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今宵、役者たちはしめやかに舞台袖に立つ

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Side:Yuri


 城内だけでなく、窓の外からも流れてくる会場のざわめきとその熱気に、大きな鏡の前に立たされたユーリは少し顔を上げる。

 「ああ、動かないで下さいまし」
 「あ、わり…」

 僅かに顎を引くだけでしゃら、と鳴って髪の上を滑る飾りに、配慮の細やかな侍女たちの手が入る。すっかり鏡に映る姿は別人に摩り替わっているのだが、それでもまだ彼女たちには仕事が残っているのだというから、つくづく女性の身だしなみへのこだわりというものは並々ならない。そうしているうち、身じろぎすら碌に許されないユーリの傍らに、濃い青紫色をした花を持った侍女が隣の部屋からやってきて、こなれた手つきで髪と服との数箇所に花を挿し込むと慌しく辞儀をして踵を返していった。

 「すげえ大事なんだな、こういうのって」
 「そうですか?まあ、今日は特別な催事ですし、こういうことも随分久しぶりのことですから、皆張り切っているのでしょう」
 「時間なかったのに無理頼んですまねぇ」
 「いいえ、実に腕の鳴る仕事にございますよ?」

 鏡越しに視線だけ動かしながらの会話の折、不敵にも微笑んだ侍女頭のその様子に、ユーリは何とも言えず笑ってしまった。

 「さあ、どこかご不満な点はございますか?」

 各々作業をしていた侍女たちが離れ、鏡の中に一人映る。
 軽く絡げても素足の見えない裾を持ち上げ小さくユーリは唸る。

 「不満…、不満っつうか、この裾…、…汚したら怒るか?」
 「ユーリ様。まずこのお召し物についてですが、陛下がご回遊の際、貴重なお時間を割いて直々にお選びになったものでございまして、このように織られたものは大変珍しく、貴重な」
 「悪い。分かった。不満はない。いや、仮にあったとしてもどうにか努力します。滅相もなかったです。たぶ…、うん、汚さね…ぇと思う」

 つつがなく喋る侍女の説明を遮り、ユーリはこの場限り、思いつくだけ誓った。