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LIFE 12 ―School Festival―

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 俺だってそのつもりだ。学祭さえ終わればって、俺も思ってるんだ。俺だって、アーチャーとの時間がほしい。アーチャーとゆっくりする時間が……。
「は……」
 ため息を一つこぼして、屋上を後にした。

 午後の授業の合間に招待券を取り出して、じっと眺める。
(なんて言って渡せばいいかな……)
 来てくれ、とかはなんか、強制っぽいし、来なくてもいいから、っていうのも、じゃあ券なんか渡すなよって話だし。
(やっぱ、よかったら、来るか? とか、が無難かな?)
 よかったら、って、何がよかったらなのか……。
(あー、なんて言って渡せばいいんだよ……)
 招待券を見ながら、あーでもないこーでもないって、考えていると、ひょい、と招待券を奪われた。
「え?」
「衛宮、今年も要らないだろ? 今年もくれよー。おれん家、家族多いからさー」
 クラスメイトが二枚の招待券をひらひらさせて言う。
「え、あ、あの、こ、今年は――」
「下の妹が友達と一緒に来たいって言うんだよ、だから、頼むよー」
 お願い、と拝まれて、断れなかった。
 毎年、俺は招待券を渡す人がいないから、こいつに券をあげていた。だから、今年もって思ってたんだろう。
「ありがとな!」
 うれしそうに言われて、やっぱり返せとも言えない。
「まあ、仕方ないか」
 何が仕方ないんだろう?
 俺は、アーチャーに券を渡すべきだったんじゃないか?
 だって、毎日待たせて、毎日気遣わせて……。
 いつもがっついてくるアーチャーが週末も我慢してるし、魔力もきっとカツカツで、バイトも早く切り上げてるって言って……。
(ちゃんと謝ろう、券を渡せないことも、毎日遅くなったことも……)
 学祭を翌日に控えて、やっと俺は素直になろうと決めた。



***

「お待たせしました、アーチャー」
 遠坂邸の玄関の前で待っていると、ほどなくセイバーが扉を開けた。
「…………」
 驚きで、なんの言葉も、挨拶すら浮かばない。
 なぜなら、セイバーの格好が……。
 いつもの白いブラウスと青のスカートではなく、ナチュラルな色を基調とした膝下までのワンピースに、レースのロングベストが緩やかな風に揺れている。
「リンが、これを着て来いと用意してくれたのですが、おかしいでしょうか?」
 オレが何も言わず、まじまじと見ているものだから、セイバーは不安になったのだろう。
「ああ、いや、とてもよく似合っている。あまり見ない格好だったものだから……」
 途端にセイバーは照れくさそうに視線を逸らした。
「それを言うなら、アーチャーもです」
 ボソリと呟いたセイバーは、いつもは結わえた金髪を下ろしているため、彼女が首を傾けるたびに柔らかく揺れる。
(これが剣を振り回す騎士とは、思いもよらないな……)
 少しの気まずさは拭えないものの、とにかく穂群原学園までは行かなければならない。玄関の鍵をかけたセイバーと並んで歩き出す。
 滅多にない組み合わせだ。
 いつもは、士郎か凛か、二人ともいるか、なのに、戦うわけでもなくセイバーと二人きりというのは、少し落ち着かない。
「アーチャーの格好も、あまり見たことがありません」
 不意にこちらを見上げて言うセイバーに、
「そうだったか?」
 少し考えながら答える。
 士郎と出かけるときと、大差はない格好だが……。
 十月も半ばとなれば、シャツだけでは肌寒い。七分袖のインナーを着て、シャツを羽織り、ブラックジーンズにマーチンのショートブーツ、と、だいたい、いつもこんな感じになる。
 士郎が苦心してオレの服を探してくれるのだが、いかんせん懐具合とも相談すると、合うサイズも限られていて、どうしても無地で白か黒かが基調となってしまい、色柄物にはなかなか出会える機会がないのが現状だ。オーダーメイドであれば問題はないのだろうが、普段着にそこまで金をかけられるほど、衛宮家の金銭事情は豊かではない。
 似合う服が限られるんだ……、と士郎が頭を抱えていたことを思い出して、少し笑いがこみあげる。
「どうしました?」
「ああ、いや、マスターが真剣に私の服を選んでいたことを思い出した」
「……。羨ましいです」
 少し不貞腐れたような声に、目を向ける。
 年相応の少女の表情を見せるセイバーが可笑しい。
「やらんぞ」
「んな! ア、アーチャー! あなたという人は!」
 さらに頬を膨らませたセイバーを鼻で笑ってやった。


「すごい人だかりですね……」
 士郎と凛の通う穂群原学園に到着し、校門でセイバーとともに、思わず二の足を踏む。
 生徒と保護者のような人々、卒業生のような若者たちがひしめきあっている。校舎までの距離を進むのに、普通に歩くだけでも数十分はかかりそうな気がした。
 校門の右手にある一般受付を済ませ、セイバーと校舎を目指し、呼吸を整える。
「行くぞ、セイバー」
「ええ、アーチャー」
 ごった返す人混みを、すり抜けながら進む。このあたり、サーヴァントとしての能力をいかんなく発揮し、スムーズに校舎へと入ることができた。
「今日は土足でよいのですね」
 セイバーが少し驚いたように言う。まあ、外部からの人間が出入りするため、靴の脱ぎ履きの不便さや、屋内用スリッパの配備が難しいということなのだろう。
「楽でいい」
「そうですね」
 互いにブーツ系で、脱ぎ履きがしにくいオレたちには助かる。
「まずは、凛のところに行かなければな」
「はい」
 礼儀として、招待者の許へ最初に行くのが当然だという意見は一致した。だが、セイバーはキョロキョロとして落ち着かない。
 珍しいものばかりなのだろう。オレは、記憶にないとはいえ、曲がりなりにも経験している。それほどの感慨はない。ただ、士郎がどこで何をしているかということだけが、気になっている。
「二階の……」
 受付でもらったプログラムを片手に、凛のクラスが催している、喫茶店を目指す。
 その間、オレたちがやたらと注目を浴びている存在だということに、今さら気づく。
 対向する人々は、すれ違ってからもこちらを見ているし、背中には視線が突き刺さる。少し、気が滅入ってきてしまった。
 人々の視線に疲れてきたころ、目指す先から、凛が大股で近づいてくる。
「セイバー、アーチャー、来て!」
 有無を言わさず、オレとセイバーの腕を引っ張っていく。
 なんだ挨拶もなしなのか、と思っていると、凛のクラスの喫茶店まで引っ張って行かれた。
 中では生徒たちが一塊になって、何やら深刻な顔で相談している。
「代理を連れて来たわよ」
 凛の声に、クラスメイトと思われる数人が顔を上げる。
「遠坂さん……?」
 驚きを隠せないクラスメイトたちに歩み寄り、
「知り合いなの。この際、仕方ないわ」
 凛は真剣な顔で話している。
 何やら、嫌な予感しかしない。
「セイバー、アーチャー、二人とも着替えて!」
 やはり有無を言わせない凛に、
「凛、待て、何を……」
「リン、せっかく、着てきたのに……」
 セイバーは、凛に勧められた服を着替えろと言われ、不服気味だ。いや、今、そこに拘っている場合ではないぞ、セイバー。
「券、あげたでしょ?」
「いや、それは……」
 こんな見返りを用意して、招待券をくれたのか?
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ