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「FRAME」 ――邂逅録4 彷徨編

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 どうしてそんな顔で笑うのかと、記憶を持たなかったエミヤは驚きを隠せなかった。
 己と大差ない酷い生き方だと知った。それでも、士郎は笑っていた、悲しいと言えずに。
 悲しみを混在させたままで笑う姿が、ただ痛々しいと胸が苦しかった。
 仲間を失ったことを魔術協会の取り調べで聞かされた。士郎の生きた道を嘲笑交じりに語った魔術協会の連中に苛立ちながら、ただ、士郎が傷ついていなければ、とそればかりを気にしていた。
 だからだろうか、監禁生活から解放されて、衛宮邸で過ごした僅かな日々は、穏やかで、温かいものだったと思える。
 士郎は、たとえ記憶が無くても、と思いはじめていたのかもしれない。
 ともに歩いていけるのなら、これから一緒に記憶を作っていこうと、必死に気持ちを切り替えようとしていたのかもしれない。
「士郎……、お前に心から笑っていてほしいと思うのは……、私の、身勝手だろうか……」
 片手で目元を覆い、項垂れたまま、エミヤは呟いた。



 座に戻り、また違った、とエミヤは乾いた土に拳を打ちつける。
 こうして憤っていても無駄だと知っている。
 拳を振り下ろし、己の身体に傷を作っても無意味だと知っている。
 エミヤは既に自らの意思を叶える存在ではない。
 エミヤの意思など何も尊重されない。守護者に必要なのは、エミヤの意思ではなく、エミヤの従順な力だけなのだから。
 だが、それでも、これだけは叶えたいと、エミヤは望む。
 記憶を持ったままで、士郎に会いたい、と。
 どうしても、たとえ何年が経過していようとも、己が気の遠くなるような時を費やしたとしても、と……。
「士郎……」
 うずくまって額を地に擦り付け、血の滲む拳を何度も土に叩きつけ、エミヤの脳裡には、その胸のうちには、士郎のこと以外、何もなかった。
 士郎に座に還された後から、エミヤは記憶を持ったままで召喚されるようになっていた。
 今さら、とは思ったが、召喚された時と場所に士郎がいるかもしれないと、エミヤは希望をどうにかして繋ぐ。
 幾度もの召喚が行われ、何度も繰り返される殺戮に、吐き気を覚えていたのはいつの頃までか、エミヤ自身、覚えがない。
 積もっていくのは胸糞の悪い行いの記憶だけで、たった一つの願いは、いまだ叶えられないまま。
(あれから何年が経ったのだろう?)
 そんなことを思って、いや、と首を振る。
 エミヤには、時間軸というものがない。エミヤの感じる時の流れと、現実世界の時の流れは全く次元の違うものだ。
(士郎……)
 その名を、面影を、想わない瞬間はない。まるで刷り込まれたように、胸に焼き付けられたように、エミヤはただ士郎を探し求める。


 また召喚されてエミヤは地に降り立っていた。
「ここは、いつだ……」
 砂埃の舞う土地は、このところ頻繁に召喚される。
 どの国のどの辺りなのか、などエミヤには、はっきりとはわからない。
 口元まで覆った外套を少し下げ、辺りを見渡す。
 どこか、見覚えがある気がした。
 荒廃した町に人の姿はまばらで、行政などの手が回っていないように見える。
 崩れかけた建物の壁にもたれ、生死も定かではない町の人間にエミヤは声をかける。
 “エミヤシロウを知っているか?”と。
 みな、虚ろな目を上げ、首を横に振る。
 ここでもないか、と思いはじめていた時に話しかけた、中年と思われる痩せた男が反応を示した。
「知っているのか?」
 エミヤは思わず男に迫る。男は痩せた頬にシワを刻み、下卑た笑い顔を見せる。
「ああ、懐かしいなぁ、みんなで、あいつをどう落とそうかってぇ、いーっつも話してたんだぁ」
 逸る気持ちを抑えながら、片膝をついて男の話に聞き入る。この男は、士郎が最後に所属していた、あの下水溝の組織にいたらしい。
「あいつは、幹部どものお気に入りだったからなぁ、一人になるのを狙ったんだが、返り討ちにあっちまって、いっぺんも、指一本も、さわれなかったさ……」
 聞きながら、エミヤはだんだんと腹立たしさに襲われる。この男の話だと、あの組織にいた連中は、どうにかして士郎を手籠めにしようとしていたようだ。
 そんな組織にいて、よく無事だったものだ、と思いながら、いかがわしい薬を盛られていたことを思い出す。
(ああ、無事、というわけでもなかったか……)
 思い出したくもない光景も脳裡に浮かんで、エミヤは嘆息する。
「聖女みたいなぁ、あの潔癖な顔をよぉ、どろどろにしてやろうってぇ、五人ぐれぇで輪姦しゃ、すぐに腰振って悦ぶメスになるってよぉっ、ぐがっ」
 エミヤの拳が男の顔にめり込んでいた。
「ひ、ひぃ、な、なに、すんだ、あんたっ」
 士郎を貶めるような猥雑な話に、思わずエミヤは拳を男に見舞っていた。
「ごたくはいい、今、彼はどこにいる」
 見下ろすエミヤの射殺すような視線に男は文句も言えず、血の出る鼻を押さえる。
「し、死んじまったよ! 空爆でな! あれがみんな壊しちまった!」
「いつの話だ」
「む、むかしの話さ、に、二十年はな!」
「そうか」
 エミヤは立ち上がる。
(二十年……)
 士郎がいたこの世界は、あの世界だ。あの下水溝の組織への空爆が二十年前。
 衛宮邸に行くことができれば、会えるかもしれない。
 エミヤは“仕事”を済ませてすぐに日本へ向かおうと決めた。
 だが、守護者という身は、決心したからといって思い通りになるほど自由ではない。日本へ向かう前にエミヤは座に戻ってしまった。
「もう少し、時間さえあれば……」
 憤りを土に打ちつけ、エミヤは吐露する。
「諦めるな、あの世界にも道は繋がっている。まだ、終わったわけではない」
 歯を喰いしばって、エミヤは握った拳をまた打ちつけた。



「ここも違ったか……」
 透けていく自身の手を見つめ、エミヤは目を伏せる。
「おー! 愛しのブローンズ!」
 その声に、肩を揺らし、エミヤは振り返った。
 今回の“仕事”が終わり、いつものごとく士郎を探し歩き、座に引き戻されようとしている、その後方で呑気な声がする。
 この難民キャンプに女でもいるのだろう、やさぐれた感じの男は両手を広げて、会いに来たことをアピールしている。エミヤは呆れながらそちらを見ていた。
 路地裏から見えるのは、仮設の掘っ立て小屋の入り口あたり。前の男が両手を広げて、女に飛び込んで来い、とでも言うように待っている。
「うるせーよ、目立つなって、言われてんだろ、アラン」
 その声にエミヤは目を剥く。
「つれねーこと言うなよー」
 アランと呼ばれた男は、小屋から出てきた者を抱きしめた。瞬間、エミヤの身体から殺気が湧く。
 男に抱きしめられた者がハッとして路地裏を振り返ったが、そこにはなんの姿もなかった。
 エミヤは座に還っていた。
「は? ……なんだ? 今のは? 士郎?」
 伸ばした手は何も掴めなかった。こちらを振り返った一瞬の琥珀色。
 あれは士郎だった。右目は髪で隠れていた。探し求める士郎の姿だった。
 エミヤにとっては、衝撃の一瞬だった。
 アランという男に、士郎はおとなしく抱きしめられていた。何も咎めていなかったところを考えると、それを許している様子だ。