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「FRAME」 ――邂逅録5 蒼天編

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 笑ってくれるのだろうかと、エミヤはまた苦いため息をこぼして夜の街を歩いた。



 士郎のシャツ一枚の姿に、エミヤはこぼしかけたため息を飲み込む。
 今さら、服を着ろとも言えない。士郎の寝間着は成都のホテルではバスローブだったが、このアパートでは露店で買った、今着ている大きめのシャツ一枚なのだ。
 露店で数着を購入したのだが、そのシャツだけが表記のサイズと大きく異なっていた。士郎が着ても腿まで隠れるシャツでは、さすがに着られない、とサイズ交換に行こうとしたエミヤに、寝間着にするからと言って、以来、士郎はそのシャツだけで寝ている。
(寝間着にするのはいい。だが、それ一枚だけ、というのは……)
 せめて下着は着けてくれ、とエミヤはため息を吐くことしきり。
 だが、筋力アップと回路・魔力量の調整で疲労困憊の士郎は、シャワーを浴びればあとは寝るだけだ。ベッドに向かうだけでも精いっぱいの士郎に、もう今となっては、わざわざ下着も着けろ、などと言えるわけがない。
 右脚を引きずりつつベッドへ辿り着いた士郎は、髪を拭いている。
 汗だか、水滴だかが、首筋を伝って胸元へ落ちていく。
(ああ、舐め回したい)
 いやいや何を、とエミヤは眉間にシワを寄せる。
(少々、変態ぽくなってきている……。まずい……、気を紛らわさなければ、手を伸ばしてしまいそうになる……)
 エミヤは浴室へ逃げ込んだ。熱を冷ますように、冷たいシャワーを頭からかぶる。
 ギスギスしていても、士郎への想いは消えることがない。士郎が今まで誰と何をしていたか、と考えると頭が沸騰しそうな怒りを覚える。会話すらままならないこの関係に、大きなため息が漏れる。
 なのに、触れたいと思い、傍にいたいと願う。
「士郎……」
 苦しくて息を吐く。胸のあたりの疼きが、やけに甘ったるいのに、焼け付くようだ。
「……くそ……っ」
 自慰でもすれば、少しはマシになるのかもしれないと、わかっているがエミヤは手を伸ばす気にはならない。
「は……」
 ため息すら、甘ったるい。
「勘弁してくれ……」
 壁に手をついたまま、頭から冷たいシャワーをかぶる。
(冗談じゃない。私はこんなことをするために士郎と契約がしたかったわけじゃない。士郎とまだ見ぬ光景を探したくて召喚を望んだのだ。こんなことでは、……決してない!)
 身体は冷え切ったが、頭の中はまだ熾火を残している。だが、他の住人もシャワーを使いだしたのだろう、水圧が弱くなり、シャワーの勢いがなくなってきてしまった。
 仕方なく浴室を出て、ソファに腰を下ろす。間仕切りのタペストリーの合間からベッドが見える。目を逸らそうと思うが視線はどうしても士郎を追ってしまう。
「っ!」
 座ったままで壁にもたれた士郎がぐったりしていた。
 ゾッとして、すぐに身体が動かない。
「し……、士郎!」
 やっとのことで駆け寄って、士郎の頬を軽く叩く。
「ん……」
 薄く瞼が開いた。ほっとしてそのままベッドに腰を下ろす。
「あ……れ? エミヤ?」
「寝るのなら、普通に寝ろ、たわけ」
 もしや、と冷たい汗が噴き出た。
 エミヤは本気で焦ったのだ。もし士郎の身に万が一のことがあれば魔力が滞る。わからないはずがないのに、エミヤは冷静さを失った。それほどに士郎を失うということが恐ろしい。
 乗り上がったベッドから下りようと思うのに、まだ身体が動かない。エミヤが動けずにいると、士郎に呼ばれる。
「エミヤ」
 顔を上げると、表情のない士郎が少し眉根を寄せた。
「…………還りたいか?」
「な……に……?」
「やっぱり、こんなの、やってられないだろ?」
 呆然と士郎を見つめる。
(何を……、まさか、私がおかしなことばかりを考えていることに嫌気がさしたか?)
「俺と契約したって、結局、俺の世話じゃないか。こんなこと、アンタは、やってる場合じゃないだろう?」
「士郎? 何を、言っているんだ?」
 驚きが大きすぎて、上手く頭が働かない。
(座に還れと言っているのか? 士郎は私とともに旅に出ようと……)
 困惑して声すら出ない。
「アンタはやっぱり、守護者でないとって、話だよ」
 士郎の腕を引いて、ベッドに押し付けた。
「な、に? アー……、エ、エミヤ?」
 もう、この時間では、士郎は魔力をほとんど身体に回せない。視力もない。
「士郎、私は、こうしたい。嫌なら、全力で拒め」
 拒む力などないことをエミヤは知っている。残っているのは、左手脚とエミヤに流れる魔力だけだ。なりふりかまわず本気で抵抗するなら、エミヤとの契約を解除しなければならない。
 エミヤはそこまで士郎を追い込んだ。
(我ながら、卑怯だ……)
 士郎が簡単に拒めない状況を作っている。
(だが、冗談じゃない。今さら座に還れだと? ふざけるな。私は必死に探し続けたのだぞ! なぜ、今になって還れなどと言う?)
 呆然とする士郎に口づける。
 反応がないことくらい百も承知だった。そんなことで、エミヤは気落ちしたりなどしない。
(伝わらない言葉なら要らない。言葉で無理なら、身体でわからせてやる!)
 どれほどに士郎に執着しているかということをエミヤはこんな形でしか表せない。
 執拗に舌を絡め取り、甘く唇を噛めば、士郎は左腕で押し返そうとしてくる。抵抗されることも想定内だ、慌てはしない。
「今さら何を拒む。“処女”でもないのだし、一度も二度も、変わらないだろう?」
 びく、と士郎の肩が揺れ、それきり士郎は抵抗しなくなった。
 寝間着のシャツのボタンを外し、脱がそうとすると、士郎は慌てて押さえる。
「士郎?」
 眉根を寄せたままで、右半身を、掴んだシャツと動かない右腕を持ってきて必死に覆っている。
(今さら、何を恥ずかしがるのか。意識のない間に身体を洗ったこともある、士郎の身体なら見飽きている)
 力づくで剥ぎ取ろうとしても、士郎は頑なにシャツを握りしめているままだ。
「手を退けろ」
「見るな……」
 弱々しい声だった。強く反発する声ではなかった。
「士郎?」
 左肩は露わになっていても右側だけは押さえ込んでいる。
(そこにあるのは……)
 傷痕だ。士郎の右脇腹には酷い傷痕がある。
「士郎、傷など、」
「見ないで……くれ……」
 士郎のこんな声を聞いたことはなかった。いつも、どこか茶化しているふうで、傷のことなど無頓着なのに、と思い返してハッとする。
 士郎は腕と脚のことはよく話していたが、この脇腹の傷と右目の傷には一切触れようとしなかった。それは、触れられたくないことで、きっと見られたくもないはずの痕。
 声を震わせて願うほどに、士郎はこの傷のことを気にしているのだ。そんなことに今頃気づく。
 一気に熱が引いた。
(こんなに士郎を困らせて、私は何をやっているのか……)
 士郎を押さえつけていた手を引く。冷えきった身体同様、エミヤの頭も冷えた。
「ア、アンタ、その……、溜まって、る、のか……?」
「ああ」
 当然だ、と答えると、士郎は苦笑いを浮かべた。
(なぜ、そんな顔をする?)
「守護者の時は、こんなこと、できない、しな……」
(なに? どういう意味だ?)
 士郎の言葉の意味がわからない。