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「FRAME」 ――邂逅録5 蒼天編

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「言っただろう、あの場は二度目だと」
 砂埃の中で魔術師に囲まれた時、確かにエミヤは二度目だと言った。
「ああ、そういえば……」
「あれが、はじまりだったのかもしれない」
「はじまり?」
「お前の命を救いたいと願った」
 エミヤがどこか辛そうに話すので、士郎は深く訊いたことを後悔した。
「士郎?」
「ごめん、嫌なこと、思い出させただろ?」
 申し訳なさそうに窺う士郎に、エミヤは、ふ、と目を細める。
「いや、あれがなければ今はない。思い出すのはやはりいい気はしないが、あれも私の大切な記憶だ」
「そっか」
 ほっとしように笑う士郎の身体の向きを変えて正面から抱きしめ、エミヤも穏やかな笑みを浮かべる。
「今、こうしていられるのだから、十分だ」
「アンタ、ほんとに、恥ずかしいことしか言わないな……」
 呆れるように言った士郎の頭を撫でて、エミヤは首筋に顔を埋めてくる。
「ああ、そういえば、電話をした方がいいな」
「電話? 誰に?」
「凛に」
「あ……」
 エミヤを召喚してくれた凛に、士郎は行き先も何も、礼すら言っていない。エミヤと契約が切れたことで、凛にはエミヤが士郎と会えたとはわかっているのだろうが。
「あ、うん、そうだな、じゃあ、夜にでもかけ――」
「今すぐだ」
「へ?」
 エミヤはサイドテーブルに置いてある携帯電話を取り、士郎に手渡す。
「今って……」
 困惑してエミヤを上目で見ると、
「ここは夜明け前だが、日本は朝だ」
 有無を言わせない口調で言って、士郎を見返してくる。
「わ、わかったよ……」
 士郎は気怠い身体を起こして左側は脱げていたシャツを肩にかける。あちこちが怠く、やたらと腰が重いのは、エミヤがまあまあ無茶をしてくれたせいだ。
 ため息をつきながら携帯電話を操作する。凛が今、日本にいるかはわからないが、とりあえず自宅にかけることにした。留守電にメッセージを残すだけでもいい、彼女にエミヤと会えたことを報告し、感謝の意を伝えられるのなら。
「あ、あのさぁ……」
「なんだ?」
 エミヤは士郎の腰に腕を回したまま、腿を撫でながら舐めている。
(そんなところ、舐めるな……)
 エミヤの頭を押し退けて、士郎はベッドから足を下ろし、壁際へ逃れる。
「俺、電話、するって……」
「ああ、かまわない」
 言いながらエミヤは士郎の腰を再び掴みに来る。
「だ、だから、ちょっと、待ってって!」
 携帯電話を持ったままの士郎を一度見上げ、エミヤは素直に引いた。ほっとして士郎は電話をかける。呼び出し音が何度かして、声が聞こえた。
「あの、と、遠坂?」
『…………士郎っ?』
 きーん、と耳に響く声で呼ばれ、思わず携帯電話を耳から離す。
『士郎? 士郎?』
 心配そうな声が聞こえ、慌てて士郎は携帯電話を耳に当てる。
「あ、うん、その、えっと……」
『元気? 身体、大丈夫なの?』
「う、うん、平気」
 うまく話せない。何をどう言おうかと、用意していたはずの言葉が出てこない。
『アーチャーは、元気?』
 くすくす、と笑う凛の声が聞こえる。
「な、なに、笑ってるんだよ」
『ふふ、なんだか、何を言おうかーって、迷ってる顔が目に浮かぶから!』
「そ、そんなことない!」
 図星だったが、そこは否定しておいた。
(こ、こんな言い合いしてる場合じゃない。電話代もバカにならないんだし、早く用件を切り出さないと……)
 士郎は一つ咳払いをして、気を取り直す。
「あの、遠坂、……えっと、あり、がとな」
『なぁにぃ、あらたまっちゃってぇ。気持ち悪いわよ?』
「う……、と、とにかく、その、アー、えっと、エミヤを……喚んで、くれて……」
『それ、アーチャーにも言われたんだけど……』
 呆れたような声が聞こえる。
「え? そうなのか? あ、そ、そっか、そう、なんだ……」
 召喚されたことを、エミヤも感謝していたと聞けば、士郎もうれしくなる。
『ふふ……、士郎、今までの分も、楽しく生きて。あんたはね、もっとあんたを大事にしなきゃダメよ? アーチャーが傍にいるんなら大丈夫だろうけど、あんたはもっと自分を愛しなさい』
 凛の言葉がじーんと心に響いた。顔も目頭も熱くなる。
「うん、ありがとな、遠さっ、っ」
 ひゅ、と息を呑んで、士郎は視線を落とす。
(こいつ!)
 エミヤが再び腰にまとわりついている。
『なに? 士郎? どうしたの?』
「うや、な、なんでも、なんでもない! ちょ、ちょっと、待ってくれよ?」
 通話口を押さえて、エミヤを睨む。
「触るなよ!」
 小声で言うが、エミヤは聞こえないふりで腰骨を舐めている。
『士郎? どうしたの?』
「い、いや、な、なんにも! そ、その、とにかく、ありがと、遠坂、また、連絡する!」
『え、ええ、身体に気をつけてね』
「うん、気をつける。朝早くにごめんな! ま、またな!」
『ええ、またね』
 電話を切って、ほっと息を吐いた。
「俺、電話中!」
「フン、さっさと切らないからだ」
 身体を起こして背中から抱きしめてきたエミヤは不機嫌に言った。
「電話しろって、言ったの、アンタだけど……」
「長電話しろとは言っていない」
「長……」
 長電話と言われるほど長かったわけではない。
「アンタ……、意外と、嫉妬深い……?」
 背後から肩に顔を埋めていたエミヤが、ちら、とこちらを上目で見る。その鈍色の瞳に、なぜか士郎の方が、ドキッとしてしまう。
「ああ、そうだ。悪いか」
(あ、開き直った……)
 呆気に取られる士郎を、エミヤはあっさりとベッドに転がす。
「な、なに、さかってるんだよ」
「発情期なものでね」
「はい?」
「冗談だ、たわけ」
「じょ、冗談って……、笑えないだろ、それ……」
「うるさい。黙っていろ」
 なんだか、急に横暴だ、と士郎はため息をつきながら、そのままエミヤに流されることにした。


 クラクションの音が聞こえて士郎は瞼を上げた。魔力を左目に集めると、室内は昼近くの明るさになっている。
 どうやら世間はもうお昼時のようだ、と身体を起こそうとしたが、絡まる腕が重く、士郎は小さく息を吐く。狭いベッドで身体をずらして、エミヤを仰のいて見上げた。
(眠ることとか、あるんだな……)
 少し驚きながら士郎はやっとのことで身体を起こす。喉が渇いて仕方がない。エミヤの重い腕をそっと退けて、床に落ちていたエミヤのシャツを取ろうとすると、いきなり腰を引き寄せられた。
「アーチャー?」
「…………ふふ」
 くぐもった笑い声が聞こえて、士郎は首を捻る。
「アーチャー、どうした? 笑ってる、のか?」
 エミヤに抱き寄せられて、士郎は再びベッドに寝転ぶ羽目になっている。
「ようやく、素直に呼んだな」
 うれしそうに笑うエミヤに、つい顔が熱を持ってしまって、左手でその顔を押し退ける。
「む、何をする……」
「……もう、アンタ、恥ずかし過ぎるんだよ!」
 逃れようとする士郎の頬に触れ、鼻先に口づけたエミヤは、まるで仔犬を可愛がるように士郎の頭を撫で回す。
「やめろって……」
 言葉ではエミヤを止めるものの、士郎の声には勢いがない。士郎も心地好さを感じているのだ。