電撃FCI The episode of SEGA 2
「ワハハ! 正直な子や! ええで、それでええんや。人の顔色窺ったりせんと正直に言う。オレがそうやからな、ますます気に入ったで、お嬢ちゃん! ああせや、別にオレの女にはならんでええで。オレはもっと熟した女が好きやからな」
がはがは笑う吾朗の隣で、一馬はため息をついた。
「……全く、本当に読めねぇな、アンタだけは」
正直者が好きなのは結構なことであるが、吾朗の性分は長い付き合いである一馬にも理解しがたいものだった。
それよりも、と一馬は目前の問題に思考を変える。
「お前達、本当に俺に挑むつもりなのか?」
いくらこの世界でいくら特別な力が働いて、傷付くことも血を流すことがないとはいっても一馬は、これほど小さな子供を相手するのは気が引けた。
「桐生チャンはホンマに甘いなぁ。アマアマや。ここでの戦いはほんのお遊び程度にしかならんやないか。戦ってみりゃええんとちゃうか?」
吾朗は真帆達の、勇猛果敢な挑戦を無下にするつもりはないようだった。
「真島、しかし……」
やはり一馬は気乗りしない。
「つゥかよォ、テメェらの最強ってのは一般人の中でだろォが。あァ? そォだろ、この三下どもが」
学園都市最強を誇る一方通行は、一馬達を腕力だけの無能力者だと見下すように言った。
「ああん? オレらが三下やと? おい、そこのモヤシっ子、下らん冗談言ってるとホンマにどつくで?」
「へっ、おもしれェじゃねェか。テメェらじゃオレに触れることもできねェ事を見せてやるよ、三下ァ!」
一方通行と吾朗は睨みあう。しかし、お互いにサポートキャラのため、戦いには発展しない。
「桐生チャン!」
「智花ァ!」
二人はそれぞれのメインキャラに戦いを始めるように呼び掛ける。
「しかし……」
一馬はまだ決断できずにいた。
「あうう、どうしたら……?」
智花も戦いに、は気が進まないようだった。
真帆、紗季、ひなた、一方通行、打ち止めは戦いに賛成しており、反対しているのは愛莉と智花だけであり、一馬を入れても多数決では、戦いを始めるしかない。
しかし、戦うかどうかはメインキャラである一馬や智花にしか選択の余地はない。サポートキャラや、自らの分身的存在がどれほどやる気であっても、最終的な決定は彼らにかかっていた。
「もっかん、あたしはやるよ! 全力で戦うぞ!」
「おー、ひなもがんばるー!」
「この二人、特に真帆がこう言い出したらもう聞かないわよ。トモ、やるしかないわ」
「真帆、ひなた、紗季……ううう……」
智花にはどうしようもない欠点があった。それは女バスのメンバーには返しきれないほどの恩があり、どうしても彼女らには頭が上がらない弱点があった。
かつて人に嫌われ、疎まれた経験のある智花は、二度と同じ思いをしないように彼女達には反駁せず、好きなようにさせていたのだ。今もまたそうした思いと板挟みになっている。
「智花、と言ったか?」
ふと、一馬が声をかけてきた。
「ふえっ!? は、はい、桐生さん!」
智花は思わぬ名指しに驚いてしまう。
「ひとまず周りの奴らの事は気にせず考えてみるんだ。お前自身はどうしたい?」
「私自身が……?」
智花の考えとしては、仕方なく戦うべきか、というものである。しかし、それはあくまでメンバーに気を遣っての事であり、智花の真の意思によるものとは言えない。
こんな時、あの人ならばどう言うだろうか。智花は、もとの世界でコーチをしてくれている長谷川昴(はせがわすばる)の事を考える。
すると、智花の脳裏に浮かんだ昴が、智花に呼びかけてきた。そして同時に智花は決断する。
「桐生一馬さん! 私と、私達と戦ってください!」
「フッ……」
一馬は、小さな体で自らに挑戦してくる智花を見て小さく笑った。
「おお! ついにやる気になったんだな、もっかん!」
「さァ、愉快に素敵に決めてやンよ!」
智花の決断により、勝負が始まる事になった。真帆と一方通行達は意気込む。
「智花ちゃん、本気なの……?」
愛莉はやはり、吾朗が恐いのか、戦いには参戦したくないようだった。
「愛莉、私は決めたの。どんな勝負からも逃げないって。愛莉だって逃げないって決めたじゃない」
「それは……」
「大丈夫、みんなで頑張れば勝てるよ。私はみんなの力を信じてる」
智花は皆を集めて円陣を組む。
「みんな、私はみんなを信じてる。みんなも私を信じて! みんなで頑張れば、きっと勝てる!」
智花は胸一杯に大きく息を吸い込んだ。
「慧心女バスー……!」
智花は掛け声を上げ、メンバーに目配せした。
真帆はニヤリと笑い、ひなたは満面の笑みを浮かべている。
紗季はしょうがないな、といった様子ながらもまんざらでもない表情をしていた。
しかし愛莉はやはり、どこか恐れている顔をしている。
「アイリーン、往生際が悪いぞ!」
「おー、あいり恐いー?」
「うう……」
愛莉はまだ、恐怖から抜け出せていなかった。
「大丈夫よ、愛莉。トモならきっと勝てるわ。けどそのためには、私達がトモをサポートしなきゃ」
「紗季ちゃん……」
「私達には愛莉の力が必要なの。愛莉がいなきゃ絶対にだめ。愛莉、お願い。私に力を貸して!」
智花は必死に思いを伝えた。
「智花ちゃん……そうだね、みんなで頑張ればきっと勝てるよね。どんなに恐い人が相手でも……!」
愛莉は自らが必要とされている事を知り、決意を固める。
「そうだぜアイリーン! あたし達の力が合わされば、どんな相手も恐くないぜ!」
「おー、恐くない、恐くないー」
「精一杯、トモをサポートしましょう」
「うん、みんなで勝とうね」
「さあもっかん! そうと決まればもう一回掛け声を頼む!」
「うん、それじゃ行くよ……!」
智花は再び、胸一杯に大きく息を吸い込み、そして高らかに声を上げた。
「慧心女バスー!」
そしてメンバーも大きな声で掛け声を上げる。
「ファイトー! おーッ!」
五人は背伸びをし、つま先立ちしながら、空へと手を大きく掲げた。
一方通行は、五人の少女達を見てため息をついた。
「けっ、くだらねェ……」
そんな彼の様子を、打ち止めはニヤニヤしながら見ていた。
「あァ? テメェ何見てやがる?」
「本当はあなたもあの輪に入りたいんじゃないの? ってミサカはミサカは質問を投げ掛けてみたり」
「あン? なンでこのオレがそンな事しなきゃなンねェンだよ……」
一方通行は、頭をくしゃくしゃと掻きながらそっぽを向く。
「あの子達に助けられた恩を忘れたの? ってミサカはミサカはもうひとつ訊ねてみたり」
「けっ、分かってるっつの……」
何故、一方通行と打ち止めが智花達慧心女バスメンバーに従っているのか、それは彼らがこの世界に呼び寄せられた時まで遡る。
サポートキャラである彼らは、この世界では彼ら単体では能力の発動もできず、戦うことができない状態であった。
欲望と暴力の渦巻く街、神室町に降り立ったのが運の尽きであった。
この世界では死ぬことも怪我をする事もないとはいえ、暴力を受ければそれなりの苦痛が伴う。
一方通行と打ち止めは神室町のメインキャラ級のギャングよって、ギャング達の憂さ晴らしとして一方的に暴力を受けていた。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗