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「FRAME」 ――邂逅録1 不易編

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 エミヤは笑った。かける言葉が結局見つからず、そんなことを口にして。
 驚いていたようだった士郎は、やがて眩しそうに目を細めた。
「達者でな」
 言って、エミヤはその時と場所から消えた。



「衛宮士郎……」
 目を開くと己の手が見えた。まだ握手を交わした温もりが残っている気がして、軽く拳を握る。
「衛宮士郎と出会う召喚だった……」
 エミヤはため息をつく。今回の召喚では士郎とともに戦った。
「アレと背中を預け合うとはな……」
 ふ、と笑みが浮かぶ。
 なぜか、うれしく思っていた。
 前回があんな終わり方だっただけに、今回はよかったと思える。
 別次元の衛宮士郎だろうか、それとも、あの時よりも前に召喚されたのか……。
 記憶を整理しながらエミヤは思う。
 どちらにしても、今回のような召喚であれば胸苦しさは感じない。
 エミヤは、ほっと息を吐いて、和らぐ気持ちに、くすぐったさを感じていた。



***

 戦争か、それともテロか、と息を吐いた。召喚された地は既に瓦礫の山で、殲滅対象も生存すら不明だ。
 エミヤは、弓を持ったままで、暫し立ち尽くす。
「生きている者が、いない?」
 不可解で仕方がないが、エミヤは己の“仕事”を完遂すべく、砂埃の中へ視線を向ける。
「爆撃の後、なのか……?」
 半信半疑で呟き、視線を巡らせ、ぴたり、と身動きを止めた。
「衛宮……士郎……」
 そこにはかつての己がいた。けが人の側で膝をついている。
 士郎も驚いた顔でこちらを見ている。
 倒れ込んでいたけが人がごろりと寝返って、ふはっ、と笑った。
「元気、そうじゃ、ねぇか……」
 けが人が知人のように話しかけてきて、エミヤは首を捻った。
「こいつ、頼んだぜ」
 士郎の背を軽く叩いて、その男は血を吐いた。
「シェード!」
 士郎がその男の名を呼び、肩を揺すると、シェードと呼ばれた男は目を細めた。
「シロー、こいつと逃げろ。お前は、まだ若いんだ、死ぬには早ぇよ。おーい、エミヤ、頼んだぞー」
「シェード、なに言ってんだよ!」
「シロー、悪いな、みんなには遅刻するって、言っといてくれ」
 士郎に、生きろよ、と言い残し、男は息を引き取った。立ち上がった士郎は、震える唇を噛みしめて後退る。
「衛宮士郎、なぜお前がここにいる」
「…………仕事だ」
 一度エミヤに目を向けた士郎は、打ちのめされたように項垂れている。不可解さが拭えないものの、ここに長居は得策ではない、とエミヤは動き出す。
「とにかく、ここは危険だな」
 ため息交じりに言って、士郎の腕を掴んだ。
「行くぞ」
「え? ちょっ――」
 腕を引いた途端、背後に爆弾が落ちた。士郎を庇いつつ、吹き飛ばされる。
 地揺れがおさまり、瓦礫を押し退け、庇ったはずの士郎に目を向ける。ぐったりとしていた。だが、 すぐに目を開けた士郎にほっとした。
「生きているな?」
 確認すると頷こうとした士郎が痛みに呻く。右半身が瓦礫の下敷きになっているようだ。顔面にも出血が見られる。
 とにかく瓦礫を除けるため、エミヤは士郎の真上で瓦礫に手を伸ばした。
「エミ……ヤ?」
 見上げてくる士郎が目を剥いた。
「ばっ、……っ、あ、ア……ンタ、何、してっ」
 痛みに呻きながら声を絞っている。エミヤは表情を崩すこともなく、瓦礫を破壊し、士郎の上から排除した。
 砂埃に噎せる士郎を抱き上げる。
「アンタ、や、やめろよ! 血が!」
 数歩走ったところで、エミヤは、かくり、と膝をついた。
「だ、だから、やめろって、言っただろ!」
 自身の胸元を見下ろし、エミヤは初めて気づいた、胸元を貫いている鉄筋に。
「お、下ろせって!」
「ああ、すまない、これは……、まずいな……」
 残念だ、と苦笑する。
「なに……笑って……」
「ああ、お前を安全な所まで運ぼうと思ったのだが、どうにもできそうにないな」
「なんっ……で、そんなこと、するんだよ!」
「さあ。なぜか……。まあ、身体が動いた、仕方がない」
 淡々と答える。
 本当に、理由はない。身体が勝手に動いたとしか説明ができない。士郎は子供のように泣きそうな情けない顔でエミヤを見ている。
「俺はいいから、アンタは、自分の仕事を――」
「おおかた済んでいる。この分であれば、私が手を出すこともなさそうだ。したがって、前の男に頼まれたことをやっておこうと――」
「バカかよっ!」
「む。馬鹿に馬鹿と言われる筋合いはないぞ」
「アンタ、覚えてっ、ないんだろっ! なのに、なんでっ!」
「なんのことだ、衛宮士郎? お前のことは覚えている。聖杯戦争の記憶は残っているのでな。お前と剣を交えたことも、お前が間違いではないと言ったことも……、衛宮士郎?」
 士郎が自由に動く左手でエミヤの外套を握っている。
「……そう、だな……、俺のこと、覚えてんだな……アーチャー……」
「その呼び方は、改めてもらおう。それは、聖杯戦争のクラス名だ。私の名ではない」
「……悪い、つい、癖でさ……」
「衛宮士郎、その傷を手当てすることは私にはできない。魔力を流して自力で動け。ここから生還しろ。あの男のためにも」
「なに、を、偉そうに……」
「すまないな、安全圏までは、無理だ」
 爆撃機の音が近づいてくる。爆弾が落とされる音も振動も徐々に近づいてくる。
「ダメ押しの空爆だろう。これが最後だ。あれが過ぎて、探査機が去れば、動き出せる」
「ちょっ、と、待てよ、アンタは、」
 士郎の声は轟音にかき消された。エミヤは片膝立ちのままアイアスで爆風と瓦礫と焦熱を防ぐ。
 士郎が何か言っているが、聞き取れない。爆音の中で、士郎の呟く声などかき消されてしまっている。
 エミヤは士郎を振り向く。何を言ったのか、と訊こうとしたが、時は無く、半端な手助けですまないと、苦笑いを浮かべた。



「衛宮士郎……」
 無事だろうか、とエミヤは立ち並ぶ剣を見つめて思う。
「ああ、お前は……あの時の衛宮士郎だったのだな……」
 今回召喚された世界の半年ほど前、エミヤは士郎とともに“仕事”をした。士郎の所属するSAVEという、どの国にも属さない、人を救うためだけの集団と。
「なぜ、彼らが……」
 エミヤが召喚されたあの場で何が起こったのか。士郎の仲間であるSAVEの者は誰一人、いや、あの地にいた人間は、ことごとく命を奪われていた。
 士郎とてあの後、無事に生き延びたかどうか、エミヤにはわからない。
「また、救えなかったのか……?」
 だとしたら二度目だ、とエミヤはため息をつく。
 こんな胸苦しさを二度と味わいたくはない、と思うのに、エミヤにはそれを防ぐ手立てがない。
「もし、次に出会ったら……」
 エミヤに召喚先を選ぶ術はない。今回と前回は、偶然、同じ時間軸の士郎と続けて出会ったというだけだ。
 あり得ない、と思いながら、それでも、そんな機会があるのなら、今度こそ救ってみせるとエミヤは意気込むことしかできなかった。



***

「なんだよ、また?」
「いいだろ?」
 声が聞こえる。どちらも男、一人は若い、もう一人はやや年齢が上のようだ。
「変な趣味だな」
「お前がそうさせるんだろ」
 いったい何の話なのか、皆目、見当がつかない。