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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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わたしにとって、あなたにとって

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 その晩ルヴァは聖殿前に佇み、暫しの間アンジェリークが出て来るのを待った。
 出てきて欲しくないと願いながら、心の何処かでは恐らくあの男に逢いに行ってしまうのだろうという苦い思いが消えない。
 考えれば考えるほどに彼女の気持ちが掴めなくて、ただひたすら途方に暮れてしまう。
 今宵も無数の星の瞬きが漆黒の空を群青に照らし出している。ルヴァはやるせない胸の内を誰にも明かすことなく、じっと煌めく星々を見上げていた。

 やがて聖殿の奥から響いてきた小さな足音に、それまで黙して夜空を見上げていたルヴァの意識が否応にも現実へと引き戻されていく。
 落胆する感情を抑えていつもの笑みを作り、ゆっくりと振り返った。
「……こんばんは、陛下。こんな夜分にお出かけですか」
 階段の下に佇むルヴァの姿を目に留めて、アンジェリークは一瞬だけその軽やかな歩みを止めた────が、こちらもまた硬い表情からすぐに笑みを浮かべ、何事もなかったかのようにゆっくりと階段を下りて来る。
「こんばんは。ちょっとお散歩してこようと思ったの」
 いつもの笑顔。いつもの声色。何一つ変わらない態度。
 しかしそれが嘘であることを、二人はもう知っている。
「夜のお散歩は気分がすっきりしていいものですよね。良かったら、私もご一緒させていただけませんか」
 今の二人の間には夜風より冷えた緊張感が満ちていた。
(いつから……こうなってしまったんでしょうね)
 そんな独白がルヴァの頭に浮かぶ中、アンジェリークは口角を更に上げて首を横に振った。
「ごめんなさい、今日は一人になりたいの。……失礼します」
 愛想笑いの顔のままアンジェリークがルヴァの横を通り過ぎていく。
 この時点でルヴァは言うべき言葉をすっかり失っていたが、それでも咄嗟に彼女の腕を掴む。
「…………」
 無意識に体が動いていた。腕を掴まれ驚いた様子のアンジェリークはただじっとルヴァを見上げている。
(何か……何か言わなくては)
 刹那、彼女があの男の腕の中で見せた微笑みが頭の中を過ぎっていった。
 あの微笑みはかつて自分へと向けられていたものだ。
 久し振りに触れた瞬間ばくばくと上がっていく心拍数に比例して沸き起こる甘い感情に後押しされ、ルヴァはアンジェリークを引き寄せた。
 華奢な身体はいとも容易くルヴァの腕の中へと収まる。だがその感触は知っているものとは程遠いとすぐに気が付いた。
 腕の中では宇宙の至高が引きつった笑みでぎこちなく身体を強張らせている。
「あ……の、ルヴァ。離して下さい……もう行かないと」
「誰かに逢う為、ですか」
 その問いにアンジェリークは答えない。
 肯定とも取れる無言に耐え切れず、ルヴァは恋人同士であることを確かめたくなりそっと顔を近づけた。
「いやっ……!」
 アンジェリークは顔を背けながら強い力でルヴァの身体をぐいと押しのけた。
 その余りにも強い拒絶の意思に、ルヴァは呆然と彼女の瞳を見つめる。
「なぜです……? なんで、こんな……私たちは、あなたにとって、私は」
「ただの女王と守護聖でしょう?」
 ルヴァの掠れた声を遮り、酷く冷たい声音でそう呟くアンジェリーク。射抜くようなまなざしが少し潤んでいる。
「……その距離でいいと言ったのはっ、あなたじゃないの!」
 ルヴァの腕には既に力はこもっていなかった。
 それを振り払うようにしてアンジェリークが駆け出して、見る見るうちに遠ざかってしまった。

 追いかけなくてはと頭では思っているのに、まるで金縛りにでも遭ったようにその場に立ち尽くす。
 くちづけを拒絶されたことより何より、彼女からの悲痛な叫びが胸に鋭く突き刺さり、ルヴァの呼吸を妨げる。
(今まで私が良かれと思ってしてきたことは……あなたをずっと苦しめてしまっていたんですか……?)
 アンジェリークが走り去る瞬間、彼女の目尻に浮かんだ光る粒が視界に入った。
 その涙の意味について改めて考えたとき、ルヴァの胸に更なる痛みが訪れる。
 ずきりと鋭い痛みが突き抜けて、思わず胸を押さえた。

(この程度の痛みが一体何だって言うんですか……いま本当に苦しいのは、辛いのは、私ではない!)

 それからルヴァは湖へと続く道をひたすら走った。
 元々走るのが得意なアンジェリークの姿はとっくに見えないが、今頃あの男の元にいるはずだという確信が、走るのは不得意なルヴァの足を前へと進ませた。