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「FRAME」 ――邂逅録5 蒼天編

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 そのうちにエミヤが頬を両手で包むので、士郎は右頬の手を退けようとした。
「傷に触れられるのは嫌か?」
「いいものじゃないだろ」
 士郎が自嘲の笑みを浮かべると髪をそっと掻き上げてくる。
「やめ――」
 制止する前に、右頬の傷に口づけられて士郎は声を飲んだ。
「お前が生きた証だ。お前が歯を喰いしばって、必死に生きようとした、その証を厭うことなどない」
「アーチャー……?」
「この傷も、この傷も……」
 シャツの上から脇腹の傷に触れてエミヤは微笑む。抱き合う時も士郎はシャツを脱ぐことを拒んだ。いくらエミヤには見られたことがあるといっても、こういう時には見られたくなかった、醜く引き攣れた傷痕など。
 そんな士郎に無理強いをせず、エミヤはそのままにさせてくれた。気が引けた士郎が肩肌脱ぎになると、無理をしなくていいと抱きしめてくれた。この傷痕を気にしていることをエミヤがわかってくれているというだけで、士郎の胸は熱くなった。
 傷痕を熱い掌で撫でて、エミヤはこめかみに口づけてくる。
「私との記憶だと思えばいい」
「そん……」
 確かに、あの時にエミヤに救われなければ今ここに士郎はいない。自らも傷を負いながら、エミヤはあの時、士郎に生きる術を残してくれた。
「そっか、うん、そうだな……」
 士郎は左腕を伸ばす。
「アーチャーとの、大切な、思い出だ」
 口づけるとエミヤはそのまま圧し掛かってくる。
 エミヤは箍が外れたように士郎を求めてくる。その理由を士郎は知らないが、そのうちに話してくれるだろうと期待して、エミヤの背中に腕を回した。



***

「ここでさ、集合って……」
 士郎はSAVEの集合場所だったバーで、小さな笑みを浮かべた。
 人口密度の多いその街のバーは、雑多な人種で溢れている。
 ここを集合場所にしていたSAVEという一団のメンバーもやはり、出身国は多様だった。
 みな、それぞれに理由を抱え、理想を抱え、何かに追われている者もいたらしい。士郎がSAVEに出会ったのは偶然で、そのまま居残っただけだと士郎は話していた。
「みんな、いい奴だったなぁ。家族とは別れたって人ばかりだったけど、親兄弟や子供を愛してた」
 テーブルにはグラスが三つ。二人の分と、もう一つは、もういない人物のもの。
「シェードは、どうしようもない、ぐうたらだったよな。ほんと、だらしないったらなかった」
 肩を竦める士郎に、
「ああ、本当に」
 と、小さく笑いながらエミヤも頷く。
「花でも持って行ってやるか?」
「ガラじゃないって、怒られそうだ」
「確かに。まあ、嫌がらせの意味では効果はあるだろうがな」
「嫌がりそうだもんなぁ」
 士郎はおかしそうに笑った。
 士郎と穏やかに酒を飲む。こんな時間が来るとは思ってもいなかった、とエミヤは酒に温まった息を吐く。
 テーブルに頬杖をつき、グラスを弄びながら、ふと口を開く。
「士郎、どうやって魔術回路を調整している?」
 突然の質問に、士郎は数度瞬く。
「……回路を作り直す」
 少し考えてから答えた内容にエミヤは驚いた。
「作りなお……、そんなことができるのか? いつ、誰にそんな魔術を習った?」
「習ったって……、俺、時計塔出てからは、誰にも習ってない、アンタ以外には」
「私はそんなことを教えた覚えはない」
「記憶、飛んでるのかよ……」
 目を据わらせる士郎に、エミヤは首を振って否定する。
「いや、記憶は確かだ。だが、作り直す、など、そんなことは……」
「魔力で動かせって言ったじゃないか。アンタが教えてくれたからできたんだ」
「いや、あれは、教えたというには、あまりにも曖昧な……」
「えっと、作り直すっていうのは、語弊があるな。えっと、修正する、って感じだ」
「修正……」
「俺の魔術回路は今、右側に偏っているんだ。左には数本だけ。これは、契約とか投影とかで使えるように最低限だ。それから、左目に常時で二本と、視覚って情報量が多いから、臨時での回路を三本作ってある。視力がたくさん必要な時にこっちにも回せるようにって。あとは、アーチャーに魔力を流すのにも必要だから、右側に寄った何本かをアーチャーにも向けてあるけど、脚に筋力がついたから、ずいぶんと余裕ができたよ。
 それで、この回路の修正ってのが厄介で、いったん、リセットしないとできないから、時間がかかるんだ」
「それを、自力で、か……」
「やるしかないだろ? 誰もいなかったんだから。だけど、アーチャーが気づかせてくれなかったら、俺は生きていなかったな。きっとあのまま、あそこで命を落としてた」
「しかし、気づいたからと言って、そんな簡単な話ではないだろう?」
「ああ、うん、簡単じゃなかった。だから、右腕、こんなに歪んだ。治癒が後回しになって、骨はただの棒だった。関節がダメで、曲げるために折ったから、我ながら歪だって思う。脚はすぐに必要だったから、どうにかなったんだけどなぁ」
 右腕を曲げたり伸ばしたりしながら、士郎は淡々と説明している。
「お前は、それを、独りで……」
「なに言ってるんだよ、アーチャーも独りだったじゃないか。エミヤシロウは、いつも独り。カッコつけのどうしようもない奴、だろ?」
 返す言葉もなく、そうだな、と頷いた。
「それよりも、アーチャーの話、俺、聞いてない」
「話? なんの話だ?」
「俺を探した話」
 士郎は少し酔っているのか、とろり、とした眼差しで見つめてくる。
「目新しい話などない。守護者として殺戮を繰り返したというだけだ」
 納得いかないという顔をするので、仕方なく士郎の痕跡があった時のことだけを話した。
「ああ、そういえば、アフリカの紛争地でお前を魔法使いと呼ぶ少年と出会った」
「え……」
「お前のことは内緒なのだと言って、それでも瞳をキラキラとさせて、お前のことを話してくれた」
 その時の胸に灯った温もりが己を奮い立たせたことも、繰り返す召喚に諦めそうになっては、歯を喰いしばって立ち上がったことも、エミヤは隠すこともなく士郎に全てを話した。
 ごめんな、と士郎は謝って、うれしそうに笑った。
「ここがバーでなかったら押し倒すところだ」
 ぼそり、と言うと、
「はは、俺も、抱きついてるところだ」
 と、士郎もノってくる。
 誘惑に負けそうな己を奮い立たせてエミヤはグラスを煽った。
「しかし、あの下水組織は、けしからん」
 たん、と空になったグラスをテーブルに置く。
「また、その話ぃ?」
 目を据わらせる士郎がグラスを口に当てながらうんざりと宙を見上げる。
「あそこにいた男が言っていた、何人かで襲ったと。返り討ちにあったらしいが、まったく、ろくなものじゃない」
「あー、いたっけなぁ、そんなの……、思い当たる節があり過ぎて、どいつだかわからないな……」
「お前という奴は……。それに、アランという男もだ! 愛しの、だと? ふざけるな!」
「はあ……、アランはもう死んだって言っただろ」
「死んだとしても、だ」
「アーチャー、酔ってるだろ?」
「酔ってなどいない」
「はいはい」
 士郎に軽くあしらわれる。
 エミヤはムッとしてグラスに残った氷を煽り、噛み砕いた。


「寒くないか?」
「うん、あったかい」