをした。
ピッ、と男の腕時計が音を鳴らし、[666]という数字がデジタルフレームに浮かび上がった。時計の隅のボタンを押し、男は耳の辺りに手を当てた。
「聴こえるか?K」
「はい」
「奴が動き出した。君の出番だ」
「ええ」
深いため息を吐き出し、男は
懐と腰に巻いた二丁の拳銃を確認する。
男のコードネームは、K(kill)。
KGBの特殊部隊[ネクスト]の一人。
手製の銃を使い分け、中国の武術、蟷螂拳(とうろうけん)を駆使する日系人。
しかし、それ以外の事は誰も知らない。
ただ、1人を除いては…。
「Aは?」
「彼女か、彼女ならもう潜入している筈だ。君の心配する事ではない」
「そうだろうな」
「では、頼む。ターゲットは」
「ルパン三世」
「通信を終わる」
穏やかな顔から、男の顔は鬼に変わる。
荒野の遥か向こうに小さな砂煙と車の影が映る。
Kは突然片目を瞑った。
彼の脳内で標的までの距離、障害物の有無、風の抵抗…全ての情報がコンピュータのように弾き出される。
「ルパン三世、アンタは俺と同じ悪魔か?それとも…」
Kは片目を瞑りながら、状況を把握しつつ、
車への間合いを詰めていく。
何かを察知したのか、彼はぴくりと動きを停めた。
「…ヒッチハイカー?いや…」
ルパンが乗っている小型車に、手を振る2人組の男女。
…おかしい。
ただのヒッチハイカーなら、さっき把握した時点で見つけられたはず。
ゆっくり、片目を再び瞑り
2人組に集中する。
武器は…一切持っていない。
妙な胸騒ぎが彼の身体を駆け巡る。
陽気に手を振る2人組に気づいた車は
ゆっくりと停車した。
「あー…乗せて貰っても?」
「こんな所でヒッチハイクかい?恋人ちゃん干からびちゃうぜ?まあ乗りな」
「ああ…どうも…助かります」
Kは地面を蹴っていた。
自分の中にある勘のようなものではなく、
感情で。
頭では疑問に思う。
殺そうとしている男を自らが救おうとしている事に。
俊敏な動きで車の前に彼は立つ。
それを見たルパンは、あれま、という表情を浮かべ、車からひょっこり顔を出した。
「なんだぁ、お前さんもヒッチハイクか?」
「違う…ルパン」
「…あ?」
Kはしっかりとルパンを見据えた後、その視線を後部座席の後ろにずらす。
ルパンはその目を見つめ返し、同じくアイコンタクトをとった。
同じ、人殺しの目で。
作品名:ルパン三世~赤い十字架~ 作家名:Kench