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What's the name of the Game

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 別にそこまで喉が渇いてるわけでもないんだがな、と思いながら、どうやって「腕力からっきしの助教授」的に断ろうかとロイは思案した。全くなんだってこんな人物設定にしてくれたのかと思う。
 しかもイーストシティの中でだなんて、変装でもしなければすぐにロイだとばれてしまうではないか。そのために眼鏡をして前髪を軽く上げてみたが、どうもうまく化けられているのかいないのかいまひとつ疑問だった。
「いーっていーって」
 ぴょこん、と少年はベンチからジャンプして降りた。
「でも、あんたはここを動かないでくれよな。ここなら見晴らしもいいし、今すぐにどうこうって気配も感じないし」
 腰に両手を当てて、少年は偉そうに言った。
「すぐ戻ってくるからさ!」
 ぱたぱたと走り出した少年の後姿に、ロイは呆気に取られて言葉をなくした。

「…なんであれ男なんだ…?」

 いや、前言少しだけ撤回。ロイは、阿呆なことだけぽつりと呟いた。
 走り去る金髪が陽光をはじいて、眩しかった。

 宣言どおり、エドワードは紙コップを片手に走ってきた。
「…ありがとう」
 とりあえず無難に礼を言ったロイに、エドワードはどういたしましてと笑った。だが、すぐに紙コップをロイに渡したりはしなかった。
「…?」
「ちょっと待ってて」
 彼はためらいなく、その紙コップの中身をまずは自分で口に含んだ。ぽかんとしているロイの前で、しばらく口の中でその液体を検分した後、ごくりと飲んだ。
「…エドワード?」
 恐る恐る呼んでみたら、飲み込んだ後も暫時思案しているようだった顔が、真剣に頷いた。
「うん、大丈夫」
「…は?」
「だから、これは大丈夫、ってこと。だってオレ平気だもん」
「………毒見、してくれたのか?」
「変?」
 変だ!、とロイは一瞬怒鳴りそうになった。
 いや、確かにガードが自分の身を使って食品を試す、なるほどそれは古来からありふれたことには違いない。だが今二人しかいない状態で、もしもそこに毒でも入っていたなら、誰が自分亡き後ガード相手を守ると思っているのか。加えて、毒は即効性のものばかりではない。遅効性の毒物だったらどうする気なのか。
「……ありがとう。…だがもう二度としなくていい」
 どうにか内心の葛藤を押し殺しながら、ロイは静かに懇願した。当然、エドワードはむっとしたが、これはロイにも譲れないのだ。
「確かに、君の考えはもっともなところもあると思う。だが、エドワード」
「…なんだよ」
 むすっとした頬が幼い。こんな風に感情を表に出すのも、ガードには不向きだというのに。
「もしも今ので君が倒れていたら、私を狙う輩は労せずして私を襲撃するとは思わないか」
「……ぁ、」
 金色の目が大きく見開かれた。なんだかショックを受けた顔を見ていると慰めたくなってしまって困る、そう思いながら、ロイは苦笑を浮かべながら続けた。
「…守ってくれるんだろう?エドワード」
「なっ…、も、もちろんだ!」
「では、よろしく頼む」
 ロイは、感情は殺して柔和に微笑んでみせた。
「――それにね、私だって、君を犠牲にして生き残ったって嬉しくないよ」
 確かに身辺警護はガード対象を守るのが至上命題。時には命を擲ってでも相手を守らなければならない。十年くらい前、自分がそうしたように。
 ――けれど子供は泣いていたのだ。死なないで、と。
「……ん」
 あまり納得しているようにも見えなかったが、エドワードは頷いてくれた。ロイは、ひとまずはそれで安堵の息を吐いたのだった。

 エドワードが買ってきたのは彼の好みなのか甘ったるいオレンジジュースで、一口啜っただけでロイは結局少年に全部を飲ませた。間接キスだ、と一瞬ロイは下らないことを思い、その下らなさに我ながら眩暈を覚えた。
「…宿なんだが…」
 ロイは一応、エドワードと合流する前に考えていた。
 普通のホテルだとロイの正体がばれる確立が高い上に、エドワードに覚られぬよう彼を守りつつ守られるふりをするなんていう芸当は難しすぎる。
 そこで彼が考えたのは、軍部でも掴んでいないはずの――中尉でも知らないはずの――自分の隠れ家の一つに篭城する作戦だった。
 今のところ尾行の気配はない。適度に食料を手に入れて、すぐにも向かった方がいいだろう。
「あ、うん、オレ幾つかめぼしいところは探してあるぜ」
 やる気満々の少年のそのやる気をどうやってそらそうかと思いながら、ロイは柔和な表情のまま続けた。
「ありがとう。…だが、実は私にも少し事情があって…」
「事情?」
 少年の眉が怪訝そうに寄せられた。
「ああ。…コーディネイターがなんと言ったかわからないんだが…、私と私の研究成果が今ある不貞の輩から狙われていてね」
「…聞いてる」
 あたりにさっと視線を巡らせてから、真剣な目で少年は頷いた。
 まっすぐな瞳はロイがどこかに忘れてきた昔の純粋さを思い出させ、うらやましいようないとおしいような気持ちにさせる。
 最初は少女のようだと思ったが、確かにこの生き物は少年なのだ。少女にない、残酷なまでの真っ直ぐさでどこまでも走っていける生き物なのだ。
「だが、成果の一部はある場所から動かせなくてね」
「…実験室とか?」
「まあ、そういったようなものかな。実際には隠れ家だがね」
「…じゃあ、そこに行かないといけないってことか?」
 ロイはただ頷いた。どうやら誘導はうまくいきそうだ。
「そういうことになる」
「…そうか…」
 少年は難しい顔で腕組みをした。
「でもさ、それでいくと、その場所であんたが捕まったら一網打尽なんじゃないの」
「……」
 ロイは内心舌打ちしそうになった。確かにそれはその通りだろう。
「だったらさ、その隠れ家の場所は切り札で、あんた自身はどっか違う場所に隠れてた方がいいんじゃないのか?」
 エドワードは真剣な顔をしてロイを見上げていた。ロイも、これは自分の分が悪いかもと悟らざるを得ない。
「…確かに、君の言う通りだ」
 あまりに抵抗しても、賢い少年だ、何かしら違和感に気づきかねない。それならばここは一度折れてやった方が自然だ、とロイは作戦の変更を余儀なくされた。
「後で、オレにもその場所教えといてくれ。絶対オレがそこもあんたも守るから」
 ロイの葛藤など知らず、綺麗な少年はにっこりと微笑んだ。そう、ロイの気など欠片も知らずに。

 結局宿は、ロイがそれまで行ったことのない宿になった。
 ――それまで利用したことのないような、老舗で格式の高い、しかし規模は小さい高級ホテルに。
 ロイはその、イーストシティどころかアメストリス国内に燦然と輝く老舗ホテルの入り口で顔を引きつらせた。
 …彼は大佐として、また東方司令部のナンバー2として、確かにシティの色々な建物、様々な企業団体と深いつながりを持っていた。だがこのホテルだけは違うのだ。ロイのような若造など目もくれない、…というか軍人をあまり快く思わない文人たちの集う、小さいが格調のある建物なのだった。正直、ロイはそういう差別はホテルマンとしてどうなのか、と思っていたが、今となってはその縁のなさが彼の正体を露見させる可能性を下げているのだから、ある意味で皮肉なものだった。
「お久しぶりです、エドワード様」
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ