二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

What's the name of the Game

INDEX|11ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

 ロイはエドワードと目が合う前に目を閉じ、自然に寝ているふりをする。だが薄目で察していれば、すっかり眠ってしまった自分に気づいた少年は、軽く頬を染めて慌てている。
 やれやれ、と溜息を吐きながら、ロイはゲームの二日目が始まったことを意識に上らせた。宿を変更するのにもっともな理由を練りながら。


 オムレツを美味しそうに頬張る少年を見つめながら、なんだか和んでしまって困るな、とロイは思う。バターとコーヒーの良い香りが鼻腔をくすぐり、目の前の少年の蜂蜜のような金髪とブリオッシュの小麦色が朝日の中できらきらと輝いていた。実に平和な朝食の光景。ロイの普段の朝とは雲泥の差だった。
「…エドワード」
「ん?」
「今日なんだが」
「うん」
 ロイは気取りのないしぐさでコーヒーを一口啜ってから会話を続けた。コーヒーは匂いのままに極上の味がした。もしも軍部のコーヒーがこのレベルに達するなら自分は生涯一軍人で構わない、とロイは馬鹿なことを一瞬考えた。
「やはり、研究成果のことが気がかりでね」
 困ったように笑って、ロイは言った。
 エドワードには三日間の意味は「三日後には研究成果を国に引き渡すことになっているから」と告げていた。その間だけ守りきれば問題はないと。だったら納入の日を早めればいいのでは、とエドワードは不思議そうに一度呟いたが、調整がつかずそうもいかないのだ、とロイは流していた。
「今日はそれを見に行ってみようと思うんだ」
「…でも、それは…」
 エドワードは難色を示した。まあ無理もない。
「だめだろうか?」
 しかし、ロイとしてもどうにかこうにか理由をつけてこのホテルから脱出したいのだ。せめて自分のホームグラウンドに移動しなければ、やりづらいことこの上ない。
「……わかった」
 エドワードは昨夜の襲撃を知らない。だから、今の所気づかれていないと判断しているのだろう、最終的にはロイの申し出に是と返した。
 ロイは心の中で思った。対象者の好きにさせたら自分の首を絞めるだけだよ、と。


 ロイの隠れ家はイーストシティの中心からは少し離れた場所にあった。さて移動の足はどうしようかと思いながら、さりげなく食料品を買ったりしつつ、彼は護衛の少年と町中を歩いていた。
 すると、なにやら人だかりがあって、騒いでいる声がする。
「…なんだろ」
 エドワードがロイの隣で小首を傾げていた。残念ながら、彼の身長では人垣の向こうが見えないのだ。ロイは笑わないように気をつけながら、教えてやった。
「老婆が中年の男に怒鳴られているようだが…」
「え?」
 エドワードが眉をひそめ、厳しい目を人だかりの方に向ける。
「…あの、ここから動かないでくれ」
 彼は周囲を探り、特にロイや自分に対して危険のないことを確認したらしい。確かにロイが探ってみても、それはその通りだったが。ほんの少しの逡巡を見せた後、結局、少年はロイにひとこと動くなと告げて走り出した。
 ロイはぱちりと瞬きした後口笛を吹き、エドワードの言に逆らい少年を追った。
「…おいっ」
 エドワードはするりと人ごみを掻き分けると、確かに老婆の胸倉を掴み上げてなにやら怒鳴っている男に荒げた声をかけた。
「年寄りに何やってんだ、離せよ!」
 正論だった。あまりにも正論過ぎるくらいだった。
「…あー?」
 中年の男は面倒そうに振り返り、走ったせいでいくらか頬が紅潮している「美少女」を視界に納めると短く口笛を吹いた。そして、老婆を放ると、にたりと笑った。
「おいおいお嬢ちゃん、男にそんな口聞くのは感心しないぜ」
「…誰がお嬢ちゃんだ」
 エドワードは地を這うような低い声で切り替えした。こめかみがぴくぴくと震えている。さもありなん、とロイは人垣の中で口を押さえた。
「まあいいや、ほれ」
「?!」
 男はにやにやと笑ったままエドワードの腕を取る。しかし、まったく世話の焼ける、と飛び出しかけたロイの前で、一瞬は息を飲んでいたエドワードがすぐにもその太い腕を捻り上げ、綺麗に投げ飛ばした。
「…気安く触るんじゃねえ!」
 ふんっ、とエドワードは男に吐き捨てた。そして、何が起こったかわからない顔をしている男にびしっと人差し指を突きつけ宣言。
「それとオレは男だ! どこに目ぇつけてやがんだ、この馬鹿!」
 なるほど、確かに腕は立つ、とロイは眼鏡を外そうとしていた指を戻し、安堵に胸をなでおろした。
「…おばあさん、大丈夫か?」
 男を女と間違えたことに精神的なショックを、投げ飛ばされしたたか打ち付けた背中に物理的な痛みを受けている男は放って、エドワードは腰を屈め、ぺたんと座り込んだ老婆に手を差し出した。
「ああ、ありがとうよ」
 老婆はよろよろと立ちあがり、綺麗な顔をした少年に顔を皺だらけにして礼を言った。
「あ、ほら、立てる?」
 しかし随分と足腰が弱っているようで、ふらりとエドワードに倒れ掛かる。慌てて受け止めようとした時、気づいていなかった気配がして、少年の体ごと誰かが支えてくれた。
「…!」
 気配を覚れなかったことに愕然としたエドワードだったが、受け止めたのが彼が守るべき相手だと気づき、一瞬ほっとした後ひどくショックを受けた。ガードするはずがガードされてどうするのだ。
「大丈夫かな」
 しかしエドワードは知らない。
 老婆がこの界隈では実はちょっと知られたスリであることも、助けられて感謝していると見せかけつつエドワードの懐を狙っていたことも、それをロイが眼光だけでやめさせたことも、…ついでに言えば、老婆のスリが元で争いになった中年男(だがこちらもまたまっとうな堅気ではない)にも、エドワードの背後から冷たい眼光を放って、立ち上がり襲い掛かろうとしてきたのを制したことも。
 何も、気づいていなかった。
「おばあさん、気をつけて帰ったほうがいい」
 穏和な態度を崩しもせず、ロイは目を細め丁寧に告げた。少年を軽く引き寄せ、隣に立たせながら。
 しかしエドワードの角度からは見えなかったのだ。老婆とロイの間にある、お互いを知る者同士の牽制なんていうものは。
「ええ、ありがとう」
 結局は老婆が状況を読んで、ただ感謝を告げてひょこひょこと帰っていく結果に終わった。
「……君はヒーローみたいだな」
 ロイは、そんな老婆を見送る少年にぽつりと声をかけた。警護中に警護する相手を差し置いて飛び出すなんて言語道断なのだが、そんなことは言わない。
「…その、…ごめん」
 言う必要がないのだ。しゅんとする彼には、勿論そんなことはわかっているのだろうから。ただ、わかっていることと出来ることは別の問題、というだけの話だろう。
「なにがだい」
 ロイは目を細め、ぽんぽん、と金髪の頭をたたいた。
 小さな頭だな、と思った。

 まだ昼には早い時間だったが、ロイは、昼食を今のうちにとってしまおうかと考えた。その方が何かと都合が良かったからだ。
「エドワード」
「なに?」
 あたりを軽く警戒しながら歩いている少年に、そんなにいつも緊張していたらかえって敵に付け入られる隙を作るぞ、と微苦笑。
「ちょっと早いが、昼にしないか?」
「…? いいけど…」
 なぜ、と少年は不思議そうだ。当然の疑問に、ロイは自然に答える。
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ