電撃FCI The episode of SEGA 2
智花の秘策の一つ目が見事に炸裂した。しかし、まだ一馬を倒しきれるだけのダメージは与えられない。
そこで智花は、自身のもう一つの秘策を繰り出した。
――絶対に、負けない……!――
智花はボールを構えると、残っていた切り札を使い、クライマックスアーツを更に強化した。
「全力でっ……!」
智花は不思議な力で、ボールに吸い込まれていた一馬をゴールに変身させ、切り札のエネルギーをボールに乗せて最高のジャンプシュートを決めた。
ゴールになった一馬にボールが入ると、ボールが起爆剤となり、ゴール共々爆発した。
「うおおおお……!」
智花の秘策が効を奏して、一馬を倒すのに成功した。
爆発の後には、地面へときらきらと光りの粒子が降りかかっていた。
「やったぁ!」
智花達は共に、強敵より得られた勝利に、声を合わせて喜びを表した。
不意に、群衆が喝采した。
「堂島の龍と嶋野の狂犬が負けたぞ!」
「信じらんねえよ、あの喧嘩最強の二人が、まさかあんなガキに倒されたなんて!」
「伝説を超えやがったなんて! あのガキどもマジですげえよ!」
群衆は堂島の龍、桐生一馬と嶋野の狂犬、真島吾朗が倒され、しかも女子供が
彼らを破った事に沸いていた。
「おい、写真撮っとこうぜ! 倒れてる堂島の龍が入るようにしっかりとな。これはかなりのニュースになるぞ!」
群衆の内の一人が言い出すと、皆携帯を取り出し、智花達勝者を撮影し始めた。
「うっはー、すげえ! なんかあたしらアイドルになったみたいだ!」
真帆は気分がよくなり、群衆の向けるカメラにむかって大手を振った。
「ううっ! 恥ずかしいよう……」
愛莉は、このような扱われ方にあまり慣れておらず、顔を隠した。
「確かにちょっと慣れないわね……」
紗季も少し顔を下に向ける。
「おー、ひなも撮って撮ってー!」
ひなたはこのような時でもマイペースであり、群衆にブイサインを送る。
「うう……これはちょっと……まぶしっ!」
携帯のカメラは、自ずと最も活躍した智花に向いていた。
「けっ、下らねえ」
はしゃぐ打ち止めとは対称的に、一方通行はそっぽを向いた。
「そうだ、せっかくだし、みんなで考えたあの決めポーズしようぜ!」
ふと提案するのは真帆である。
「おー、やるやるー!」
ひなたはニコニコ笑いながら二つ返事
で賛成した。
「またあんたはそうやって……」
紗季は少し呆れぎみにため息をついた。
「何言ってんだよ紗季。勝ったのはあたしらなんだから、決めポーズで後から来た人にも分かるようにしないと!」
「アイドルじゃないんだから……って言っても聞くような子じゃないか……」
紗季は早々に説得を諦め、真帆の言う通りにしようとする。
「トモ、愛莉、何を言っても無駄よ。ここはもう真帆の言う通りにしといた方がいいわよ?」
「紗季ちゃんまで、ううう……」
愛莉はやはり、恥ずかしさの方が先行した。体が皆より一回りは大きい愛莉は、特に目立ってしまうのではないかと考えてしまう。
「愛莉、一緒にやろう!」
意外にも智花は乗り気であった。
「智花ちゃんまで!?」
「みんなで頑張ったから一馬さんに勝つことができた。全力で喜んでいい時だと思うよ」
「智花ちゃん……」
「ほら、あたしたちのリーダーが賛成したんだ。もう拒否権はないぞー!」
「ううう……じゃあせめて真帆ちゃんとポジションは変えさせて」
「だめだめ、アイリーンは絶対あのポジションじゃないと。われらがエースを引き立てられないだろう?」
真帆による愛莉への説得はしばらく続いた。そして真帆は、色々と言いくるめて、ついには愛莉を観念させた。
「そうだ、一方通行さんと打ち止めちゃんも一緒にやりませんか?」
智花が提案する。
「ああン? なンでこのオレまでンな事しなきゃなンねェンだよ?」
「ふふん、答えは簡単だよ。ミサカも頑張ったから、ってミサカはミサカは答えてみたり!」
「その通りだよ、打ち止めちゃん。二人のお力がなければ勝てなかったはずです。だから、お願いします!」
智花は一方通行に、深く頭を下げた。
「……チッ! しょうがねェ、付き合ってやるよ……。それでテメェの気がすむってンならな」
智花の願いに負け、一方通行は大きく
舌打ちしながら智花に従うことにした。
「ありがとうございます、一方通行さん!」
智花は一方通行に満面の笑みを見せる。
「けっ……」
一方通行は何も言い返す事はなかった。
「みんな、行くよ!」
智花が声を掛けると、女バスメンバーはフォーメーションを組んだ。横一列に智花を中心として並ぶ。
智花の斜め後ろに、一方通行と打ち止めの二人も立つ。
「せーのっ!」
五人は掛け声を合わせた。そして次の瞬間、メンバーは決めポーズを取った。
愛莉とひなたが端で、指を斜め上方向に二人が左右対称となるように突き出し、真帆と紗季は智花の斜め前に片膝を付いて中腰となり、智花はその中心で腕組みをして立った。智花の両隣には、一方通行と打ち止めが立った。
そして五人は声を合わせて叫んだ。
「小学生は最高だぜ!」
この世界の不思議な力により、智花達の思いが花火となって打ち上がった。花火は文字を形成した。
"RO-KYU-BU!"という彩り鮮やかな光が、智花達を後ろから照らした。
まるで、これまでここは野試合の会場ではなく、慧心女バスメンバーというグループのライブ会場であるかのように、群衆からは大歓声が上がった。
――気付いとるか、桐生チャン?――
――ああ……――
智花達に破れた一馬は、もう意識を取り戻していた。
――なんやよう分からんけど、迂闊に起きれんようになってもうたなぁ?――
――そうだな……――
一馬は薄目を開いて辺りの様子を探った。
今、この神室町劇場前広場は、輝かしい少女らによって、人々が熱狂する場所となっていた。
一馬が成し遂げた十連勝でも、群衆は興奮の渦中に巻き込まれていたが、今は全く違った興奮に騒いでいた。
智花達の戦いを見た後の群衆は、とてつもない強さの存在に畏怖の念を持っていたが、今は全く違っていた。
観客は皆、智花達の鮮やかなチームプレーに魅了されているようだった。これは一馬や吾朗にはできなかった事である。
――神室町の人間の暴力への欲望を止められるのは、どうやらあの子達だけのようだな……――
――ああ、なんや奴ら生き生きしとるやないかい――
――今はまだ起きない方がいいだろう。ほとぼりが冷めるまで寝ているとしよう――
戦いとは別の華やかさに魅了された群衆による大喝采は、しばらく止むことはないのだった。
※※※
一馬は、はっ、と二度寝から目覚めた。
この世界の性質上、神室町は常に夜であるため、辺りは特に変わりがないように見え、野試合を観戦する群衆は相変わらず行われる戦いに熱狂していた。
ふと、一馬は妙な違和感を感じていた。地面に寝ていたはずなのに、頭は全く固くない。しかし、枕でも使っているようにふかふかしているわけでもない。
一馬が枕にしていたものは、弾力があり、辺りからは優しい匂いが漂っている。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗