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「FRAME」 ――邂逅録1 不易編

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 士郎が答える。おそらく、それが士郎が今担当している仕事なのだろう。不甲斐なさを露呈したというように、バツの悪そうな顔をしている。
「では、その補給路、絶ってこよう」
「なっ、お、おい。そんな無茶をすれば、」
 シェードが慌ててエミヤを止める。
「ここまでバレずに、やっと到着したところだ。下手に動くと、奴らに気づかれる。要らないことをするな」
「問題ない。そんなヘマはしない」
 エミヤはきっぱりと言って、踵を返す。
「ちょ、ちょっと、待てって、アー……」
 士郎がエミヤを呼び止めようとしたが、エミヤの歩く先を数人の男が塞ぐ。
「行かせると思うか? お前が間諜じゃないって、誰が証明できる?」
「シェード! 違うって、こいつは――」
「シローは黙っていろ」
 鋭く制され、士郎は押し黙った。この組織では、恐らく士郎が一番年若い。みな、彼を可愛がっているが、まだまだ、子供扱いだ。
 今回のような士郎の我が儘が通じる組織でも連中でもない。エミヤがざっと見たところ、みながみな、経験豊富で確かな自信を持ち、信念に基づいた仕事をこなしてきた自負と気概がある。
 これでは、二十歳を過ぎたばかりの士郎など子供と大差ない。
「やれやれ……」
 肩を竦めたエミヤは、後戻りをして、士郎の襟首を掴む。
「こいつを監視にもらう。一週間……、いや、五日ほど待っていろ」
 シェードに言って、エミヤは歩き出した。
「え? ちょっ、こら、放せよ!」
 呆気に取られるシェードたちをそのままに、士郎を引き連れ、スタスタと歩いてエミヤはベースキャンプを離れた。



「ったく、なんでこんなことに……」
 ブツブツと士郎は着替えながら愚痴をこぼす。
「仕方がないだろう、お前のボスは用心深いようだからな」
「そ、そりゃ、すぐに信用してもらえるとは思わなかったけどさ……」
「まあ、リーダーとしての素養はクリアしている。いい“上司”だ」
「だろ?」
 にひ、と笑った士郎に、エミヤは片眉をひょいと上げた。
 再会した士郎は、ずいぶんと表情が明るい。
(あれからこいつはどんな生き方をしてきたのか……)
 己とは違う道を辿ったのだろう、と漠然と感じている。
(二十二になったばかりだと言っていたか。あれから五年……)
 今、士郎がともに過ごしている仲間を見ていればわかることがある。
(こいつはもう、自身をなげうったりはしないだろう)
 誰かのために、と思ってはいるが、それは、自分一人ではなく仲間とともに叶えることだと認識しているように見える。
 エミヤは胸を撫で下ろす。己のような存在がまた生まれてこないなら、それにこしたことはないのだ。
「準備はいいか? そろそろ行くぞ」
 頷く士郎は、ごく普通の旅行者の格好だ。ジーンズをはき、シャツを羽織って、大き目のリュックサックを背負っている。
「これでいいだろ?」
「フ……、平和ボケした間抜けな旅行者がピッタリだな」
「るせぇ」
 士郎の悪態を流しながら、エミヤは先を歩く。
「アンタはそれでいいのか?」
「私はお前のガイド役だ。問題ない」
 エミヤは黒い装甲に生成りの外套を羽織っているだけだ。外套を脱がない限り黒い服を着ている、くらいにしか見えない。
「便利だよなぁ、アンタの服装」
 士郎の声に一瞥をくれただけで、エミヤは何も言わずに肩を竦めただけだった。

 情報収集で丸一日を費やし、宿に着くなり士郎は寝台へ身体を投げ出した。
「つっかれたぁ……」
「情けないな、一日で疲れるとは」
「アンタと違って、俺は人間なんでね!」
 ムッとしながらエミヤを睨む士郎を無視して、テーブルの上に地図を広げる。
「アンタ、休まなくていいのか?」
「人間ではないのでな」
 地図から顔を上げることなくエミヤが答えると、
「……悪かったよ」
 士郎が、ぼそり、と謝った。
「何がだ?」
 エミヤは顔を上げる。
「人間じゃないなんて、言わせて」
 寝台に身体を起こした士郎は、上目でエミヤを窺う。
「なんの気遣いかは知らんが、気色が悪いぞ」
「っぐ、て、てめぇ! 人が下手に出てやったら、言いたい放題言いやがって!」
「何を怒っているのか……。怒る暇があるなら、体力温存でもしておけ」
「ああ、わかったよ! もう寝る!」
 ふん、とご立腹で士郎は寝台に再び横になった。
 呆気に取られ、次いで、くすり、と笑いが漏れる。
 エミヤはハッとして、拳で口を覆う。
(何を笑ってなどいるのか、私は……)
 いつもなら一昼夜もあれば仕事を終え、座に戻ると言うのに、なんの酔狂か、人と協力しあってみたり、いつも重苦しい感じでこなす仕事が、なぜか気が楽だと思ったり……。
(どうかしているな……)
 再び出会ってしまったこいつに調子を崩されっぱなしだ、と気を取り直すように地図と睨み合った。


 ガタガタと悪路に揺れるトラックは、士郎を乗せて街からどんどん離れていく。
 霊体のままトラックの屋根にいるエミヤは、そろそろか、と姿を現し、莫耶を投影した。
 士郎はバックパッカーよろしく、ヒッチハイクで次の街まで乗せてもらえるという車をようやく見つけた旅行者に扮し、そのトラックに乗り込んでいた。
 士郎は全く気づいていないふりをしているが、このトラックがあのアジトへの月一の補給車だと調べはついている。ガイド役のエミヤと別れ、士郎はトラックに一人乗り込み、エミヤは霊体でトラックの屋根に陣取っていた。
 外国人旅行者を人質にすれば身代金の増額が望めると、この手の組織の人間は考えるだろうと、試した策が見事に当たった。その欲深さをエミヤと士郎はうまく利用したのだ。
 街を離れ、夜になり、山道を進むトラックが街道を逸れたところで、士郎は運転手からハンドルを奪い、エミヤは荷台に下りて、二名の荷物番をしていた男たちを伸した。
「これ、どうする?」
 横倒しになったトラックを示し、士郎はエミヤに訊く。
「街道に置いておけばいい。誰かが持っていくだろう」
「それもそうだな」
 食料などはトラックに置いておき、弾丸や武器は頂戴することになった。
 士郎が連絡をつけて、迎えに来た仲間は、本当にやったのか、と目を丸くしていた。
 運転手と荷台にいた男二人を縛り、車に乗せてベースキャンプに戻ると、シェードがほっとした顔で士郎を迎えた。
「ヒヤヒヤしたんだぞ、まったく!」
 士郎の首に腕を回して引き寄せ、頭を乱暴に撫でて、やはりシェードは士郎を子供扱いだ。
「い、痛いって!」
 シェードから逃げつつも、士郎は楽しげに笑っている。
 シェードに続いて、誰も彼もが士郎の頭を撫でにくる。
(いい仲間に出会ったな……)
 エミヤはその光景を、素直にうれしいと思った。己のようにたった一人で戦うことなど勧められない。やっていることは、命の危険を伴うことだが、これでいい、と思える。
「悪かったな」
 不意に謝られ、エミヤは振り向く。シェードが頭を掻きながら、右手を出してきた。
「おれたちは、S・A・V・E。意味は……、Safety……えーっと、なんか、色々意味がある略号だったんだけどよ、ま、今さらどうでもいい。とにかく、おれたちは、守る者、だ。協力、してくれるか?」