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粃 ――シイナ――

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 このところ、兄を思い出そうとすると、アーチャーが思い浮かぶ。兄はあの黒い塊だからか、アーチャーがエミヤシロウだからか……。
(どうして……)
 片手で額を押さえた。
 どうして出会ってしまったのか。
 それに、どうして自分はアーチャーを留めてしまったのか。
 アーチャーは衛宮士郎の未来の一つ。
 彼こそが、本当の衛宮士郎。
 戦う姿を見るたびに、屈強な体躯を見るたびに、理想を追い続けた瞳を見るたびに……。
 その姿を見るたびに思い知らされる、兄が自分の身代わりになってしまったことを。
 自分はいつまで生きていくのだろうか、衛宮士郎として……。



 屋上で弁当を広げていると、遠坂がやってきた。
 弁当を持ってくる日は、どこから聞きつけたのか、遠坂がやってくる。アーチャーのお手製弁当狙いだということに、最近気がついた。
「ねえ、士郎、アーチャーがおかしいのは治った?」
 出し巻き卵を勝手につまみながら、遠坂は思い出したように訊いてくる。
「うん、もういいみたいだ」
「ふーん。で、結局なんだったの?」
「あ、ああ、えっと、夢を見るからって」
「夢?」
「うん、あの、火災の時の」
「あー、そっか、記憶を共有しちゃったってことなのね」
「うん、それで、なんか気になってたみたいだ。もう今は大丈夫」
「そ。ならよかったわね」
 何がいいのか疑問だな……。
 アーチャーを騙している気がしてならないのに。
 なんだか喉に小骨が引っかかっている感じだ。
「なあ、遠坂、夢を流さない方法って、あるのか?」
 アーチャーには見せたくない。きっと嫌な気分になるはずだろうから。
「無理ね」
「そんな、あっさり……」
「今の士郎じゃ無理よ。修行しなきゃ、無理」
「そうですか、お師匠さま……」
「何事も、一日にして成らず、ってね。あ、そうそう、これ、渡しておいて」
 遠坂に紙袋を渡されて、中を見る。
「服?」
「ええ。あいつの。もう少し替えがあった方がいいのかもと思って」
「あ……、ありがとう、渡しておくよ。遠坂って、気が利くんだな……」
「そーお?」
「うん。俺は……、全然、気づかなかった、あいつの服のことなんか」
「言わないものね、あいつ」
 言わなくともわかってやる、というのが心遣いってやつなんだろうな。
 そんな気遣いができる遠坂が少し羨ましいと思う。
「サイズがダメなら取り換えてくるから、帰ったらすぐに着せてみてくれる? 早い方がいいし」
「あ、うん。わかった」

 遠坂から預かった服を夕食後、居間でアーチャーに渡し、言われた通り試着してくれと頼んだ。
「ふむ。凛はサイズを見ているようで見ていないからな、その方がいいだろう」
 よかった、すぐに確認してくれるみたいだ。
 座卓を拭き終わって顔を上げてギョッとした。
「ちょっ、あ、あんた、なに、してっ」
「試着だが?」
 不思議そうに答えるアーチャーに、顔が熱くなる。
「どうした士郎?」
 さらに顔が熱くなる。最近、アーチャーが自分をフルネームじゃなく、下の名で呼ぶことにもまだ慣れない。
 シャツを脱いだままで近づいてくるアーチャーに身動きができない。
「男のくせに、男の身体で、ましてや自分の身体で赤面する意味がわからんが?」
 厭味ったらしく腕組みしたまま笑うアーチャーに文句も言えずに、腕で顔を隠した。
「まさか、そっちの趣味があるのか貴様……」
 呆れた声に、
「あ、あるか! バカやろっ!」
 言って、台所へ逃げ込んだ。
 アーチャーは遠坂から貰ったシャツに袖を通しているみたいだ。
(さいてーだ! オヤジめ!)
 顔の熱を必死でおさめようと冷たい水で布巾をごしごし洗った。



***

(契約してひと月か……)
 己の手を見つめ、ふ、とため息がこぼれる。
 何か違う、と違和感を拭えない。
 先ほど風呂掃除をしていた士郎が足を滑らせて、後ろへ倒れそうになった時、咄嗟にその腰に腕を回して掴まえた。
 その感触が、凛を抱えた時と変わらなかった。
 違和感を覚える。
 細くて柔らかい。
 なんだ、これ。
 少年の身体から抜けきっていないといっても、十七の男であれば、身体はそこそこ大人で硬いはずだ。だが、その硬さがなかった。
 己の脇腹に触れてみるが、やはり硬いと思う。
「感触が、違う……まるで……」
 少女のような、と思いかけて首を振る。いやいや、何を突拍子もないことを……。
 また疑問が湧いた。
(あの日の夢。“士郎”は兄だったと言った。士郎はまだ、何か隠しているのか?)
 再び確認する必要があると思うが、これはどう言えばいいのだろうか。
 二の足を踏んでしまう。
 士郎に腰が細い、と言えばいいのか、柔らかい、と言えばいいのか……。
 あるわけがないだろうが、もしや女ではないのか、と単刀直入に訊けばいいのかもしれないが、それを言って、もし男であれば、後々何を言われるかわからない。
 そんなことが凛に知られれば、お前は変態かと、摩耗しすぎて、男女の区別もつかなくなったのか、などと責められるかもしれない。
 額を押さえてため息をつく。
「どう、訊いてみるのが一番か……」
 そんなことをつらつら思い悩むこと一週間、確かめる機会は不意に訪れた。
 いつものごとく夕食を賑やかに食べ、来客たちは帰っていった。
 士郎は後片付けを終えて、風呂に向かった。
「ひぃ―――っっっ!」
 それほど大きくはない悲鳴が響く。
 その声を耳に拾って、別棟に向かおうとしていた踵を返して浴室へ駆けた。
 放っておいても問題はないだろうが、士郎の悲鳴などめったに聞かない。
 しかも、喉を絞められた鶏のような引き攣った声。
 尋常ではない、と判断した。
「何があった!」
 風呂の戸を勢いよく開けると、浴槽から跳び出た士郎と、ばっちり顔を合わした。
「アー……チャー……?」
「どうし…………」
 何があったかを訊く前に、声を発することができなくなった。
 洗い場に立ち尽くす素っ裸の士郎を、天辺から爪先まで矯めつ眇めつして見て、眉間に力が籠もる。
「し、士郎……いったい、凛に、なんの実験をさせられている……」
 私とて現実逃避くらいしたくなる。
 見当違いの原因を見出そうと必死になった。
「してないけど……」
 頼む、否定してくれるな……。
 こいつも、いまだ状況についていけないのだろう、素直に答えてくる。
 静止すること、きっかり一分。
 士郎の目の前まで歩み寄り、顎に手を当て、ふむ、と唸る。
「性転換の魔術を習っているのか。まあ、見えなくはないが、それではあまりにおざなりすぎる」
「は?」
 硬直したままの士郎に、もっともらしく眉を顰めておいた。
「これではバストと呼ぶには、足りないだろう」
 言って、ぺた、と手を士郎の僅かな膨らみに当てた。
 ん? 私は何をしているのだろうか?
「っ!?!?!!!???」
「付いているモノを消すことはできても、無いモノを作ることは手に負えなかったのか。やはり、未熟っ――」
 額に平手が勢いよく当った。そのまま後ろへ押されていく。
「生まれつきだ!」
 激しく閉じた扉に呆気に取られる。
「し……士郎……?」
 まだ混乱している。
作品名:粃 ――シイナ―― 作家名:さやけ