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What's the name of the Game

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 ロイはのんびり運転しているように見えたが、その実はかなり緊張していた。これから向かう隠れ家は完全に、中尉からさえノーマークのはずだが、あのレストランは有名ではないまでもロイの腹心の部下は存在や働きを知っている。店に入った時には気配を感じなかったが、油断していいとは思えない。さきほどあの店で車の中に食材も詰めてもらっておいたから、後は隠れ家についてから篭城作戦に入れば問題ないだろう。何しろ、実質今日を守り抜けば任務は終了だ。エドワードにはかわいそうだが、諦めてもらわなければロイの任務も失敗となってしまう。
「…なあ、ところでさ」
 不意に、隣に座ったエドワードから声がかけられた。
「なんだい?」
「あんたって、何の研究してるんだ?」
 それはなんていうことのない質問だった。いっそ無邪気なほどの。
 だがロイは肝が冷えたような気がした。エドワードは自分に何か疑いを持ち始めているのだ、と気づいてしまったから。
 ちらりと視線を合わせれば、エドワードはじっとこちらを見つめていた。嘘を許さない瞳だ。
「…私のプライベートに興味が?」
 ロイは小さく笑ってはぐらかす。
「…ごめん。…そうだよな、オレが立ち入ることじゃないよな」
「まあ、別に構わないがね。こればかりは言えないんだ。悪く思わないでくれ」
 ロイは申し訳なさそうに言った。単純に、言えないというよりも、機密の研究に関わっている、という部分しかロイも聞いていないから、限定して答えることに危機感が少々あるのだ。
「…な」
「うん?」
「…眼鏡、それ、伊達?」
 研究の話題から幾許かの間を置いて、再びエドワードは問う。やはり気づいたか、とロイは小さく苦笑した。
「狙われている、と言っただろう?」
「……」
「変装のつもりなんだ、これでも」
 ある意味で事実そのものを答えれば、エドワードが目を丸くした。それから、屈託のない様子で噴出す。
「なにそれ、セオリー過ぎ」
「念には念を入れたのさ」
 エドワードの無邪気な様子を見ながら、ロイは困ったように肩をすくめたのだった。

 ゲームの展開にスリルが増したのは、隠れ家も近くなった頃のことだった。
「…っ?!」
 それは勘だった。
 何かが前方二時方向で光った気がした、と思った時には体が反射的にハンドルを切っていた。そして、隣で小さな声を上げたエドワードに構わずエンジンをふかす。車体を斜めに何かが掠めていって、もしあと何度かずれていたら確実にフロントガラスを割って中にいるロイに当たっただろう、と二人の背筋を冷やした。
「…なんだよこれっ」
 エドワードはかなり驚いたらしい。だがその上ずった声がロイを殊更冷静にさせた。
「黙っていたほうがいい」
「はっ?!」
「舌を噛んでも責任は取らないぞ」
 ロイは一応そう告げて、それまでの安全運転が嘘のように乱暴な運転に切り替えた。狙撃手が何人いるかはわからない上に、ここで車を細くされると隠れ家もばれるから厄介なのだ。狙撃手以外の一味をどうやっても振り切る必要がロイにはあった。
「…ちっ」
 舌打ちしたのは無意識だった。その無意識の一瞬に、普段の自分の姿が浮上して、そしてそのたった一瞬、ほんの刹那の表情をエドワードが見てしまったことに、ロイとしたことが気づかなかった。だがまあ無理もない。何しろ相手は軍の精鋭なのだから。本当に馬鹿馬鹿しい事態になったものである。
 その後十数分ほどロイはアクション映画ばりの運転を披露し、どうにか軍の一味を撒くことに成功したのだった。


 落ち着いた作りの一軒屋は、一見するとただの民家だが、そこはマスタング大佐がわざわざ隠れ家にするくらいだから、勿論ただの民家ではなかった。…そのあたりはレストランと同様だ。
「…すっげぇ仕掛け…」
 辿り着いた「隠れ家」があまりに普通なので当初困惑していたエドワードも、詳細を目にし始めると意見が変わってしまったらしい。
 まずガレージだ。外からはわからなかったが、中に入るとガレージが地下に作られており、地上ではどんな車も停まっていないように見えるのだ。とりあえず、これで車が追跡されたとしても行方をくらますことは出来るだろう。
 次に玄関が二重になっていて、最初に普通に玄関のドアを開けても、すぐには内部に侵入できないようになっていた。
 その他にも屋根裏、地下室、階段脇の隠し部屋など、巧妙に家の内部も細工されていた。
 これはやはり一般人ではないな、とエドワードは結論付ける。
 しかしさすがにロイも、ここまで見せて一般人だと思ってくれるとは思っていない。だとすれば変人の路線で行くしかないということにも当然気づいている。だが、求められる前に説明するのも怪しいから、聞かれるまでは放っておくことにした。それより今は、篭城をいかにして続けるかと説得する方が大事だろう。今は二日目のお茶の時間だから、あと残り一日もすればとりあえずお役御免とはなるのだ。成否はとりあえず別として。

 自分は少し研究室の様子を見てくるから適当に待っていてくれ、と告げ、ロイは隠し部屋のひとつに入り、とりあえず一息ついた。
「さて…」
 とりあえずあと一日弱、ここで乗り切ってしまえばこんな馬鹿げたゲームは終わりだ。残りのロイの任務は、少年にいかに自分が身辺警護に向いていないか覚らせることと、軍人の襲撃から彼を守りきることだった。後者に関して言えば特にこの先はさほど心配することはないだろうと思っていた。さきほどの移動中の狙撃は十中八九中尉だろうが、最大の難敵である彼女を撒いてしまえば、残りはどうということもないだろうから。
「…ガード相手の負傷、なんていうのがわかりやすいかな」
 ロイは、エドワードに諦めさせるファクターについては最初から思案して決めかねていた。とりあえず少しずつ少しずつ、向いていないことは覚らせているつもりだが、まだ決め手に欠ける。ガードしきれず怪我をさせる、というのが諦めさせる理由としては妥当なものに思える。だが、それはたとえば部下の襲撃によって成功させたのでは少々頂けない。そもそも部下に遅れを取るのが癪だ。
「怪我、か…」
 ロイは幾分考え込んで自分の手を見る。
 ――怪我、出来るだろうか…。
 自慢ではないが、ロイは結構頑丈なつくりをしているので、少々のことでは怪我もしなければ病気もしない。切り傷擦り傷くらいでは負傷としてのインパクトにかけるだろうし、そもそもそんな傷は舐めていれば治ってしまう、というようなレベルだ。
 自分が怪我が出来るだろうかと考えるなんて、端から見たらおかしい以外の何者でもないが、その時のロイは至って真剣だった。真剣に、どんな怪我なら自分に出来て、エドワードを諦めさせるのに役立つか考えていたのである。
 保険屋が聞いたら呆れるような話ではないだろうか。
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ