二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

What's the name of the Game

INDEX|15ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

 少年の目が見開かれる。彼の記憶と重なる部分が揺り動かされているのだろう。
 彼と、ロイの共通の記憶が、そのエピソードの中には含まれている。
「小さな子供は、守るのが難しい。まして物心ついてすぐの頃ではね。好奇心ばかりが旺盛で、危ないといくら言って聞かせてもちっともじっとしていない。一瞬でも目を離せばとこに行ってしまうかわからないし…」
「………」
 エドワードは、何かを思い出しでもしたのか、きゅっと唇を噛んで俯いた。ロイはまだ握ったままの彼の手の甲を、そっと撫でて顔を上げさせた。
「隊長は一番の若手だった彼に子守の任務を命じた。悪いことに彼は童顔で、他の厳つい隊員達に比べて、子供の受けがよかったんだそうだ」
 …ロイ自体は、子供なんて苦手だったのに。
「――そして運悪く、やはり襲撃は起こった。ガードする相手だった父親の方は、銃撃が集中したが、特に大事なく守りきった。だが子供はパニックを起こして父親の方へ走って行き、銃弾が子供をも狙った。腕から守っていた子供がすり抜けていってしまったのを、彼は必死に追いかけたという」
「…それで、どうなったんだ…」
 囁くような声音で問うエドワードに、ロイは瞬きもせず告げた。
「大人と子供の足だ。すぐに追いつき、とにかく子供を抱えて逃げようとした。だが、そこで彼は運悪く被弾した」
「……!」
「しかし幸いにも急所を辛うじて外していてね。命に別状はなかったが、警護官からは配置転換になったよ、結局」
「…そのひと、…今は…」
「しばらくはさすがに病院にいたな。それから幾つかの部署を経て、今は東方司令部にいるよ」
 ロイは最後にもう一度エドワードの手を撫でて、そっと離した。
「まあ元気にやっている。だが、酔う度に言うんだよ。あの時はまだ、任務に就くのは若かった気がすると」
 それはロイの本心だった。若いうちから経験を積むのは良いことで、恐らく上層部はそれを期待してロイを早くからその部署に配置したのだろう。だが、最初に他の部署を経験しておくのも良かったかもしれないと今では思うのだ。
「…君を見ていると彼のことを思い出すんだ。…それに、彼は運よく助かったが、殉職率も高いと聞いている。他人の命も大事だが、まず自分の命を守れなければ意味がない」
「……オレじゃ、まだ未熟だって」
「誰でも最初は未熟だよ。ただそれがいつか未熟じゃなくなるのか、それともそのままなのか、それは誰にもわからないと思う」
 ロイは静かに言った。
「私が今君に不満を持っているということじゃないよ。だが、考えて欲しいんだ、エドワード」
 少年は途方に暮れた顔をしていた。抱きしめたくなるだろう、そんな顔をしないでくれ、とロイは心の中で囁きかけた。勿論、そんなことはしないが。
「…君には、本当にその覚悟があるのかい?」
 エドワードからの返答はなかった。

 子供をいじめたみたいで後味が悪いな、とロイは鍋をかき回しながら軽く自己嫌悪に陥っていた。
 研究成果が気がかりだから今夜はここに泊まってもいいだろうか、と切り出せば、しょんぼりした少年は、うん、あんたがそういうなら、とろくに反対もしなかった。最初の日のあの明晰さや快活さをどこにおいてきたのかと思うような意気消沈振りに、さしものロイも後ろめたい気持ちで一杯だ。
 さきほどのガレージ兼レストランでつめてもらった食材で簡単な夕食を作りながら、ロイは、どうやって慰めようかと思案していた。しかしそんなことを考えている自分に気づいて動揺もする。
 少年に諦めさせるのが自分の役割なのだから、慰める必要などないではないか。それなのにそんなことを無意識に考えてしまったのは、要するにロイがそれだけあの少年を懐に入れてしまっているということに他ならない。それは危険な兆候である。
「エドワード」
 意気消沈してはいても、向いていないんじゃないかと言われても、それでも任務のことは忘れていないのだろう。料理をするロイのすぐ近くにいる少年はある意味健気でもある。向いていないけど、応援してあげるから頑張りなさい、と言いたくなってしまうような。
 要するにそれを突きつけるのが嫌で、あの親ばか教授はロイにその役目を押し付けてきたのではないか、と思えてきた。だとしたら益々厄介な生き物である、あの「国家最高の疫病神」は。
「…なに?」
「ちょっと味見をしてもらえないかな。私は味覚にはあまり自信がないんだ」
 単純に切って煮るだけのスープだったが、それでもせめて、少しでも元気になって欲しい。なんともささやかな努力である。涙ぐましい、と評してもいいだろう。
「ん」
 小さなスプーンにひとすくい、スープを渡す。するとミルクを舐める猫のようにそれを舐め取って、エドワードはロイを見上げた。赤い小さな舌がいやにロイの脳裏に焼きついた。
「…もうちょっと塩味した方がいいみたい」
「そうか。ありがとう」
 見とれていたことに気づかれないよう、ロイは極力普通を装って答えた。
 ――確実にショックを受けていた様子のエドワードだったが、感心なことに、それについてロイに当たることはなかった。そこがまた逆にロイの琴線に触れたのだとも言える。健気で、素直で。そこで駄々でもこねられたら、気兼ねなく失格宣言をしてやれただろうに。
「…なあ、」
 と、塩をぱらぱら振っていたロイの背中に、遠慮がちな小さな声がかけられた。軽く首を捻って顔の半分だけ振り向けば、少年は俯き加減で何かを考えているようだった。
 ロイは火の勢いを落として、なにかな、ときちんと振り向いた。すると、エドワードもゆっくり顔を上げる。
「…あの、さっきの話の」
「…元警護官の友人の話かな」
「そう、その人、…その人、さ」
 言いよどみ、何度も唇を噛んだり舐めたりしている。その小さな頭を撫でてやりたくなって、…まあ撫でるくらいならいいか、とロイは今度は自分の行動をあっさり承認した。
 抱きしめるのはさすがにまずいだろうが、頭を撫でるのはセーフだろう。
「なに?」
 よしよし、と頭を撫でたら、不機嫌そうに睨まれた。
 よく考えなくても年頃の少年だから、馬鹿にされたような気がして面白くないのかもしれない。
「ごめんよ。でもなんだか撫でたくなったから」
「…オレはガキじゃないぞ」
 十分ガキだよ、と内心で答えつつ、そうだね、すまない、とロイは澄まして謝った。我ながら腹黒いかもな、とちらりとそんな思いが彼の脳裏を掠めて過ぎた。
「…彼が、なにか?」
「その…今でも、友達? 会ったりするのか…?」
 もじもじと憧れの人のことを切り出す姿に、ロイは苦笑した。それはもう毎日鏡で会ってるよとはとても言えない。
「そうだね。たまに会うよ」
「そ、そうか…」
「彼と会いたいかい?」
「え、いや、あの、…そういうわけ、じゃ」
「でも、彼が君の憧れの人と同じかどうかはわからないよ?」
 この反問は意地の悪いものだっただろう。だが、演じられている「ロイ・マスタング」なら発してもそんなにおかしな質問ではない。勘が鈍い、という程度の問題で済むだろう。
「そ…うなんだけど」
 また彼の顔がしゅんとする。はまってしまいそうだ、とロイはまさしく意地悪く、腹黒くそんなことを考えた。
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ