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「FRAME」 ――邂逅録4 彷徨編

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 真っ直ぐに見つめてくる鈍色の瞳は、最後に見送った時とはまた違っていた。
「お前に任せる」
 静かな答えに、少しだけ笑うことができた。
「一度も、行けなかったからさ……」
「了解した」
 エミヤは、どこだ、とも訊かず頷くと、また士郎を抱き寄せる。
「エミヤ、あの……」
「なんだ」
「横になりたいから、えっと、そろそろ、放して、ほしい」
 しばらく反応のなかったエミヤが、そのままベッドに倒れ込んだ。
「え? あの、エミヤ? ど、どうした、あ、あの、あれ?」
「横になっただろう」
 何か文句があるか、と言いたげな顔のエミヤに、混乱していた士郎はむっつりとした。
「お、落ち着かない」
「我慢しろ」
 何を言っても放そうとしないエミヤに、士郎は諦めて目を閉じた。
(この温もり、久しぶりだ……)
 不満に思ったはずなのに、士郎はどこか安堵を覚えて、すぐに意識が落ちていった。



***

 士郎を抱えたままで、ホテルのフロントマンに訝しげな視線を送られながらチェックインを済ませたエミヤは、部屋に入ってようやく人心地ついた。
 士郎をベッドに寝かせ、その縁に腰を下ろす。
「は……」
 安堵の息がこぼれた。
「やっと、会えた……」
 赤銅色の髪を撫で、そっと指先で左瞼に触れる。瞼に傷は残っていない。
 凛は、士郎は目が見えない、と言っていたが、もしかすると、また士郎は彼女を謀っているのかもしれない、と楽観的に考えたくなる。
「訊いてみなければ、わからないか……」
 士郎が目覚めたら、確認しようと思い、ごろり、とベッドの端に横になった。
「士郎……」
 何度も呼んだ、ずっと探した、召喚された地で、時間の許す限り訪ねて回って、士郎の足跡を見つけるたびに歓喜した。
 目の前に求め続けた存在がある。手の触れるところにいる。温もりが感じられる、呼吸も、鼓動も、目覚めれば声も……。
(ああ、やっと……)
 この腕に抱きしめることができる。
 エミヤは目を閉じる。今はただ、士郎の目覚めを待とう、と、士郎の左手に指を絡めて、そっと握った。


 目覚めた士郎にどうしようもなくなって、エミヤは抱きしめた。
 何か言い訳をしようと思うが、何も言葉が浮かばなかった。
 ただ目の前に士郎がいるということが、とてつもなくうれしく、そして安心する。
 何も言えないエミヤを士郎は受け入れていた。その上、左腕を背中に回してきた。
 それだけで、何もかもが、士郎を探して彷徨っていた時の苦しさが、なんだ、というほど呆気なく消えてしまった。
「士郎、会いたかった、会って、謝って、伝えたいことが、山ほど……」
 言葉に詰まる。伝えたいと思うのに、上手く声にならない。
「俺も、謝ろうと思ってた。勝手に契約を、切って、嫌な思い、させて、ごめんな。座に還って、記憶が戻ったら、きっと、アンタが嫌な気分になるってことまで、俺、気が回らなくて……」
「かまわない、士郎が謝ることなどない」
 士郎の髪を撫でると、ぎゅ、としがみついてきた。
(士郎……)
 そんなことをされると、ますます調子に乗ってしまいそうで、エミヤは言葉を探す。
「士郎、やはり、目は、もう……?」
「あ……、うん。遠坂が治してくれようとしたけど、ちょっと、無理だった」
「たわけ……」
 馬鹿なことをして、と叱ってやろうと思っていたのに、声がほとんど出なかった。


 ルームサービスで食事をとった後、士郎はこのままでは動くこともできないので回路を調整すると言って、ベッドに横たわった。
 以前のような結跏趺坐ではないことを訊くと、回路の混線が酷く身体を起こすのも億劫なのだという。
(契約解除と再契約を一度にやってのけたのだ、乱れてしまっても仕方がないだろう……)
 士郎が集中できるようにと、エミヤはベッドから離れようとした。
「エミヤ」
 呼ばれてベッドの側に片膝をつく。
「どうした?」
「ん」
 左手を出してくる士郎に、首を傾げる。
「手」
 短く言われて手を出すと、ぎゅ、と握られた。
「し、士郎?」
 手を握られたくらいで動揺している己を、やや可笑しく思ったが、それよりも、士郎の行動の意図がエミヤにはわからない。
「前みたいに、魔力切れ起こしたりしないように。こうしていれば、透けたりしたら、わかるだろ?」
「あ、ああ……、そう、だな……」
「しばらく、動かないでいてくれよな」
 緑光の魔力の瞳が薄れ、瞼を閉じた士郎の呼吸が深くなっていく。
 ふつり、と魔力が途絶えた。

 魔力が滞った状態で、エミヤはベッドの縁に座ったまま、士郎に手を握られている。
 以前のように魔力切れに気づかないことがないようにと、士郎がエミヤの手を握った予防策。それだけのことだというのに、エミヤはうれしくて仕方がない。
 じっと士郎を見つめる。玉の汗が士郎の額に浮かんでいる。乱れることのない呼吸は士郎が集中していることの証だ。
 エミヤはただ待つだけのこんな時間でも、士郎の傍にいられる、という喜びを感じている。
(あの焦燥に比べたら、動かずに待つくらい、どうということもない……)
 苦しい時間だった、とエミヤは思い返す。
 なんの手がかりも無く、ただ召喚された場所で士郎を探す時間は、苦しくて仕方のないことだった。
「エミ……ヤ……」
 士郎の声に、思考の淵から舞い戻る。
「魔力、平気か?」
 掠れた声に頷き、士郎の身体を支え起こす。
「うまくいったのか?」
「半分……」
 エミヤの手渡したボトルの水を飲み、息をついた士郎は短く答えた。
「アンタの分と、脚を優先的にして、移動はできるようにした。もう少し西へ行ってから、そこでまた調整しないとな、これじゃ旅に出るとか以前の問題だから」
 疲れた笑みを見せる士郎に、エミヤはにっこりとして頷く。
「エミヤ? どうした? なんか、うれしいことでもあったか?」
「ああ、ある」
 首を傾げる士郎に、
「魔力はいつ頃流れてくる?」
 エミヤがにこやかに言うと、ハッとした士郎は、じり、と後退る。
「ま、まだ、切れて、いないだろ?」
 魔力が滞って流れて来ないものの、魔力切れは起こしてはいない。緊急事態とは言えないが、この後にそうならないとも言えない。だが、明らかにそうはならない、とエミヤにはわかっている。
「先にもらっておこうか、士郎」
 のし、とベッドに乗り上がると、士郎は真っ赤になった。
「っ……」
 思わずエミヤは息を呑む。エミヤの方がどうにかなりそうな士郎の反応だった。
(どうしたのか、こいつは……、今さら、そんな赤くなるようなことか……?)
 いつも、ためらいもなくキスをしてきた。
 キスが好きだと言っていたにも関わらず、魔力の経口摂取すらためらうというのは、どういうことか、とエミヤは首を傾げたくなる。
 あれから、たった数ヶ月が過ぎただけのはずだ。その間に、いったい士郎はどうしてしまったのか。
「い、今じゃ、なく、ても……」
 士郎は逃げ腰で訴える。
「今、欲しい」
 直球で返すと、ぐ、と押し黙った士郎が俯く。
 その仕草が、さらにエミヤのいろんなものをかき立てるとも知らず、士郎は耳まで赤くしている。
「士郎?」
「ぅ……、も、もう! わ、わかったよ!」