電撃FCI The episode of SEGA 2
今、この神室町にて野試合を行っていたのは、元の神室町でもその存在は最早伝説と言われる、背中に応龍を背負った極道の龍、桐生一馬であった。
「マジかよ、あの桐生なのか!? そういえば、一緒にいる方には見覚えがあるな……」
一馬のサポートキャラも、神室町では有名な人物であった。
テクノカットの髪形で、左目を失っており、真っ黒な眼帯をしている。蛇柄の革ジャンを素肌に羽織り、背中から両肩にかけて施された刺青が覗き見えており、その手には短刀(ドス)が握られている。
この男はその昔、東城会直系嶋野組の若頭を務めており、当時超武力派の性格で恐れられ、抗争においては誰よりも激しく暴れまわっていた。
今では東城会直系の組を持ち、直系組長という立場上以前ほどの武力派ではなくなったが、それでも戦いにこそ己の美学を見いだしており、桐生一馬を自らの手で倒すことを生涯の目的としている。
「ああ、思い出したぞ! あの眼帯、あの髪形……! 嶋野の狂犬とか言われてた真島吾朗だ!」
真島吾朗は昔の暴れっぷりから、その筋の者から嶋野の狂犬と呼ばれていた。
「そんな、あの二人までこの世界に来てるってのか!?」
どちらも、堂島の龍、嶋野の狂犬という二つ名を持ち、神室町では最早伝説的な存在であった。
嶋野の狂犬、真島吾朗の方はある組織の軍団が神室町に侵入してきたとき、深傷を負いながらもそれらを退け、堂島の龍、桐生一馬にいたっては素手で本物の猛獣、虎を、しかも二匹相手にして虎を気絶させた事があった。
もとの世界の神室町であれば、ここに集う群衆が束になろうともこの二人は倒せないことだろう。彼らの強さは、異世界となった神室町でも存分に猛威をふるっていた。
「手加減はしねえ……。死にてえ奴だけ、かかってこい!」
一馬は群衆に向けて一喝した。
「ひ、ひええ……!?」
「どど……堂島の龍に、ししし……嶋野の狂犬? とっ、とても敵わねぇよ……!」
これまでの一馬の戦いを見て、その上素性まで分かってしまった後では、群衆はすっかり畏縮しており、挑戦を申し出る者などいなくなっていた。
「おぅらどうした!? さっさと来やがれ!」
一馬の怒鳴り声に、更に畏縮して群衆は引いていく。
「なんや、もう終わりかいな? 敵はほとんど桐生チャンがやってまうから、ワシャまだまだ戦い足りないで……」
完全にびくつく群衆を前にして、吾朗はため息をついた。
メインキャラではない彼はイグニッションデュエルを行っても、動きに制限がかかり、もとの世界のようには暴れられなかった。そのため戦いに満足できていなかったのだ。
「……ここらが潮時か?」
一馬ももう、挑戦者が現れないだろうと諦めかけていた。その時だった。
「おっもしろい! それならあたし達の挑戦を受けやがれー!」
「おー、受けやがれー」
「面白いから、ミサカもミサカも挑戦をあなた達に叩き付けてみたりー!」
群衆の中から響いた挑戦の声は、この場にはあまりにも不釣り合いな少女の声であった。
※※※
堂島の龍、桐生一馬。嶋野の狂犬、真島吾朗。この伝説的な男達に戦いを挑んだのは、年端もいかない少女達であった。
突然の名乗り出に、野試合を見物する群衆にどよめきが走った。
「おいおい、マジかよ!? あのバケモンにまだ挑む気になる奴がいるなんてよ……!」
「しかもよく見りゃ、ガキだぜ!? それも女子供だ!」
「女子供が相手? それでもあの二人、挑戦を受けるつもりなのか?」
このような群衆のどよめきは、しばらく続いた。
人波をかき分けて智花達は真帆達へと追い付いた。
「遅いぞもっかん、アックン! あの二人に勝負を挑むぞ!」
「ちょっと真帆!? 何を勝手に……」
「おー、ひなもやる気まんまんー!」
「ひなたまで……」
「一方通行、あの二人、この街じゃ最強らしいよ、ってミサカはミサカはあなたを扇動してみるー!」
「テメェ、クソガキ!」
勢い付く真帆達は、メインキャラの智花に戦う意思を持たせようとする。
真帆達に戸惑う智花であったが、それ以上に驚いていたのは一馬達であった。
「あぁ? なんやあのガキは、桐生チャンとこのガキか?」
一馬は沖縄に孤児院を持っていた。更に言えば、一馬自身も孤児であり、ヒマワリという孤児院出身である。
「いや、あんな子達は俺の所にはいない。アサガオにもたまに顔を出してるが、そっちでも見たことがねえ……」
それにしても、と一馬は驚きである。
この世界には不思議なルールがあるとはいえ、こんな膂力のない子供が勝負を仕掛けてきた。もとの世界の神室町では絶対にあり得ないことである。
「……お前達、本気で俺達と戦うつもりなのか?」
「いえ、私は、その……」
「おう! この真帆様は絶対に逃げないぜ!」
真帆は変わらず、屈強な男を前にしても物怖じしない。
「ちょっと真帆、本気なの?」
「へっへー! 当たり前だろ、紗季!」
「でも、この人達、さっきの人よりも恐いよ……」
愛莉は二人、特にも吾朗の風体を見て怯えていた。刺青の見え隠れする蛇柄の革ジャンを裸に羽織り、眼帯までしている彼の容貌は小学生の少女を震え上がらせるのに十分だった。
その吾朗と、愛莉は目が合ってしまった。
「ああん?」
「ひゃっ、えと、あの……」
吾朗はニヤリと笑う。
「お前ガキのくせにえらいべっぴんさんやないかい。どや、ワシの女にならへんか?」
「ふえええ!?」
なんと吾朗は、親と子ほどの差がありそうな愛莉に興味を示したのだ。
愛莉は、小学生にしては非常に早熟であり、本人は気にしていることだが長身で、スタイルも大人の女とそれほど変わらない。
故に愛莉はかつて、二十代と思われる男からナンパを受けたことがあった。そして今もまた、嶋野の狂犬と恐れられる真島吾朗にナンパまがいのものを受けている。
「どやねん、ええ?」
吾朗の手には短刀がある。いくらここが死ぬことはない世界とはいえ、彼の機嫌を損ねるような言動をすれば、その短刀でひどい目に遭わされるかもしれない。
「おい、真島。その辺にしておけ、あの子が恐がっているだろう?」
一馬が愛莉に助け船を出す。
「桐生チャンは黙っときや。ワシャいまあの女と話しとるんやからな」
真島の視線が、再び愛莉に向く。
「どやねん、カワイコちゃん? ワシャちいとばかし気が短いんや。はよなんとか言わんかい!?」
終始ニヤニヤしていた吾朗は一変し、その筋の者らしくドスの効いた声を上げた。
「真島、止めるんだ」
「……いやです」
愛莉は今にも泣き出しそうな声で言った。
「私、恐い人は嫌なんです。だから、ごめんなさい……!」
愛莉は勇気をもって、自らの意思を告げた。頭を下げると、恐怖のあまりに目に貯まっていた涙がこぼれ落ちた。
吾朗は一瞬、この世の終わりのような驚き顔をしたかと思うと、すぐに大声で笑い始めた。
「ふふふ……、ワハハハハ!」
吾朗の人となりを知らない者は皆、彼の豹変ぶりに驚きを隠せなかった。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗