白妙の宙
転校した先では、一切友達を作るようなこと、クラスメイトとコミニケーションするなどということをせずに、ただひたすら一人で何でもこなしていった。
輝二は孤独と共存していた。
同級生は彼を変人扱いし、無視した。知らないふりをした。
気に入らないという目で見る者もいた。
3年生に進級してそれはさらにエスカレートし、俗に言う、いじめへと発展した。
だけど、輝二は、輝二の態度は変わらなかった。彼等の行動を全て無視し、何があっても誰にもいじめにあっているという事は言わなかった。
そんなときに、輝二は新しい母とであった。
家に帰ると、見知らぬ女の人がこんにちわと自分に向かって挨拶。うろたえている間に、父は言った。「お前の新しい母さんだ」と嬉しそうに。
輝二は何も言うことが出来ずに、その女の人を見上げた。女の人は相変わらず優しげに微笑んでいた。
秋ごろになって、いじめはピークを迎えていた。
全員総無視のシカトはあたりまえ。
幼稚であるにもかかわらず過激な嫌がらせは、輝二の私物を教科書やら何やらをほぼ全てぶち壊す。放課後や休み時間に集団で殴られ、蹴られる暴行にあうこともしばしあった。
それでも、輝二は誰にも頼らず、何も言わず耐えていた。
酷い怪我などで帰ったときも、義母の心配する声も軽くかわす。そのためか、母はいじめにあっていることを悟れなかった。連れ合いが出来て、安心したのか、父は仕事に没頭。輝二の異変に気づくことも無かった。
ある日の放課後、輝二は体育館倉庫へと連行された。それも今までに無い人数に連れられて。その全員がすべて、男。
乱暴に輝二は倉庫の奥へと投げ込まれるように押された。
「・・・俺に構うなといっただろう・・・?」
いい加減、飽き飽きしてきたのか、輝二は冷たい目で彼等を見渡した。
「っ!かっこつけやがって!」
ガス・・・と輝二のわき腹に誰かの蹴りが入る。ぐっと、輝二はそこを押さえ、少しだけかがみ、咳き込んだ。
「そうそう、こんな髪してる女みたいなやつの癖に、女子にもてやがって」
もう一人の長身の少年が、うなじのところで無造作に結った髪を容赦なく引っ張る。女の子たちは、いじめを庇ったことでいじめられることを恐れて、知らんふりをしているが、たまに女子同士の会話で、彼の味方をしていることをたまたま、そいつが耳にしたらしかった。
「なぁ、それ、切っちまえよ」
また誰か男子が、言う。
俺もそうだが、髪の伸びるスピードが女の子並みで、切るのが面倒になるくらいになってしまう。
「いいね、それ、賛成」
また、違う男子がニヤニヤと楽しそうに笑いながらポケットに忍ばせていたカッターナイフを取り出し、ちちちと刃を出す。それを、髪を掴んでいるやつに手渡す。
黒い髪は音を立てて一気に切り落とされる。髪の毛が白いマットの上に模様を作った。
それでもまだ何か物足りないのか、短くなった髪を掴んで、また切って・・・を繰り返した。そのうちに手が滑ったのか、わざとなのかは分からないけれど、輝二の頬に傷がつけられる。傷からじわじわと血があふれ出て、頬を伝った。
「うわっ!!」
少年はのけぞって輝二から離れた。
「なっさけねぇなぁ・・・」
それを見てか、ずいぶんと大柄で、柄の悪い少年が後ろのほうから現れ、鼻で笑った。
「それくらいでびびってんじゃねぇよ」
言葉はさっきの少年に対してだが、行動は輝二を蹴り飛ばす。後ろに吹っ飛ばされた輝二はガツンとバスケットボールの籠に高等部を強打した。
「っっ!」
思わず顔が苦痛に歪む。
輝二のその表情を見て心底嬉しそうにそいつは、そいつ等は輝二を暴行することに熱中した。
「お前さ、母親死んだんだってな。噂で聞いたぜ。んで、今は親父が新しい母親を作ったらしいな。」
そうなのか、と周りの連中は感心する。
「で、も、だ。お前のことなんかどうでもいいみたいだな。こ〜んなに、俺たちに殴られてもなにも、学校から、親から言われてこないモンナ。お前さ、ソンくらいで不幸ヅラして・・・・っ」
その言葉に、今までおとなしかった輝二が動いた。
自分を殴っていた掃除用のモップを奪い、その言葉を言った張本人のみぞおちに棒の部分で一発食らわせた。その、首謀者らしき少年は、言葉途中で吹っ飛ばされ、後ろにひっくり返る。辺りを囲んでいた雑魚のようなものたちが一気に引く。だが、ひるんだのもつかの間、モップを奪おうと全員で取り掛かる。そして、全員いっぺんに吹っ飛ばされ、気絶。
ボスのような少年は、当たり何処とがよかったのか、気絶せずに腹を抱えてむせこんでいた。
「お・・・お前っっっ」
自分をまたぐように輝二が自分を見下していたのに築いてか、怯えるように逃げようとした。だが、逃げることは出来なかった。
「俺は・・・誰にも迷惑がかからないようにしていだんだがな・・・・」
そういうのを最期に、人体の急所に一撃を加え、そいつを気絶させた。
輝二の周りには倒れるいく人もの生徒。
「だから・・・俺に関わるなといったんだ」
そう、輝二は悲しそうに呟いた。
この一件が理由なのか、それとも積み重なっていたいじめが原因なのか、輝二はその学校を去り、転校した・・・。
まだ・・・小学三年生の頃なのに・・・。
輝二はこんなにも苦しんでいたのに・・。
次の世界のゆがみを最期に、俺の輝二の過去を見る時間も終わりを告げた。
さっきの、檻の中に戻ったとたん、身体はまた重くなり、鎖や手錠も身に纏っていた。
何故かさっきよりも重く感じた。
俺は、愚かだ。
見た目だけで、輝二は幸せなんだ、ずっと幸せに暮らしてきたんだと思ったなんて・・。
愚かすぎて、自嘲の笑みが止まない。
輝二は、あんな過去のなかで、一切涙を見せようとはしなかった。俺が見ていないだけかもしれないが、でも、あの場面で泣かないのはおかしいというのがいくつもあった。
我慢し続けていたんだ。
どうしていいかわからないから。
俺は輝二を憎んだ。
そんなのは、見当違いも、逆恨みもいいところだ。
輝二に罪は無いのに。
俺はまた、闇の中に堕ちていった。
ふと、鼓膜を刺激する誰かの声。
誰だろうか?自分を抱き上げて名前を呼んでいる・・。
「大丈夫か?!!輝一!!輝一!!」
焦点が合わなくて、ぼんやりとしか相手の顔は見えなかったけど、声で、誰かが分かった。
輝二だ。
でも、どうして?
籠の中には誰も入ってこれないはずなのに・・・
さっき、輝二は籠の外から罪を償えと俺に言って、嘲りながら去って言ったのに・・・・
どうして?
どうして、俺に大丈夫か、なんて言うんだ・・・?
ぼやけていた視界が、徐々にはっきりしていく。
そして、見えた。
輝二の表情が。
笑ってはいなかった。見下しても、冷たい目をしているわけでもなかった。
顔をゆがめて、心底心配そうに・・・。
そして、何かを必死で我慢しているような表情をしていた。
表情は、幼き日の輝二とダブる。
見たくないと思った。
してほしくないと思った。