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What's the name of the Game

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「このあたりにうまいロブスターの店があるんだ。君はロブスターは?」
「好きだけど…」
「じゃあ決まりだ」
 ロイはペースを乱すことなく持ちかけて、笑った。ここからがロイの作戦の始まりだった。


 その店はただのレストランではなかった。いや、きちんと商売はしている。だから世間一般からしたらただのレストランで間違いはないのだが、ロイやごく一部の人間にとっては、やはりそこはただのレストランではないのだ。
「いつものを」
 まだ随分空いている店内を軽く見回してから、エドワードは随分慣れた様子で店員にオーダーを告げるロイを見た。要するにこの店は彼のホームグラウンドなのだ、と納得しながら。
「エドワード?」
 と、視線に気づかれたらしい。なんでもない、と首を振りながら、エドワードは微かな違和感のようなものをこの目の前の男に抱いていることを認めた。
 彼は腕力はからっきしの、根っからの学者だと聞かされている。
 だが、おかしいと感じる部分が幾つかあった。
 たとえば視線だ。彼はエドワードの視線にすぐ気づく。最初は勘の鋭い人間なんだろうと気にも留めなかったが、気配を殺していてもすぐに気がつくのは妙な気がするのだ。加えて、気配というなら、先ほどのように彼が気配を消して近づくとエドワードにはわからない、というのもおかしい。全くの素人であるはずの男が、どうしてそんな真似が出来るのかと思う。それに、服の上からだけではしかとわからないが、さきほど受け止められた時といい、彼は結構いい体をしている気がした。どちらかといえば普段から鍛えている人間に近い体格を彼はしている。歩く時の姿勢もいい。
 そういった些細な点は数えればきりがなく、そして一度気にしてしまうと気になって仕方がなかった。
 そもそも、どういった経緯で彼のガードに選ばれたのかも不思議といえば不思議なのだ。
 身辺警護になりたいと言った自分に父親は猛反対し、心底余計なことに、親友だという大総統に相談した、らしい。そして大総統と協議の結果(当然その協議の内容については秘されている)「三日間、ある男を守りきったら考えよう」という条件を出された。そうして教えられたのが、イーストシティに住んでいるという「ロイ・マスタング」、大学の助教授だという男だった。しかし考えたらおかしなことだらけで、新米よりもなおひどい自分ひとりだけがガードに付けられるだけでいいということは、大して守る価値もない男なのかもしれないが、ロイの「研究成果」とやらがもしも重大なものだったら取り返しの付かないことになる。いや、そもそもこの男は誰にガードを依頼していたのだろう。また、新米が来るということは仲介者に聞かされていたと言っていたが、それに不満はなかったのだろうか。なんだか妙に納得がいかないが、しかし条件は条件だ。エドワードはかぶりを振って、それ以上は考えないことにした。勿論、本当は考えた方が良かったなんていうことは言うまでもない。
 なにやら考え込んでいるらしいエドワードに気づきながらも、ロイは、なんでもないような調子で会話をもちかける。
「適当に頼んだが、よかったかな」
「別に、かまわない」
「まあ、牛乳は頼んでないから安心してくれ」
 くすりと笑いながらの言葉はからかっているのに違いない。エドワードは正直むっとしたが、特に反論するでもなく店内を見回すに留めた。反応がないことにロイは幾らかがっかりしたようだったが、それ以上のちょっかいを出してくることもなかった。
「これからなんだがね」
「ああ」
「色々考えたんだが、君は車は運転できるかな」
「…庭では乗ったことある」
 エドワードは複雑な顔をした後、小さく答えた。ロイは一瞬答えに困った顔をしたが、なるほど、と神妙に答えた。
 無免許でも、私有地での運転に限り、罪には問われない。
「…じゃあ、私が運転しよう」
「あんた免許あるの」
「ああ、一応ね」
「…っていうか、車は? どうすんの?」
 怪訝そうな顔をしてエドワードが当然のことを尋ねる。確かに彼の言うように、車がなければ免許の有無などいずれにせよ意味がない。
「あるよ」
 ロイは短く答え、意味深に笑った。そうしてから、ウェイターが運んできた皿を認め、今度はにこやかに笑う。
「まあ、続きは食事の後でもいいだろう」
「うん…?」
 なんだかガードする相手にリードされすぎのような…、とエドワードは内心で危機感を抱いたが、既にして手遅れというものだっただろう。

 食事を終え、店を出るのかと思ったエドワードだが、ロイが向かったのはなぜか店の奥だった。
「…あんた?」
 そんな彼の動きに首を傾げたエドワードに、ロイは声もなく笑った。
「足が必要だろう?」
「……?」
 彼は面白そうに笑ってそれ以上は答えてくれず、店の奥、厨房を抜けて重苦しい扉を開けた。その先は暗い、下へと伸びる階段で、先は見えない。軽く息を飲んだエドワードに、ロイは言う。
「この下はガレージになっていてね。必要な者に車を貸し出してくれるんだ」
 ロイはしれっとして教えた。
 しかしこの言葉は正確ではなかった。この店は、表向き普通のレストランだが、それと知る者のためにガレージと車を常に用意していて、申し込めばそれを使うことが出来るのだ。ナンバーは偽造で、万が一控えられても問題はない。…どちらかといえばこれは裏向きの商売で、間違っても全うな軍人であるロイが使うものではないのだが、ロイもまたただ全うで堅気な軍人とはいえないのだ。そういう抜け目のなさがあったからこそ、今は大佐で司令部のナンバー2なのだともいえる。
「…なんで、そんなこと、あんた…?」
 正確なことは知らされずとも、しかし、エドワードはやはり敏感に覚った。これが表向きの商売でないことも、これが目的でロイがこのレストランに来たのだということも。だとすればこんなことを知っている男がただの男であろうとは思えない。勿論助教授なんかにはとても。
 けれどロイは器用に肩をすくめて、おどけたように、もしかしたらびくついてさえいるかのようにも見える顔で情けなく言う。
「黙っていてくれよ?私もここのことは偶然聞いてね、他の者にはそう打ち明けるなと言われているんだよ」
「………」
「でも今は緊急事態だろう?」
 だからあまり詮索せずについてきてくれないかな、とロイは頼み込んできて、エドワードは再び疑念を退けた。


 ロイの運転は安定したものだった。急いで行って早く立ち去った方がいいのでは、とエドワードが尋ねると、スピードを出して走る車なんて目立つだけだと思うな、とロイは答えた。確かにそれもそうか、と少年は恥じ入った。
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ