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「FRAME」 ――邂逅録4 彷徨編

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 国際線の搭乗口は霊体でくまなく探した。そこにはいないことから、実体となり、空港の入口へと足を向けた。まだ手続きを行っていないのなら、こちらから向かえばどこかで会える。
 広い施設内に目を走らせた。エミヤのスキルは十二分に発揮されているが、目的の姿が見つからない。
「このフロアではないのか?」
 まだ空港に到着していないのならば、駅やバスやタクシーの降り場のある一つ下のフロアへ向かった方が確実だ。
 階下へ降りると、電車で到着したらしい人々がバラバラと入ってくるのが見えた。だが、その一団に求める姿はない。バスやタクシーの降り場かもしれない、と踵を返しかけて、足を止めた。
 前の一団より少し遅れて入口を潜った姿に、エミヤは呼吸を忘れた。
「…………」
 その姿に魅入られたように、足が向かっていく。そこから視線を外さず、すれ違う人を避け、足早に追う。エスカレーターに乗ってしまった後ろ姿を、階段を駆け上がって追う。
 ここまで来て逃したりはしない。探し続け、求め続けた存在を、やっと見つけることができたのだ。
 待合のベンチの側で、左肩に背負っていたリュックを足元に下ろし、疲れた表情でベンチに座った姿に、エミヤはほっと息を吐いた。
「士郎……」
 こぼれた声は、空港内の騒めきにかき消される。
 魔力を流すのを止めたのか、右腕がだらりと重そうに下がった。
(ああ、士郎、やっと……)
 今すぐにでも抱きしめたくなる。だが人がたくさんいるこんな場所では憚られた。
 エミヤは柄にもなく緊張していて呼吸が苦しい。胸元に手を当て、深呼吸をしてみる。少し落ち着いてから気配を殺してベンチに近づく。
 士郎の隣が空いた。なんと声をかければいいか、とエミヤは惑う。
 緊張しつつ、ベンチに腰を下ろした。
(やっと……見つけた……)
 安堵するとともに、士郎に気取られてしまい、警戒して立ち上がった士郎の右手を咄嗟に掴む。
(放すわけにはいかない、この機会を、この存在を……)
 士郎が硬直したのを感じ、立ち上がってその頬に空いた手を伸ばした。
「士郎」
 どさ。
 士郎が手にしていたリュックが床に落ちた。



***

 騒めきに耳を澄まして、多少右足を引きずってでも“視力”の方へ魔力を多く使う。
 駅から空港へ向かう通路は思っていたよりも人が多かった。空港の施設内へ入って、士郎は搭乗受付カウンターを目指す。
「平日なのに、人が多いんだな……」
 空港に着くまでにも魔力と気力をかなり使い、疲れが溜まってきている士郎は、休憩のためにベンチに腰を下ろす。
 身体に魔力を流すのを止めた途端、右の腕と脚から力が失われ、視界は真っ暗になった。
 人の騒めきだけが耳に入る。
 頬に当たる風が、人が歩くたびに感じられ、魔力を使わなくとも、人の動きはある程度わかるものだなと気づく。
(それにしても、ちょっと、無謀だったか……)
 ふ、と息を吐き、士郎はベンチの背もたれに身体を預けた。
 これから日本を出て放浪しようというのに、空港に来るだけで疲れていては先が思いやられる、と士郎はぼんやり思う。
「はは……早まったかなぁ……」
 乾いた笑いを漏らした時、違和感を覚えた。隣に座っていた人は少し前に立ち去っていた。また別の人が座ったのだと思っていたが、何かが違う。
(え……?)
 士郎は背もたれから身体を浮かせる。
(人……じゃない……?)
 冷たい汗が背中を滑った。
(もう、見つかったのか?)
 隣に座っているのはどこかの魔術師が放った使い魔ではないのか。
 士郎の鼓動が速くなる。
(どう、切り抜ける?)
 今の身体でどこまで逃げ切れるか、と算段をつけようとするが、いい案など浮かばない。
 とにかく、何も気づいていないふりで立ち上がった。途端、右手首を掴まれる。
(腕、切ってでも……、いや、それじゃ、手当てに時間がかかる、どうする……!)
 手首を掴んだまま相手も立ち上がったのを感じる。
(連れ戻される……のか? あの監獄みたいなところに? それとも、監視下に置くだけ、か……?)
 どう手を打つかと考えあぐねる士郎の頬に、温かいものが触れた。
「…………」
 それが掌だと感じるのに時間はかからない。この感触を、温もりを士郎は知っている。
「士郎」
 耳に届いた声に、士郎は左手に持っていたリュックサックを落としてしまった。
 聞き違いでなければ、それは、その声は、確かによく知る者の声だ。
(違う、そんなはずはない。アイツは座に還ったし、また召喚されたとしても、記憶はないし、俺をこんなふうに呼ぶことなんて、なくて――)
「士郎、よかった、間に合った」
 もう間違いなどではないと悟ったのに、士郎は何も答えられない。
「すまなかった、私は、何度もお前と出会っていたというのにな……」
 項垂れる士郎の頭を撫でる手は優しく温かく、士郎が求め続けたあの時のエミヤと同じで、ますます士郎は顔を俯ける。
「士郎、私の我が儘を、叶えてくれるだろうか?」
「…………なん、だよ」
「契約をしてくれ」
「なっ、なに、言って――」
「迷惑は百も承知だ。だが、私はまだ、お前の願いを叶えていない」
「願い叶えるって……、神サマかよ……」
「神ではないが、お前の願いは必ず叶える」
 きっぱりとした声を否定するように、士郎は首を振る。
「士郎、契約を」
 左手を取られ、エミヤの胸元に持っていかれる。
「しない。そんなこと、そんなワガママ、俺は、できない……」
「士郎、頼む」
 士郎は首を振り続ける。
「エミヤ……、なんで、アンタがここにいるのか知らないけど、俺は、アンタと契約なんてしない……、アンタを……縛ったりしたら、俺は…………自分が、許せなくなる……アンタは、理想を求めて戦い続ける……、それが、正しい、それが、アンタの正道で、俺には追えない、アンタの理想で……、こんなところで、こんな俺が、アンタを縛っていいはずがなく……て……」
「士郎……」
 エミヤに頭を引き寄せられ、その肩口に額を押し付けることになる。
「エミ……ヤ、放し――」
「士郎、何度でも謝る。私と契約をしてくれ。これ以上、お前を傷つけることなど、できない」
「なん、の、話……だ……」
「私が覚えていなかったから、記憶がなかったから、お前はいつも、私に何も言わずに、傷ついていただろう? お前と色々な話をしたというのに、何も覚えていなかった。お前が笑おうとしているのに、それがどこか悲しく見えて、私は、どうしてだと、ずっと訊きたくて、だが……、訊く勇気がなくて……。お前はそんな私に気づいていたのだろう? 私はお前にずっと気遣わせていた。だが、最後に、還る前にわかったのだ。記憶としてではなく、たくさんの感覚でお前を覚えていたのだと。それを伝えられずにすまないと、あの時、私は言いたかった。……いや、そんなものは、言い訳だ、私はただお前を抱きしめたかったのだ。抱きしめて、何度でもキスをして、それから――」
「も、もう! やめろ! は、放せよっ! このっ! は、恥ずかしいこと、ベラベラ、しゃべりやがって! このっ! バカやろっ!」