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What's the name of the Game

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 ロイが下らない悩みを検討していた頃、エドワードは室内を見回し、普段からここで生活してるわけじゃないみたいだ、と見当をつけていた。あまり普段から使っている形跡がなかったし、窓の桟や書棚の本がない所の埃から察しても、普段ここに人がいることはほとんどないに違いない、と思ったのである。あながち間違いではないどころか真相に近づいているのはさすがの優秀さだったが、しかし、ただ優秀さだけで読み解けるほどロイは易い男でもなかった。二人の間には実に十四歳もの年の差が存在しているわけで、それを思えば無理もないのかもしれないが、そういうロイだからこそ白羽の矢が立ったのかもしれない。
「エドワード」
 色々考え込んでいた所に、謎の男が戻ってきた。手にはマグカップが二つ。中身はコーヒーのようだ。
「お茶でもどうかと思って」
 彼は緊張感を解す顔でちょっと情けなく笑った。しかしこの、いかにも弱そうな、人畜無害そうな笑顔がまた曲者ではないかとエドワードも思い始めていた。確かに自分はまだ世間知らずな所が多いとは思うし、それは常々指摘されてきたのだけれど、だからこそ警戒心を持って接するようにと心がけている。目標は身辺警護官、あの時の彼と同じ職なのだから。とにかく、そういう風に警戒心を持って接すれば、彼のこの笑みはどこか怪しいのだ。何となく作り物めいているとでもいうか…。
「エドワード?」
 しかし、じっと見すぎていたらしい。不思議そうに首を傾げた。
「あ、…なんでもない。えっと、その、気を遣ってもらって、すまない」
 慌てて答えれば、ロイはもう少し嬉しそうな顔になって、いいえ、どういたしまして、と答えたのだった。

 隠れ家についてからは、ロイもさすがに眼鏡を外そうかと思った。度は入っていないから特にどうという問題もないのだが、やはり普段していないものをし続けるのは結構鬱陶しいものだ。それに、ここから先は防衛一方になる。隠すことにはもうさほどの意味は無かった。
 だが、それでも最後にもう一点だけ迷う部分があり、ロイは結局眼鏡をつけたままになっている。隠すべき、かもしれない相手と過ごしていることに気づいたからだ。
 ――エドワードがあの時の子供であろうとは、もはや確信となっていた。確かにあの時の子供も、この少年のように金色の目をしていた。こんな色の瞳はあまりお目にかからないし、エピソード自体がここまで酷似していたのでは、違うと考える方がよほど非現実的というものだろう。
 まあ、自分にとっても、これは自分とは違う自分なのだ、というような暗示にも繋がりやすい。他人を演じている今は案外有効な舞台装置かもしれなかった。
 吹いて冷まして、ようやく一口啜った後、熱かったのか苦かったのかちょっと顔をしかめているのをこそりと見下ろし、ロイは、さてそろそろプレゼンの開始かと胸中溜息をつく。夢を諦めると諭すなんて、楽しい仕事とは言い難い。
「…エドワード、思ったんだが…」
「…なに?」
 いくらか潤んだ目で見上げられ、ロイは噴出してしまった。
「砂糖でも?」
「…いらないっ」
「ミルクは君いらないんだろう。だったら砂糖じゃないか」
「い、いらないっ、…甘くないカフェオレだったら飲めるし…!」
 ロイは自分のカップをテーブルに置いて本格的に笑い出した。
「なっ」
「ミルク単体は駄目でもミルクで加工するのはいいのかい?」
「だ、ちが…! だ、だって、コーヒーのミルクは牛乳と違うだろ!」
「そうなのか? 私はブラックしか飲めないからわからないよ」
「…っ!」
 羞恥にだろう、エドワードの頬が見る見る赤くなる。面白い反応だな、とロイは正直に思った。身辺警護にはとても向いているとは思わないが、自分の手元になら欲しい人材かもしれない、と。
 …マスコットとして。
「まあ。残念ながらミルクはない。氷でも入れるか? 薄くなって飲みやすいかもしれない」
「………いい。平気だ」
 ぷい、と横を向く顔が悔しそうで、なんだか無性に可愛らしい。つまらない、最低の任務だと初めは思ったが、彼と過ごすこと事態はロイにとって意外に楽しく、思わぬ癒しになっていた。体は休まっていないが、精神的には安定していた。むしろ好調なくらいだ。
「…ところで、エドワード。思ったんだが…」
「…なんだよ」
 ロイは笑いを引っ込めて、静かに口を開いた。コーヒーを一口啜り、眼鏡の奥から真摯に見つめて。
「――気を悪くしないで欲しいんだが…、君、身辺警護にはあまり向いてないんじゃないだろうか」
「……………」
 金色の大きな瞳が、驚きに見開かれた。
 ロイも暫しは何も言わない。
「…別段、君に何か落ち度があったわけでもない」
 いや。本当はたくさんあったが、ロイはそこまで冷たくもなれなかった。まさか自分を慕ってその職を目指そうとしている少年に、そこまで冷たくはなれないではないか。
「だが、…」
 ロイは幾らかためらった後、カップを置き、そっとエドワードの手を取った。少年の薄い肩がぴくりと跳ねる。
「…まず第一に、君は若すぎる」
「…え…」
 予想に反して手はごつごつしていて、彼が積み上げてきた努力の跡をロイに教えていた。だが努力だけでは駄目なのだ。それが現実である。
「…友人にね、警護官がひとり、いたんだが」
「…!」
 ロイはゆっくりと語って聞かせた。
「彼もやはり、警護官としては若くして抜擢された人間だった。恐らく…十八歳前後だっただろう。初任が」
「…それでも、今のオレより三つ年上…」
 ロイは頷いた。
「そう。それでもまだ若かった。確かに誰でも初めは経験がない。徐々に覚えていくしかないものはたくさんある。彼も頑張っていた。それに、いくらなんでも、最初から大きな任務を与えるほど軍部も馬鹿じゃない」
 ロイは緊張を解させようと小さく笑った。
「そしていくらか経験も積み、ようやく簡単な任務ではなく、要人の警護につけられた時のことだ。彼が初任から一年くらい経っていただろうか」
「………」
 エドワードは、反発するかと思ったが、話題に興味があるのか黙って聞いていた。
「それは間違いなく第一級の要人警護の任務で、彼はチームの一人としてその任務についていた。勿論下っ端だから、かなり端の方にいたんだ」
「……チームって、何人くらい?」
「さあ。その相手にもよるだろう。彼の、その時は、二十人弱くらいのチームだったと聞いているよ」
「そんなに?」
「驚くほど多くはないと思うよ。第一級というなら、少ないくらいなんじゃないかな」
「…そうなんだ…」
 何となく驚いているところを見ると、職業自体に対する情報はあまり持っていないのかもしれない。大体、士官学校をも飛び越えて考えているくらいだから、確かにいくらか常識に欠けている所は否めない。
「つつがなく、任務は終わるはずだった。だがその任務には不確定要素があったそうなんだ」
「不確定要素?」
「当日になって、警護する相手にコブがついていた」
「…コブ?」
 小首を傾げたエドワードに、ロイは小さく笑った。それはどちらかといえば、自分が過去を懐かしんだためのものだった。
「そう。小さな子供がね」
「…こども…」
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ