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What's the name of the Game

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 本来は、エドワードは割とすぐに眠りに落ちてしまっていたのだが、ロイはそんなことは勿論口にしなかった。自覚を促すにしても徐々にやっていくのがいいと思っていたので。
「そ、…そう、だっけ…」
 いずれにせよ記憶がないものだから、ロイの言葉を信じかけているようだ。というか、それならまだ面目が立つと思っているのかもしれない。実に可愛らしい、と今度は困ったようにロイは思った。
「そうだよ。君も始めての任務で気が立っているのだろう。なに、ホテルの中なら少しくらい気を緩めても平気なんじゃないかな」
 ロイは、何もわかっていない素人の態度でのんびり提案してみせた。
 実際はそんなことがないのはロイの方がよくわかっている。
「確かにここのセキュリティは信頼できると思うけど、あんまり楽観するのは危険だ」
 少年はきりりとした面差しでロイを見つめ、訴えた。
 今度は加点だ、と男はこっそり笑いながら思った。


 エドワードが居眠りしている間、ロイはホテル内の配置図をくまなく頭に叩き込んでおいた。このホテルの支配人の立場がどういったものかはまだ判断を保留にしているが、エドワードの思考や行動理論を把握している身内が敵にはいるのだから、当然このホテルも計算に入っているだろう。「敵」がここで仕掛けてくる可能性は捨てるべきではなかった。
「夕飯はどうする?」
 窓の強度でも確かめようというのか、今さらにこつこつと叩いている少年に、のんびりとロイは呼びかけた。
 近隣の建物との距離、対岸との距離や角度、狙撃してくるとしたらどのあたりが危険か――そんなことは、すべて皆ロイが検討済である。だがそれを口に出すわけには行かない。
 もっとも狙撃してくるにしても麻酔銃か何かだろう。そんなに距離が出せるとは思えないが、狙撃に関しては名スナイパーが部下にいることを知っているから油断できなかった。なにせ彼女には高々と敵対宣言を受けている。そして彼女がそういう場面で容赦のよの字もないことをロイは誰より知っていた。
「うん…」
 まだ窓に未練があった様子だったが、少年は案外あっさりとこちらに寄ってきた。ポニーテールが元気よく揺れて、これで少年なのだから、とロイは苦笑したくなった。
「あんた、何が好き?」
「…別に好き嫌いはないなあ」
 微妙にずれた答えだとは自覚していたが、ロイには困難な質問だったので致し方ない。けれど案の定、少年は眉をひそめた。
「それ、答えになってない。あんた、食べたいものとかないの?」
「…別に食事が嫌いなわけじゃないんだが、…あんまり、食に興味がなくて」
 苦し紛れにロイは答えた。これは演技ではなく本心である。軍部で揉まれたのが一番の原因ではあるだろうが、元々ロイは食物に興味の薄い性格をしていた。だから好きなものと言われても困るのだ。今目の前にあって食べられるものなら多分なんでも平気なのである。
「…そうなの?」
 少年は、なんだか気の毒そうな顔を向けてきた。そんなに哀れまれるようなことだろうか、とロイもいささか居心地が悪い。
「そんなの、勿体ねえよ!」
 天才少年はぶっきらぼうな口調で熱弁をふるった。ロイは思わず目を丸くしてしまった。
「折角この世にはうまいものがたくさんあるのに! …そりゃ、中には白濁した牛から分泌した汁みたいなまずいものもあるけど」
「…白濁した…、……まさかとは思うが、牛乳のことか?」
 ロイは頭の中でクエスチョンマークを浮かべつつ、白濁したとか分泌したとかいう単語に若干の抵抗を覚えながら、それでも最も問題がなかろうと思う食品名を口にした。
「そう!あんな汁がうまいなんてヤツ気が知れねぇよ!」
 ぷん、と少年は腕組みしてそっぽを向いた。ロイは笑いがこらえきれず、手で口を押さえながら横を向いた。
「…ちょ、なんで笑ってんだよ!」
「いや、すまない…いや、いやいや…、そうだな、確かに牛乳が嫌いだというのはよく聞く話だ」
「…あんたは?平気なの」
 涙をぬぐいながら詫びていたロイに、不審げな目を少年が向けていた。ロイは小さく笑って、私は嫌いなものはないよ、と再び答えた。
「あっそ…」
「だが、牛乳を飲んでカルシウムをつけた方がいいと思うんだが…」
「牛乳飲んだらカルシウムが作られるなんて俗信だぜ!」
「まあ牛乳だけ飲んでいたらいいとはさすがに言わないがね…。しかし、身辺警護を目指すなら、体格はいい方がいいんじゃないのか?」
 そのあたりは他の人間にも散々言われているに違いない。エドワードの顔が不服そうに歪んだ。面白いなあ、と思いつつ、ロイは穏和に笑って話題を切り替えた。
「まあ、とにかく、私は何でも構わない。そうだな、強いて言えば温かいものが食べたいかな」
「何それ、大雑把だな」
 ロイの答えに、エドワードはやはり不服そうだ。
 一体この子は今までどれだけの愛情を受けて育ってきたのだろう、とロイは羨ましいような眩しいような気持ちを覚える。食事が好きだということは、一緒に食事をする誰かがいて、なおかつその時間に幸福を覚えていたということに他ならないのだから。
「…じゃあ、オレの好きなもの頼むからさ、一緒の食おうぜ」
「ああ。任せるよ」

 エドワードが頼んだのは、なぜかホワイトシチューだった。
 そう寒くもない今、なぜシチュー?とロイは内心思ったが、まあ温かいものが食べたいというリクエストとは確かに反しない。それに、エドワードに任せたのも自分だ。
「あのな、ここのシチューは世界で二番目にうまいんだぜ」
 バケットを手に取りながら、本当に嬉しそうな顔で少年は言う。
「二番目?」
「うん。一番はうちの母さんが作るやつだから」
 屈託のない顔で少年は笑った。
 ホーエンハイムの周囲は常に警護の人間がいて、その家族というならきっと窮屈な思いを強いられてきたのに違いないと思うのに、この無邪気さは一体なんなのだろう。普通の世間一般の十五歳と比べてもなお、擦れていなさ過ぎるのではないだろうか。それとも単に純粋培養なんだろうか。
「でも、ここのもうまい。チキンがいつもよく煮えててさ」
「…こっちのも食べるかい?」
 あまりに美味しそうに頬張るもので、ロイも無意識に聞いてしまった。
「えっ」
 しかし、当の少年はその質問に頬を染める。子供っぽいと気づいたのかもしれない。だがロイから見たら子供っ「ぽい」のではなく「子供」でしかないのだ、と知ったら…ショックだろうか。
「い、いいよ。あんた食えよ」
「いやしかし。今気づいたんだが、私はチキンは得意じゃなかった」
 しれっとしてロイは言った。勿論嘘である。本当に、彼には好き嫌いというものがないのだ。
「そ、…そんな、うそだろ?」
 伺うエドワードの顔は、嘘じゃないかな、というのが三分の一くらい、残りは本当だったらいいな、チキンもらっていいのかな、というのが過半数を占めていた。実にわかりやすい。そして、実に面白い。要するに、ロイは少年のそういう逡巡する様子を見たかっただけだった。
「嘘じゃないさ。普段から食事が偏り気味なせいか、そういうことをたまに忘れるんだ」
 けろっとロイは嘘をついた。
「でも、さっき好き嫌いないって」
「――偏った毎日の食生活の中では、ね」
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ