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その髪のひとすじでさえも

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桂が身体を寄せてきた。
体温を感じる。
その唇にくちづける。
これまで、何度もしてきたこと。
しかし、心が震える。
愛している。
心から。
そう思う。
少しして、離れた。
桂の顔を見る。
すると、その眼差しがこちらに向けられる。
その口が動く。
「続きはしないのか」
「……あのな」
さすがに身体が反応しかかったが、押さえこむ。
「テメーの中で、俺ァ、鬼畜認定されてんのかよ。深傷を負って、その傷口が開いて、痛み止め飲んでるヤツを、どうこうしようって気になるか。いや、なっても、やらねェよ」
「途中までとか……」
「テメーはよっぽどでもなけりゃ、言わねーだろ。だから、どこまでならいいのかわからねーよ」
じろっとにらみつける。
パラシュートで着地するまで痛みを隠しきって、着地後に意識不明に陥ったことを、暗に匂わせた。
倒れられるまで、その痛みに気づかなかったのは、自分としてはかなり衝撃的なことだった。
桂は黙りこんだ。
うつむいたとき、その黒髪が少し揺れた。
短くなってしまった。
似蔵に斬られたから。
黒髪の束を見せつけられたときの記憶が閃光のように頭によみがえった。
ムカつく。
そう思った。
だが、それは口には出さず、代わりに違うことを言う。
「もう、寝ろ」
「……ああ」
「灯り、消すぞ」
立ちあがり、天井にある灯りから垂れさがる紐を引っ張った。
部屋が闇色に染まる。
下を見ると、桂が布団に身を横たえていた。
その布団の中にもぐりこむ。
「隣に寝るのは、大丈夫だろーな」
「来てから言うな」
桂は言い返しつつ、隣を空けた。
そこに身を横たえ、さらに、桂を抱き寄せる。
しばらくして。
「なァ、銀時」
「なんだ」
「高杉のことだが」
「今、その名前、聞きたくねーよ」
「怒ってるのか」
「それもあるが、こーゆー状態で、オメーから他の男の名前、聞きたくねェんだよ」
「はァ?」
「嫉妬だ。悪ィか」
「悪いもなにも、なぜ、おまえが高杉に嫉妬するんだ」
「オメーが高杉のこと、気にかけてるからだろ」
「気にかけてなにが悪い。だいたい、俺と高杉のあいだで、なにも起こりようがないのだから、嫉妬なんぞありえないだろうが」
桂は断言した。
作品名:その髪のひとすじでさえも 作家名:hujio