ダカーポ2 snowy tale
第6話
杏お手製のカレーを4人で食べた後、互いの近況報告をすることになった。音ねぇは順調に勉強を進めているそうだ。今日は俺の体調を見る意味も兼ねて、驚かせるために帰って来たのだとか。
由夢は料理を始めたらしい。じゃあ自分で作ってくれと言いたかったが、これ以上の戦火は誰も望まない。
「それで、弟くんと雪村さんはどうなの?」
「どうなの? 最近、全然帰って来なかったじゃない」
「え、そうなの? 駄目だよ、弟くん。ちゃんと由夢ちゃんのことも気にかけてくれないと」
「や、そんなことないから。お姉ちゃんは話を脱線させないでよ」
そう色々と言われても、俺たちは至って健全に付き合っているだけだからな。これといって報告することも無いし。
「そうですね。強いて言えば、義之がバイトを始めました」
「どこどこ? ねぇ、お姉ちゃんが様子を見に行ってあげよっか?」
「私も興味あるかな。お姉ちゃん、明日にでも一緒に行こう?」
杏を見ると、しれっとした顔をしている。こうなることを予想していたな。
「なに、義之。そんなに私を見つめて」
「いやいや、よく考えたらなんでバイトのことを話したんだよって思ったんだよ」
「あら、音姫さんも由夢さんも大切な家族でしょ? あれはともかく、バイトなら胸を張っていいじゃない」
それもどこまで本気なんだか。ま、確かに家族に隠し事は良くないのかもしれない。勿論、本拠地は死守しなければならないがな。
「花より団子だよ。渉の紹介でさ、結構融通効くから決めたんだ。ほら、今は卒業公演の脚本とか作っているだろ? 杏のサポートに一番時間を使いたいんだけど、卒業旅行の予定も入っちゃってさ」
「あー、なるほど。そういう話ね。でも、卒業旅行の費用くらいならお姉ちゃんが負担するよ? 私も向こうでバイトしているし」
「いやいや、音ねぇだって生活が大変だろ。何とか自分で稼いでみせるよ」
「弟くん……あぁ、あの弟くんが自分で稼ぐだって。立派になったねぇ」
こりゃ、色々と面倒なことになるかもしれないけど前もって計画を話しておいた方がいいかもしれないぞ。今みたいに微妙に核心を突かれたらボロが出ないとも限らないし。
「ところで、兄さんの次のシフトはいつなの?」
由夢よ、本当はその話題は触れて欲しくないところだ。だが、今は許す。その方向に舵を切れば決してバレまい。
「秘密に決まっているだろ。第一、俺が働いている時じゃなくてもいいだろうが」
「えー、私、兄さんのツケで一杯食べようと思っていたんだけどなー」
「あ、私も弟くんにご馳走されたい。ね、弟くん、いいでしょ?」
核心からは離れた。でも、それは滅茶苦茶困るんだよな。
「……って、杏?」
全く話に入って来ないと思ったら、器用なことに、座ったまま杏は眠ってしまっていた。
「仕方ないな。悪い、音ねぇ、それと由夢。杏を休ませてくるから、ちょっと待っていてくれ」
「うん、行ってらっしゃい」
「まだ奢りの約束ができてないんだから、意地でも帰らないよ」
さて、問題は杏をどこに休ませるかだ。手っ取り早いのは俺の部屋のベッドだ。杏なら十中八九、ベッド下の本拠点も見付けてしまうだろう。緊急で偽装工作して別の場所に隠しても良いんだが、
「この寝顔と、普段の頑張りを見たら……少しでも休んで貰いたいよな」
エロ本が何だ。見たきゃ持ってけ、泥棒。杏の体調が最優先だ。そういう訳で、ベッドに寝かせて布団をかける。
「……義之」
行こうとした時、杏はこちらを見ていた。起こしてしまったらしい。
「悪い、乱暴だったな。でも疲れているんだ。そのまま寝ちゃっていいぞ」
「……ん、そうする。ありがと」
そう言って、杏は微笑んだ。
作品名:ダカーポ2 snowy tale 作家名:るちぇ。