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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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わたしにとって、あなたにとって

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 湖面は静まり返ったままで、ルヴァもアンスタンも浮かんではこなかった。
 アンジェリークは暫くルヴァの名を叫び続けていたが、やがて二人を探すため湖へと潜ろうと決意し、靴を脱ぎ捨てた。
 今までこんな夜間に入ったことはないが、一応泳げる。

 想像以上に冷たい水温にぞくりと竦み上がったが、もう一度名を叫ぶ。
「ルヴァーーーーーッ!」
 時折ぴしゃんと魚がはね、水面に波紋を起こしていく。だが捜し求めるひとからの応答はない。
「……ルヴァ、アンスタン、帰ってきて……」
 アンスタンとこの湖で出会った最初、彼はルヴァがアンジェリークを愛するが故に捨てた感情の集まりなのだと告げた。
 それが本当ならアンスタンもルヴァの大切な一部であって、はいそうですかと見捨てられるはずもない。
 アンジェリークとしても彼を愛するが故に彼が求めているであろう「女王としての自分」を演じて疲れ切っていた折、アンスタンとの出会いがひとときの慰めになった。
 失われた蜜月を取り戻すかのようにのめり込むアンジェリークに対し、アンスタンは存分に甘やかすと同時に「対症療法では問題は解決しない」と諭してもいたが。

 暫くして二人が沈んだ辺りから突然強い光と共に大きな水柱が高く噴き上がった。
 湖を貫き天高く昇るその輝きはまさしくルヴァのサクリアだ。
 水柱はそのまま大きな波となり、アンジェリークを一気に湖岸へと押し戻す。
 そしてアンジェリークとともに湖岸に打ち上げられたルヴァは周囲に小魚が飛び跳ねる中でげふげふと咽こんだ。
「げほっげほっ、ぶえっ……はー……どうやら無事に戻ってこられたようですねえ。しかし仕事が雑ですよ、アンスタン……」
 濡れ鼠になっている程度でケロリとしたその言葉に胸を撫で下ろし、アンジェリークはルヴァにすがりついて彼の無事を喜び、大粒の涙を流して咽び泣く。
「ルヴァ……!」
 アンジェリークにがっちりと抱き付かれた状態でルヴァはずぶ濡れで取れかけたターバンを外し、引っかかっていた水草を払い落としてぎゅうぎゅうと絞った。
 それを再び巻き付ける前に、じっと翠の瞳を覗き込む。その真剣な表情にぐすぐすと泣いたままのアンジェリークも真剣な顔つきに変わる。
「アンジェ、あの……アンスタンのことですが」
 ルヴァはそっとアンジェリークの手を取り、自分の胸へと宛がう。
「さっきの力はね、彼が持っていたサクリアを放出したんです。放出と言うのは少し違いますかね、ええと……創られた身体を元に戻す際に起きた衝撃、と言ったほうがしっくりきますかね? もっと簡単に言うと私が放り出されてきちゃったんですけど。えーそれで……その、アンスタンは今、ここにいます」
 そう言って目を伏せたルヴァの姿にアンスタンが彼の中へと戻っていったことを知り、少しだけ切ない表情になるアンジェリーク。
「捨てたと思っていた感情は、私の中にずっと息づいていました。この湖であなたを愛した彼はもういませんが……これからは、私がずっと側にいます。それじゃだめですか……?」
 アンジェリークは首を左右に振り小さく微笑んで、ルヴァをじっと見つめ返す。
 その宝石のような翠の輝きに魅入られて、ルヴァは恐る恐る顔を寄せた。
 穏やかな顔で瞼が下りていくと同時にルヴァの唇が重なる。初めて交わした頃のような、ぎこちなく淡いくちづけ。
 唇を離した後のアンジェリークの表情を見て、ルヴァは堪らず金の髪に手を差し入れて指を絡ませ、更に深くくちづけた。
 そこには、ルヴァが欲しかった微笑みがあった。

 それからすぐに蹄の音が聞こえ、オスカーが先程のサクリアを見て駆けつけてきたと察し、慌ててターバンを巻き付けた。
 程なくして現れたオスカーは愛馬から颯爽と降り立って二人に声をかけてきた。
「陛下、ルヴァ! 無事か……と聞くまでもないな」
 見ればしっかりと抱き締め合ったまま、二人とも幸せそうな雰囲気に包まれていた。
「ええ、問題は解決できましたよ。詳細は戻りながらお話しますんで、あなたの馬に陛下を乗せてくれますか」
「承知した。陛下、どうぞこちらへ」
 アンジェリークを愛馬に乗せてオスカーは手綱を引き、ルヴァと共に歩いた。
 ゆっくりと歩きながらオスカーにことの詳細を話して聞かせるルヴァ。
 カポカポと蹄の音が心地良く響き、濡れてすっかり冷えた身体にはオスカーのマントと馬の体温がこれまた心地良く、更に規則的な揺れも相まってアンジェリークは馬上でうつらうつらし始めた。
 そんなアンジェリークの様子にルヴァは目を細め、オスカーに声をかける。
「オスカー、あなた一足先に陛下を送っていってくれませんかー。私は歩いて戻れますから」
「いいのか? 折角仲直りできたんだろう?」
 折角の逢瀬の時間、聖殿前からは二人きりにさせようと思っていたオスカーがぽかんとした表情になる。
「ええ、いいんです」
 馬上の想い人を見上げてふんわりと笑みを浮かべた地の守護聖の表情には、もう悲壮感はなくなっていた。

 そうしてアンジェリークはオスカーによって速やかに送り届けられ、全ての問題が一応の決着を見せたことで二人の守護聖は心から安堵して帰路についたのだった。