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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~Vivid boys and girls1

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「いけいけー、征士っ。そこだっ。ボール取れっ。伸にパスっ。近江先輩シュートっっ」
普段学校で大人しいはずの亜由美が派手に騒ぐ声を聞いて当麻はやはり根回ししておいてよかった、と胸をなでおろした。
しかしそれにしても一向に自分を応援しない亜由美にいささか不機嫌でもあった。
まぁ、あいかわらずサッカーと雖も結局軍師役に徹しているから目立つ動きはないから当然とは言えたが。
ふてくされていると遼がドリブルをしてくる。
「当麻っ。ボール取ってっ。絶対取ってっっ」
その声を聞きながら当麻と遼はボールを取り合う。
すばやさでは遼が上である。
が、当麻には智力がある。フェイントをかけて当麻はボールを奪う。そこへ亜由美が無茶を言う。
「当麻っ。ロングシュートしてっっっ!!!!」
無茶言うなよ、と呟いてしかたなくドリブルをする。
走ってきた征士にパスする。征士にも亜由美の声が聞こえていたのだろう。
目配せをすると走りながら間合いを取って再び当麻に送ってくる。
当麻はシュートを放つ。
見事に決まったシュートに亜由美が傍らの迦遊羅の肩をつかんで揺さぶる。
「今の見たっ? 今のっ。とーまのロングシュートよっ。きゃー。とーま。もう一本決めてーっ」
迦遊羅にしてみれば折角の遼のボールを奪われて点を入れられたのだから面白くないはずだが、それよりも姉の興奮振りに参っていた。
「あ、姉様。落ち着いて。そんなに騒ぐと頭に血が上りますから・・・」
迦遊羅は遼を見る所ではない。姉が今にも卒倒しそうで心配でしょうがない。
もう一人、騒いでいる人間がいる。舞子だ。もっている闘争本能に火がついたかのように声援を送る。やはり、翔子があきらめた様に舞子の隣にいる。
迦遊羅と翔子はしかたなさそうに視線を交わす。
「お互い苦労するわね」
翔子が苦笑いしながら言って、迦遊羅はええ、と答える。その間にも二人は派手に騒ぐ。
「かゆっ。ちゃんと遼にエール送らないと駄目だよっ」
もはや応援する気力をなくした迦遊羅に気付いた亜由美が言う。わかってはいるのですけど、と迦遊羅がぶつぶつ言う。
「ほら。遼ちゃんがんばってーっ、って」
促されて迦遊羅が言葉を口にする。
「遼、がんばってくださーい」
言われた遼はうれしそうに迦遊羅に手を振ると大きくゴールを決めた。ゲームは白熱したが、接戦で遼たちのチームが勝った。元々、全国大会一位のチームである。半分素人チームが接戦したほうがすごいと言える。
無事試合を終えた遼たちが亜由美達の元へ帰ってくる。
帰ってくるなり当麻が亜由美の頭を叩く。
「お前ねー。俺より他の奴ばっかり応援してただろう? 婚約解消するぞ」
やや不機嫌に当麻が言う。別段、このメンバーには関係が知られているから何を言っても構わない。
「ちゃんと応援したでしょう? 後半からだけど。とーまがいけないのよ。相変わらず軍師役なんだもん。もっと派手に動いてよね」
言われて流石に当麻が苦笑いをする。自分はどうも表立った動きをする人間でないから、言われることもしかたない。
でもねー、と亜由美が付け足す。
「てきぱき指示与える当麻もめっちゃカッコ良かった」
特大のハートマークを飛ばして亜由美が言う。
「でねっ。でねっっ。あのロングシュートの当麻は激カッコ良かったっ。永久保存シーンよっ」
言って当麻に飛びつく。
そうか、と当麻は機嫌を直して亜由美を腕に抱く。
惚れなおしたか、と当麻が尋ねるとうんっっっ、と大きな返事が返ってきて当麻はようやく満足した。
「なんだかこの二人のために動かされた気がするな・・・」
大勢の人間の前でいちゃつく二人を心配してさりげなく外野の視線からかばっていた征士がつぶやく。
その征士にナスティがうれしそうに微笑みかける。
「皆、格好良かったわよ」
ナスティは征士だけを見つめながら言葉を言う。その視線にまた征士はうむ、とだけ答える。
「相変わらずだな」
遼がさりげなく迦遊羅の側に来て言う。
「もう、毎日家中大変です」
迦遊羅がやれやれと肩をすくめる。
「困っているのは僕なんだけどね・・・」
征士と同じくいちゃつく二人をかばっていた伸が言う。
「伸も気苦労が多いな」
遼が微笑い、まったく、と伸が答える。ようやく当麻と亜由美が離れる。
気を良くして思わず当麻がキスしそうになったため慌てて亜由美が離れたのだ。離れた亜由美がめっ、と当麻を叱る。
ちぇ、と当麻が再びすねて遼たちの笑いを誘った。
「キス魔当麻は健在なんだな」
笑いながら遼が言う。
「そう言うなよ」
「その通りであろう?」
「ほんっとにそうだよねぇー」
当麻が否定すると征士と伸が反論する。
「人前ではしてないはずだが?」
当麻が言う。
「いわゆる口にするキスはね・・・。その他のキスはしっぱなしじゃないか」
伸がうんざりという具合に言う。聞いてくれるかい?、と伸が遼に言う。
「当麻ってば、おはようやらおやすみやらなにかにつけてあゆを抱きしめてはキスしているんだよ。
こっちが恥ずかしいって」
いくら慣れたといっても当てられっぱなしは精神的によろしくない。征士も同意して頷く。
「いよいよもって軽薄振りに拍車がかかった」
「いじめるなよ」
征士の言葉に当麻がわざといじける。
「さっき、当麻にこき使われたからね。ささやかなし返しだよ」
伸がニヒルに微笑う。
「あー。私も一暴れしたいなぁ」
始まった練習試合を見ていた亜由美がぼそっと呟く。
その言葉に関係者が顔色を変える。
見ると亜由美は動きたくてうずうずしている。
普段は普通の女子高生を演じているがためエネルギーが有り余ってしまうのだ。
最近は仕事の第一線から退いているので発散する場がなかった。
「好きなだけ遊んでやるから、それだけはやめてくれっ」
代表して当麻が頼み込む。
「それだけって・・・。別に破壊行為するわけじゃないんだけど・・・?」
亜由美が苦笑いして答える。
「お前の暴れる、は得てしてそうなんだ」
当麻が断言し、関係者一同頷く。
「もう、そんな無理しないって」
そう言う亜由美を当麻達は不信そうに見つめる。
「あー、わかったから。大人しくしてるからっ」
しかたなさそうに亜由美が叫ぶ。
「そんなに暴れたければ家来る?」
やりとりを不思議そうに見ていた舞子が言い出す。
えっ?と亜由美が舞子を見る。
「小さな道場みたいなのがあるから、遊びに来たら?」
その言葉にうれしそうな顔をした亜由美を見た当麻が思いっきり却下する。
「絶対に行くなっっ。他人の家、壊すなっ」
その慌て振りに舞子たちは怪訝な顔をする。
「壊さないのに・・・」
残念そうに呟く亜由美に関係者一同が異口同音に止める。
「絶対に止めろよっ。絶対にっ」
「いい子にしたらプリンいくらでも作ってあげるからっ」
「御願いだから無茶はしないで頂戴」
「姉様、暴れるなら私がお相手しますから」
「お、俺が手合わせするから・・・」
あまりの慌て具合にやはり、舞子達が首をかしげる。
「こいつが通った後には草一本生えていないんだ」
当麻がそのすさまじい破壊力を説明する。
「私は破壊神?」
苦笑いしながら亜由美が呟く。
「まぁ、遼とかゆが手合わせしてくれるならそれで手を打つけど?」