同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語
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那美恵たちが鎮守府についたのは17時を回った直後であった。まだ外は明るいが、夕方の雰囲気が人々を家に帰る雰囲気にさせる。まったく逆方向に歩いてきた二人はなんとなく気まずさを感じたが、それもすぐに気にしなくなる。
「さ、着いたよ。ここが、鎮守府だよ〜。」
「へぇ〜!ここが艦娘の基地なんだ!! うわぁ!うわぁ!すっごーい!」
何がすごくて流留を興奮させるのかその勢いに若干引き気味の那美恵だが、その喜びがまったくわからないわけでもない。
那美恵自身は鎮守府にも確かに最初驚いたが、それよりも本気で驚いてワクワクしたのは、出撃任務、そして初めて深海凄艦と対峙したときだ。鎮守府自体は割りとすぐに冷静に見られるようになってたなと、ふと思い返した。
「じゃあまずは執務室にいこ。今日は提督いないっていうから、代わりに五月雨ちゃんに会ってね。」
「その五月雨って人はなんなんですか?その人も艦娘?」
「うん。うちの鎮守府の一番最初の艦娘だよ。これがまた可愛らしくていい子なんだよ〜!あとね、秘書艦っていって、提督を色々サポートしているの。鎮守府内では提督の次に偉いんだよ。」
「はぁ〜じゃあ会長みたいにすごい人なんでしょうね。」
「すごいっていうかね〜まぁある意味ドジっ子臭はすごいけど。おっとりやだけど頭良いし可憐で可愛いし、きっとこれからすごくなるかもしれない子。年下だけど仲良くしておいて損はないよ。」
熱を込めて五月雨を紹介する那美恵だが、流留の反応はいまいちよろしくない。
「私はどうせならその提督って人に会ってみたかったのになぁ。」
「アハハ。まぁ内田さんとしてはやっぱりまだ男の人のほうがいい?」
「そうですね。まだ同性はちょっと。」
仕方ないねと頷きつつ流留に理解を示し、那美恵は鎮守府本館に歩を進め、扉を開けて入る。そのあとに流留も続く。
夕日が差し込む時間帯、ロビーは室内の明かりが強く辺りを照らし、夕日はグラウンド寄りの窓から差し込んで数m分床の見た目の色を変えるのみだ。ロビーには誰も居ない。
「誰も、いないですね。」
ポツリと流留がつぶやいた。その一言は閑散としたロビーの雰囲気に寂しさをプラスする。すかさず那美恵は言い訳のようなフォローをする。
「まあ、まだ人少ないしね。内田さんを入れてやっと9人だし。あ、明石さん入れると10人かぁ。ともかくね、人少ないし艦娘以外の職員って言ったら工廠にいる整備士さんとか技師さんくらい。あと、たまに清掃業者の人がくるくらい。」
「なんか、思ってたより現実的な基地なんですね、鎮守府って。」
「どんなの想像してたの〜?」
「いやぁ、アニメとか漫画のヒーローたちの基地のようなものっそメカニックな施設があったり、いっそ地下にあるのかと思ってました。」
「アハハ。現実はこんな感じだよ〜」
那美恵は歩きながら手を広げてクルリとまわり、辺りを指し示す。那美恵と流留はおしゃべりしながら階段を上がって上の階に行き、そして執務室の前に来た。
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コンコンとノックをする那美恵。すると中から女の子の声がした。
「どうぞ。」
「失礼します。」
那美恵は真面目な口調で返し、そして扉を開けて中に入った。
「あ!那珂さん!数日ぶりですね!」
流留は執務室なる部屋に入って真正面ではなく、脇にある机と椅子にいるちんまい少女を目の当たりにした。彼女は那美恵に気づくと、席を立って小走りでそばに近寄っていく。
那美恵はというと、相変わらずの愛らしさを放って近づいてくる五月雨を那美恵は抱きしめたい衝動を抑え、右手で敬礼するように前に出して普通に挨拶を返した。
「やっほ、五月雨ちゃん。元気してた?」
「はい!那珂さんこそ、あれから艦娘部の展示いかがでしたか?」
五月雨がいきなり核心をついてきたのでそれならばと、那美恵は本題に入ることにした。
「うん。今日はね、うちの後輩を連れてきたの。さぁ、五月雨ちゃんに挨拶して?」
「○○高校1年、内田流留です。川内と同調できたから、これからは艦娘としてよろしくお願いします!」
「はい!私は○○中学校2年の早川皐(はやかわさつき)って言います。この鎮守府では駆逐艦五月雨を担当しています。それと秘書艦です。よろしくお願いしますね!」
元気よく深々とお辞儀を流留にする五月雨。長い髪が両肩からサラサラと滑り落ちて前に垂れる。髪が肩口までしかなく短い流留はそれを見て、長くて綺麗だけど手入れが大変そうだなぁとどうでもいいことを頭に思い浮かべていた。
その前に、流留は握手をしようと手を前に出していたのだが、五月雨が先にお辞儀をしてしまったので手が宙ぶらりんになる。五月雨が上半身を揚げて姿勢を元に戻すと、彼女はやっと流留の手に気づいて慌てて手を差し出して握手を交わす。彼女の顔は少し朱に染まっていた。
挨拶した五月雨は那美恵と流留をソファーに促した。二人とも座らず荷物だけをソファーに置き、那美恵は五月雨に確認しはじめた。
「あのさ、うちの学校の子が一応同調できたわけだけど、提携してる学校の生徒を艦娘にするのって、具体的にはどういう手順を踏めばいいの? あたしは普通の艦娘として採用されたからわからなくって。」
那美恵の質問を聞いて、五月雨は少し得意げな表情になって解説し始めた。
「そうですね。学生艦娘制度で提携してる学校から艦娘を採用するときはですね、いつもやってる筆記試験はありません。同調できたという証明さえあればOKなんです。」
「なるほどね。一般の艦娘とは試験がないってところがポイントなのね。」
「はい!それでですね、ここからが大事なんです。同調できたということを、提督か工廠の人たちが同調率を確認して初めて、艦娘になる正式な許可を貰えるんです。」
五月雨の説明の数秒後、那美恵はゆっくりとしゃべりながら確認する。
「ええと。つまりあたしが内田さんの同調率を確認したところで、それは正式な判定ではない、意味がないってこと?」
「はい。」五月雨はサラリと肯定した。
それを聞いた那美恵は、額に手を当て、しまったぁ!という表情をした。流留は二人のやりとりをポカーンと見ている。つまりよくわかっていない。那美恵はそんな呆けている流留のほうを向き、説明した。
「内田さん。つまりね、提督か明石さんの前でもう一度同調してもらわないといけないの。」
「ふぅん。そうなんですか。」
「ゴメンね。二度手間三度手間になっちゃって。」
「いいですって。もーあんな恥ずかしい感覚がないなら何度だって試しますから。」
流留のその発言を聞いて、那美恵だけでなく五月雨もウンウンと頷かざるを得なかった。
「アハハ…同調の試験はもう一度受けてもらいますけど、身体は一度同調できてるからもう大丈夫だと思いますよ。」
「ねぇ。五月雨さんもやっぱり初めてのとき、あの感覚あった?」
「……はい。」
流留のカラッとした聞き方に、五月雨は恥ずかしそうに答えた。
「そっか。艦娘になる人はホントにみんな感じちゃうんだ。はぁ……」
作品名:同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis