電撃FCI The episode of SEGA 2
ラウンドを取られるも、二本取られない限りはまだ戦うことができるルールのため、智花は気絶することなく起き上がった。
――強いよ……――
智花は一馬の真の力を見せ付けられ、少し萎縮してしまっていた。果たしてこの男に、本当に勝てるのか、それさえも分からなくなるほどだった。
「イイ気になってンじゃねェぞ。サービスだよ、くそったれが!」
一方通行が智花の側に現れ、一馬へと啖呵を切る。
「そーだ、そーだ! あたしたちまだ負けてないぞー!」
真帆も出現し、一馬に戦意を向ける。
「おー、まだまだー」
「これは頑張らなくちゃね!」
「……恐いけど、みんなが一緒なら……!」
智花の仲間達は、一ラウンド取られた状況であっても、負けるつもりは全くない様子だった。
「みんな……」
一馬の強さを見せ付けられながらも、なお戦意を高める仲間を見て、智花は自らの甘さを痛感した。
そして同時に、仲間の力を完全に生かしきれていないことにも気が付いた。
イグニッション・デュエルのルールとして、ラウンドをまたぐ時に、メインキャラ、サポートキャラ、ブラストの三つのうち一つを強化するイグニッションする選択肢が与えられる。
ブラストに関しては、すでに貯まりきっていた。そのため智花は、これ以上の強化は無意味と判断した。
自らをイグニッションするのか、それともサポートをイグニッションするのか。選択肢は二つに分けられた。
そして智花は、迷うことなくイグニッションする先をすぐに決断する。
「私は、一方通行さんにイグニッションします!」
智花は一方通行をイグニッションした。
「ほォ、オレをコキ使って使い倒すつもりってかァ?」
一方通行は意地悪な笑みを見せる。
「い、いえそんなっ! そんなつもりじゃないです!」
智花は慌てて弁解する。
「相手は私一人の力じゃ、とても敵わない人です。真帆や他のみんな、一方通行さんの力を一つに合わせなくちゃいけない。だから一方通行さんを選んだんですよ!」
一方通行の顔から意地悪な笑みは、いつの間にか消えていた。
「けっ、群れてあの野郎をぶっ倒そうってのか。くだらねェ……。ただまァ、テメェのストックにいつまでもいるってのもたりィしな、退屈させンじゃねェぞ……」
「一方通行さん……」
一方通行は智花に背を向け、後ろに下がっていった。
「あの人も本当に素直じゃないね、ってミサカはミサカはあなたから同意を求めてみる」
不意に、一方通行の側にいた打ち止めが声をかけてきた。
「打ち止めちゃん……」
「けどね、あの人はああだけど、本心では嬉しいんだよ。あなたに仲間って認められたことが、ってミサカはミサカは……あいたたた!?」
一方通行は打ち止めの頭にチョップを食らわせていた。
「テメェは静かにしてろ」
「本当の事言っただけなのに、何で叩くの、ってミサカはミサ、わあああ!」
打ち止めは一方通行に襟首を掴まれ、無理矢理後ろへ下げられていった。
しかし、智花は打ち止めから話を聞けて少し嬉しくなった。
まともにサポートとして動かしてあげられず、一方通行は心底智花のサポートになってしまった事に嫌気が差しているのではないかと、智花は不安に思っていた。
しかしながら、本当のところ、一方通行は智花を嫌ってはいないようだった。打ち止めを引きずって行くときに、一方通行は智花を見ようしなかったものの、照れたような顔が少し見えた。
一方通行の素直ではない、という一面を見ることができた気がした。そして考えとは別の行動をしている辺り、協力するつもりのようだった。
これで大きな問題なく、一方通行と協力できると、智花は確信した。
「お願いしますね、一方通行さん!」
「うるせェよ」
一方通行はやはり振り返らなかった。
一方、一馬の方のイグニッションはすでに決まっていた。一馬は自分にイグニッションし、攻撃力、防御力を高める事にした。
「一気に決めるぞ、真島」
「分かっとるがな、桐生チャン!」
智花と一馬、二人のイグニッションがそれぞれ決まったところで、第二ラウンドが始まった。
「一本行くよ!」
第二ラウンド開始早々、智花はパワーアップブラストを発動した。ゲージには比較的余裕があったが、ブラスト中の攻撃力アップの時間を使い、一気に攻め立てようというつもりだった。
ブラストの直後、智花は高くジャンプしながら一馬との間合いを詰めた。
「はいっ!」
智花は着地の直前に番傘を広げ、その縁で一馬に攻撃を加えた。
「その程度か!?」
智花の動作は大きく、一馬に簡単に見切られてしまう。
しかし、この行動の本命は別なところにあった。
智花は番傘を閉じると、今度は扇を取り出して一馬の足元を狙った。
「おおっ!?」
攻撃が低すぎたため、一馬はガードすることができず、崩されてしまった。
ボールのスティールまでコンビネーションが決まり、一馬をボールに吸い込み、そのままドリブルした。
「ええい!」
智花は、バウンドパスするようにボールを放った。パスした先には誰もいなかったが、智花は確かにパスを回した。
――チャンスです、一方通行さん!――
智花は心の中で一方通行に呼びかけた。
「お片付けだ……!」
すると、一方通行が出現し、地面を蹴って、ボールに吸い込まれた一馬に向けてベクトル変換による衝撃波を放った。智花は見事に、一方通行へとパスを回していた。
「ぐおあっ!」
一馬は、一方通行が操作したベクトルにより、上下に叩き付けられるようになった空間でダメージを受ける。
智花が行ったのは、攻撃動作からすぐにもとの体勢に戻るためのキャンセル行動であった。
今回使ったキャンセル行動は、キャンセルサポートという、ゲージを使用して行うもので、その名の通り、サポートキャラを呼び出すのに一切の隙を見せずに呼び出せるというものだった。
ゲージを使用するため、連用はできないものの、コンビネーションに繋がっている限りは確実に、サポートキャラに行動をさせられる強力なものだった。
開幕でパワーアップブラストを使用したのは、この戦法のためでもあった。
「行きます!」
一馬が身動き取れない隙を狙い、智花は前に突進していく。
スティールが見事に決まり、智花は再び一馬をボールに吸い込んだ。一回、二回とボールをドリブルすると両手で掴み、シュートの構えをとった。
「シュート!」
智花は空中に出現したゴール目掛けて、ワンハンドのジャンプシュートを打った。
智花のシュートは一切の狂いなく、非常に美しく決まった。
「真帆!」
一馬をダウンに追い込み、立ち上がれない間に、智花は真帆を呼び出してパスを回した。
「あいよ! 紗季!」
真帆のチェストパスには、打ち上げ花火(ファイヤーワークス)の力が込められており、投げる度に火花が散った。
「ぐっ!」
ダウンから回復した一馬は、智花達のパスワークに翻弄され、守りを固めるしかなかった。
パスが紗季へと回ると、紗季はミドルシュートを打った。しかし。
「外した……!」
紗季は悪い手応えを感じていた。その予感通り、ボールはリングに当たって外へ跳ね返ってしまう。
「そこまでだな!」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗