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LIFE 12 ―School Festival―

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「問答無用! こっちは死活問題なのよ!」
 オレが券をくれと言ったわけではない、その招待券をかさに着て何を言うのだ、本当にこの悪魔は。
「早く!」
 パーテーションで区切られたバックヤードらしきところに押し込まれ、着替えを渡される。
「これ、着て! たぶんサイズは大丈夫だと思うわ」
 手渡された着替えに目を向ける。
「これは……」
 黒いスラックスとベストと上着、白のカッターシャツとクロスタイ……。
 まるでこれは……。
「セイバーはこっちよ」
 反対側へ連れて行かれたらしい、セイバーも着替えろと命じられている。
(仕方ない……)
 こんなはずでは全くなかったのだが、今の状態の凛に逆らうことは、おそらく士郎にもなんらかの影響が出そうな気がする。
「アーチャー、どう? サイズは大丈夫?」
「ああ、問題な……、くはない」
 上着の片袖を二の腕まで通して、凛に答える。
「何? どうしたの?」
「無理そうだ」
「え? えっと、は、入っても大丈夫かしら?」
「ああ、かまわない」
 カーテンの隙間から、滑り込むようにして中に入った凛に、上着の袖を途中まで通した腕を見せる。
「あなたの身長と肩幅から見て、サイズはこれでいけると思ったんだけど……」
「仕方がない。シャツは大丈夫だ、ベストのみにして上着は無しにしよう。それでも、問題はないだろう?」
「んー、そうね、仕方ないわね。それにしても、やっぱり着痩せしてるのね、アーチャーって。いつも試着して服を選ばないといけないわよねぇ、これじゃ」
 凛が気の毒そうに言うが、オレは試着などしたことはない。
「試着はしないが?」
「あ、そうね。自分のサイズだもの、わかってるのよね。でも、大変でしょ? 既製品で服を探すのは」
「いや」
「でも、なかなか合うサイズがないんじゃない?」
「マスターが選ぶものはちょうどいい物ばかりだが?」
「えーっと……」
「マスターがいつも服を探している」
「え? 士郎が選んでるの? 試着、しないのよね?」
 頷くと、凛は額を指で押さえ、疲れたようにため息をつく。
「あー、そーねー。あんたたちが、ラブラブだってことは、わかったわよー」
 棒読みで言った凛に首を傾げる。
「なんの話だ?」
「ほんっと、エミヤシロウって、食えないわっ!」
 怒りつつ、凛はバックヤードを出ていく。
「何を怒っているのか……」
 よくわからない、と思いつつ上着をハンガーにかけた。
 パーテーションから出ると、女子生徒たちがため息をつき、自信満々で笑う凛がいる。少し遅れてセイバーも出てきた。
(やはり……)
 セイバーの姿を見て、納得する。
 オレは執事、セイバーはメイド、これは……。
「うちのクラス、執事&メイドカフェなの!」
 予想通りの答えに、額を押さえる。しかし、なぜ、オレたちが?
「メインの執事役とメイド役が揃って火傷しちゃって……。ポットのお湯をかぶっちゃってね。ちょうど、そこにあなたたちが来てくれたってことなのよ。天の助けだわ!」
(オレたちには災厄だ。しかし、ポットのお湯をかぶるとは、いったい何をしていたのか……)
 甚だ疑問に思うことばかりだが、もう、凛には何も言うまい。この際、招待券のことは、これできっちり清算させてもらう。
「それで、何をすればいいんだ?」
「さすが、話が早いわね、アーチャー。お客様を丁重にもてなしてくれるだけでいいわ。お菓子は用意してあるし、紅茶も……、ティーバッグだけど、裏で用意するから、運んでくれるだけでいいの」
 やれやれ、とんだことになってしまった。凛への挨拶を済ませたら、士郎の様子を見に行くつもりだったのだが……。
「お昼の間は休憩できるから、午前中と二時から終了の三時まで、お願いしたいの。セイバーも運ぶだけでいいから、っていうか、もう、立ってるだけでいい感じ!」
 凛がウインクして、ぐっと親指を立てた。そうして、こちらを見上げ、何やら思案顔だ。
「アーチャー、ちょっと屈んで」
 ちょいちょいと手を動かすので、仕方なく従ったら、いきなり髪をガシガシと乱暴にいじられる。
「おい、凛!」
「よし、だいぶ若く見える」
 にんまり笑った凛に、ため息しか出ない。
「全部上げちゃうより、その方がいいわよ」
 前髪の真ん中から左側を中途半端に下ろされて、眉間にシワを寄せる。
「はい、笑顔、笑顔! バイト先だと思って、営業スマイル、よろしくぅ!」
 またしても親指を立てて、凛は働けと命じる。
(悪魔すぎて、もう、口答えもできん……)
 一つ息を吐き、オレはセイバーとともに、給仕役に徹することになった。



***

「まったく、なんで俺に頼むんだよ!」
 遠坂に頼まれて、自分のクラスの祭り屋台を抜け出し、湯沸かしポットを運んでいる。それも、遠坂のクラスの分なのに、だ。
 一つの部屋で大量にポットを使うと、ブレーカーが落ちるため、お湯を使う模擬店のクラスは、あちこちのコンセントを確保してポットで湯沸かしをしている。
「遠坂さんの頼みだから……」
 学園のアイドル、遠坂凛の頼み事に、俺のクラスの男どもは、断る術を知らない。俺なら断固拒否……できる自信はないが、このクソ忙しい時間帯にポット運びなんて、請け負わない。しかも、請け負った本人じゃなくて、どうして俺なんだ。
「まったく……」
 遠坂のクラスは、確か二階の中ほどで喫茶店を開いているはずだ。もうすぐ昼時になる今は、それほど忙しくないはずなのに、どうして、取りに来ない?
 ポット二つは取っ手を持ち、あと二つは抱き込むようにして抱え、遠坂のクラスの店に着いた。
「遠坂ぁ、忙しい時間に、ポット持って来いなんて頼むなよ! そんで、自分で取りに来い!」
 言いながら部屋に入ると、あり得ない光景が目に飛び込んでくる。
「シロウ!」
(はい? セイバーが、メイド服? 似合ってるなぁ)
 俺の頭の回転が、動きを止めた。理解しようと働かない。のほほん、としてセイバーの可愛いメイド姿に癒された。
「おわ!」
 セイバーに抱き付かれて、いや、正確には体当たりじみたものを受けて、思わず倒れそうになるのを堪えた。
「セイバー、なに? その格好?」
 セイバーは答えずに、俺にしがみついている。どうなってるんだ、この状況……。
 セイバーのマスターである、遠坂はこんなセイバーを放っておいて、なにしてるんだ!
「悪いわね、衛宮くん」
 そのマスターの声がした。
 悪いと思うなら、頼むなよ、って、そんなことより!
「遠坂! なんでセイバーにこんな格好させてんだよ! コスプレ喫茶かよ、ここは!」
 俺がセイバーを庇いながら言うと、遠坂はふふん、と鼻で笑って、さも当然というように、
「ピンチヒッターよ。うちのメインの子たちが火傷しちゃったから」
「だ、だからって、セイバーを――」
 言いかけたところに、パーテーションの向こうから、女子に囲まれつつ現れた者の姿に、声が出なくなった。
(なんで……)
 俺は、呆けてしまった。抱えていたポットのことなど、一瞬でどこかに吹っ飛んだ。
「士郎!」
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ