同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語
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本館を出て工廠まで来た那美恵と流留。工廠の入り口はまだ大きく開いている。夕日が差し込んできているが、工廠の入り口付近はまだ電灯がついていない。
那美恵たちはスタスタと工廠に入っていき、いまだ作業中の整備士たちに迷惑がかからないよう避けて中を進む。那珂として那美恵はすでに顔を知られているため、夕方の挨拶をしてくる整備士もいた。那美恵は挨拶し返し、彼(女)らに明石の居場所を聞いてさらに進む。
明石は工廠内の一角にある事務所のような部屋で数人の技師と話していた。会議中かと思い、那美恵と流留が外から彼女らを眺めていると、外に見知った少女2人がいることに気づいた明石が話を中断して戸を開けて出てきた。
「あら?二人とも。どうしたの?」
「はい。川内の艤装を返しにきました。」
「あーはいはい。そうでしたね。そういえば神通の艤装はどうなりました?」
当然聞かれるであろうことを聞かれた。先の体験により少し言いよどむ那美恵だったが、黙っていても仕方ないので、答えることにした。
「あたしは93.11%で神通と同調できたんです。ですけど……」
「え!?那美恵ちゃん神通とも同調できたんだ!!すっごいわね〜。でも、なに?」
軽く深呼吸をしたのち、那美恵は意を決して続きを口にした。
「それがですね。2回同調を試しまして、1回目にちょっとおかしな現象になったんです。2回めは問題なく同調できたんですけどね。」
「おかしな現象?」
「はい。」
那美恵は神通の艤装との1回めの同調のときに起きた異常を事細かに説明した。途中で突然思考が乱されるくらいの脳への情報の流れ込み、そして激しい頭痛。途中で入り混じった那珂と川内の記録の情景のことも覚えていることはすべて話した。
明石はそれを聞いてしばらくは呆然としていたが、眉間にしわを寄せて那美恵たちから視線をずらして何かを考え始めた。そして彼女は那美恵に近づいて口を開いた。
「ちょっといい?神通の艤装と一度こちらで通信するよ。」
「通信するとなにかわかるんですか?」
まずは神通の艤装のコアユニットを那美恵から受け取ろうとする。
「うん。コアユニットにはね、数回分の同調の記録がされるの。そこで正常だったか、エラーがあったかをチェックできるようになってるのよ。」
「へぇ〜。でもあたしたちが借りたタブレットのアプリではその時のエラーしか見られませんでしたけど?」
「そりゃあ、同調の連続した情報は一応機密に近い情報だもの。管理者権限のないアプリでは履歴は見られないようになっています。那美恵ちゃんたちに貸したのは一段階低い、利用者権限のものなのよ。」
そう言いながら明石は那美恵たちを事務所に案内し、事務所内においてあったタブレットを手に取り神通の艤装のコアユニットを近づけて画面を操作しはじめた。
同調の履歴情報を参照し始めると、最新より一つ前の履歴がUnknown Errorとなっていた。本来参照されるべきログが、アルファベットにもかかわらず、激しく文字化けを起こしてまったく読めない状態になっていた。それをまじまじと見た明石はため息を一つついた後、側にいた自社の技師に指示を出し、何かを持ってこさせた。
それは、神通の艤装のコアユニットと同型の箱であった。接続するためのケーブルがついている。それを見た那美恵は何をするのか聞いてみた。
「一旦このコアユニットの情報を全部コピーします。神通を形作ってる艤装の情報もコピーするから少し時間かかるから、ちょっと待っててね。コピーし終わったら、申し訳ないんだけど、また那美恵ちゃんには神通の艤装と同調してもらいたいんだ。いい?」
もともと神通の艤装との同調を見せびらかす目的もあったので那美恵は快く承諾したが、明石からの要求は少々数が多かった。
「いろいろテストケース、つまり試すパターンを増やしてやりたいから、時間かかると思うの。今日はもうこんな時間だし、那美恵ちゃんたちもあまり遅くなる前に帰りたいでしょ?私達も定時退社したいし。それでね、もし那美恵ちゃんの都合がつくなら、明日午前中付き合ってくれない?」
那美恵は自身の想像よりもおおごとになりそうな予感がしてきて不安がのしかかってくる感じがしたが、仕方なしに承諾する。学校へは阿賀奈経由で、艦娘部の大事な仕事があると連絡することにした。
艦娘部としても、顧問の阿賀奈としても、学校との折衝を含んだ艦娘関連の初作業であった。
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那美恵はもう一つ話さなければいけないことがあった。
それは川内の艤装と同調できた流留の、本当の試験のことである。学生艦娘の同調の試験について五月雨から聞いたことを明石に伝えると、明石はそういえばそうだったと笑いながら口にした。
「あ〜そういえばそうでした。学生艦娘でも普段は鎮守府に来て試験してもらってたからすっかり忘れてました。今回は外に持ち出すっていう初の事例だから運用がまずかったですね〜。」
「やっぱり外持ち出しっていろいろ問題あるんですね……。あたしとしたことが、もっと色々確認してから言い出せばよかったなぁ。」
「でも事前に同調できたかどうかがわかるのは良いポイントだと思いますよ。私達や提督の業界でいえば、単体テストと運用テストみたいなもんでしょうね〜。」
明石は業界でしか使われないような単語を言い出し、那美恵たちの頭に?を浮かばせる。が、那美恵たちは彼女が伝えたいことはなんとなく分かる気がした。
「じゃあせっかくなので、明日は流留ちゃんにも午前中来てもらいましょうか。それで改めて同調の試験。いいですか、流留ちゃん?」
「はい!全然問題ないです!」
「じゃあ明日は駅で待ち合わせしよっか、内田さん。」
「はい。」
「じゃあ二人とも、9時過ぎに鎮守府に来てください。多分明日は提督いらっしゃると思いますので。」
「ホントですか!?」
明石の想像で言った言葉にすぐさまに反応したのは流留だった。だが明石は提督のスケジュールを知らないので、そんな期待の眼差しで見られても困ってしまう。一応明石は流留にすぐさま断っておくことにした。
「あ〜、提督のスケジュールは五月雨ちゃんが覚えてるはずですのでそれはあとで確認しましょうね。」
結局その日は那美恵たちは神通の艤装を預け、翌日の約束を取り付けるだけに留めることとなった。その後工廠の入り口で明石と別れ、本館に戻った二人だがすでに鍵がかかっていた。あれから確認やら話し込みで、すでに30分経っているのに那美恵は気づいた。
連絡はあとでメールかメッセンジャーですればいいと思い、特段やることがなくなったため那美恵は流留に提案してみた。
「ねぇ内田さん。もー誰もいないけど、鎮守府の他の場所見ていく?」
「いいですねぇ!夕方の海ってなんかかっこ良くて好きなんですよ!見ましょう見ましょう!」
作品名:同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis