電撃FCI The episode of SEGA 2
一方通行は打ち止めを含む、妹達の協力なしには最強ではいられなくなってしまっていた。
そのため彼は、この世界には打ち止めとともに、サポートキャラクターとして呼ばれていた。
「もとの世界ではこの辺の人なんて軽く捻れるのにねって、ミサカはミサカは少し同情してみたり」
「チッ、うっせェガキだな……」
「あの、一方通行さん」
智花が声をかける。
「あン、ンだよ?」
「その……今回もコーチ、サポートよろしくお願いします!」
智花は頭を下げた。
「けっ、オレにはコーチなンざできねェぞ?」
コーチングはできないと言う一方通行であるが、恐ろしい表情を浮かべる。
「コーチはできねェが、害敵ならぶっとばしてやるぜ?」
一方通行は、あくまでサポートキャラとしてならば働くつもりであった。
「そんな、必要以上に傷付けるのはだめですよ。ちゃんとルールの中で対戦しましょう」
いくらこの世界の理で相手は死傷しないとはいえ、智花にとってはしっかり相手を敬って戦うことが一番大事であった。
「……チッ」
智花の訴えかける目に、一方通行は言葉に詰まってしまった。
ずいぶんと甘くなってしまったと、一方通行は思う。かつての自分では考えられない心情の変化を感じた。
「おいおい、マジかよ、こんなガキどもがオレらの相手なわけ?」
智花達の対戦相手であるギャングの集団のしたっぱらしき男が、バカにしたように言った。
この世界のルールには、こんな決まりもあった。
サポートキャラを除いて三人以上の団体での対戦は可能であるが、誰かがリーダーとなって攻撃を受ける役目を担う必要がある。その者が倒れれば、その団体の敗北が決定する。
今回の場合、智花と女バスのメンバーにそのルールが適用され、智花が前線に立つ必要があった。
団体で戦う場合、攻撃を受けるリーダーの下で戦う者達は、自らの意思で動くことはできず、まるでリーダーの手足のように動かされるのである。
智花と戦おうとしているギャングの集団ももれなくルールが適用され、リーダー格の男が智花達を睨んでいた。
「ひっ……あの人怖いよ……!」
愛莉はギャングのリーダー格に怯えていた。金の坊主頭で両耳にイヤーカフスとピアスを着け、更に鼻、唇にまでピアスをしており、クチャクチャとガムまで噛んでいる。
子供を怯えさせるには十分すぎるほどの強面が智花達の相手であった。
「あァ? テメェなに見てやがンだ?」
一方通行は威嚇し返すように言う。
「……へっ、ロリコン野郎が」
リーダー格の男は口に含んでいたガムを、一方通行に向けて吐き飛ばした。
――バカかコイツ――
一方通行は能力を発動すべく、首の装置のスイッチを押した。すると一瞬にして脳内に、飛んでくるガムの速度、方向の計算式が浮かぶ。後はベクトルをどう操作すれば、反射することができるかを演算するだけだった。
そして反射できるベクトルを確定することができた。後はそのまま飛んでくる物を元の場所に跳ね返す、そのはずだった。
「がっ!?」
反射されるはずの物体は、そのまま一方通行の顔に当たった。しかも眼球に当たってしまった。
一方通行は不意に変な声を出してしまう。
「ぎゃははは……! がっ、だってよ!」
ギャングの集団は一方通行の反応の仕方を笑いあった。
まだこの世界の理に慣れていない一方通行は、この世界にもギャングの集団にも苛立ちを覚える。
一方通行および打ち止めはサポートキャラであり、智花のように自ら戦うことができない。智花のようなメインキャラに命令を受けることにより初めて、その力を振るうことができるのである。
そのため、いくら演算能力があろうとも、その結果の通りにはベクトル変換として発現させる事ができなかった。
「誰ェ敵に回したか分かってンのかテメェ……?」
怒りに震える一方通行であるが、このままでは戦えない事が分かっているため、尚の事苛々していた。
「大丈夫? ってミサカはミサカは……」
「黙ってろガキ! おい、さっさと試合を始めろ! こいつらまとめて愉快なオブジェにしてやらなきゃ気がすまねェ!」
一方通行の苛立ちは智花にも向いた。
「はうっ! わっ、分かりました」
「それから戦いの間は、何回でもオレを呼べ、奴らの息の根はオレが止める!」
一方通行は下がっていった。
「あの、その……お願いします!」
智花はギャングの集団に丁寧に深々と頭を下げる。
「おいおい、本当にやろうってわけ?」
「やれやれ、オレらのチームもずいぶんなめられたものだなぁおい」
「まあ、いいんじゃない? ガキをいたぶれるなんて早々あるもんじゃねえしな!」
「しょうがない、不本意だけどやったりますか!」
智花とギャング、代表ヨシトのイグニッションデュエルが始まった。
「お願いします!」
開始早々に智花は一方通行を呼び出した。
戦いの最中のサポートキャラとなった一方通行は、能力が使用できるようになっていた。
喧嘩慣れしているとはいえ、特別ルールを設けられている状態では、ギャングのリーダーは思うように動けず、智花に一方的にやられていた。
「そォら、お片付けだ……!」
一方通行の能力は、彼のすさまじいまで演算能力によるベクトル変換である。あらゆるものを反射できるのは、彼に向かってくる物体の方向(ベクトル)を逆にする事で可能にしているためだった。
ベクトルを変換できるのは、なにも一方通行に飛んでくる物体に限らない。
重力に従って静止している物体のベクトルを変換することで、路上に転がっている石を弾丸のように発射することもできる。
そんな彼の能力の極めつけとも言えるのが、自らが地面を蹴るベクトルを反作用ごと変えて衝撃波を放つことであった。
「チャンスです!」
「ぶっ飛べ!」
「ぎゃああああ!」
ヨシトは衝撃波に触れると、ベクトル変換によって逆転した重力、そのまま変わらない空間の通常の重力に挟まれ、上下に激しく叩きつけられた。
「イイネ、最高だァ!」
一方通行は屈辱を受けた借りを何倍にもして返し、すっかり愉悦に浸っていた。
一方通行の能力に痛め付けられダウンするヨシトに向かって、智花も追撃すべく駆け寄っていた。
「ふっ!」
智花はボールを体の周りで回転させ、起き上がり際のヨシトの足を払った。
「ぐおっ!?」
ヨシトは体勢を崩され、再びダウンさせられようとしていた。
「ここ……!」
智花は次にボールをドリブルし、相手をダウンさせる前にドリブルするボールを当てた。
するとその瞬間、驚くべき事にヨシトはバスケットボールに変化してしまった。
一頭身に手足を丸め込むような形の人型ボールは、元がギャングなだけに、非常に不気味な代物であった。
智花はボールに変化したヨシトを数回ドリブルすると、両手で持ち、膝の力を抜いた華麗なジャンプと同時に空へと放り投げた。
「シュート!」
思念が具現化するこの世界の理故か、投げた先にはどういうわけか、バスケットボールのゴールが出現していた。そしてボールは寸分の狂いなく、リングに吸い込まれるようにゴールが決まった。
――もっかんナイシュー!――
智花の頭の中に、真帆の声が響いた。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗