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十月革命

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「会長?」
 その人は、石段の下にいた。何をするでもなく、あるいは、何もしないことを目的としているかのように、ただ立ちつくし、あたりを見渡している。
「……なに?」
 思ったより、ずっと、優しい声が返ってきた。
「なんでこんなところにいるの?」

 きっと自分は、会長にとっては、忠誠を誓わせただけの下僕にすぎないだろうけれども、それでも、会長と副会長として、あるいはつぐみ寮の仲間として、それなりに、信頼関係とかツーカーの間柄を築けてきたと思っている。
「あんたこそ」
 なのに、今、どうだろうか。俺はこの人と、まったく、距離感も表情も、何もつかめないでいる。
「俺は……」
 何を問えばいいのか、何と答えればいいのか。何を求めるのか、何を求められているのか。この空間だけ、何もかも、ない。積み重ねてきたものが、何も、見えない。
「………」
 会長は何も言わない。俺の言葉の続きを待っているのか、それともただの沈黙なのか、はたまた無視なのか。はじめから、考えているであろうことと言葉と行動が一致しているような人ではなかったけれども、ここまで意思が読めない会長なんて一度も見たことがないし、副会長だって数回しか見たことがなく……これでは、まるで2年前……何も見えていなかった、あの頃のようで。

「会長……」
 だから俺は、この場に一番いてほしい人の名前を呼ぶ。
「……ん?」
 厳しい言葉を以て俺を手放しで甘やかしてくれた人に、会長らしい温情を、乞う。
「怒ってる?」
「………」

 10年……月日の中で、海己の無言の返答を読み取る能力は得たけれど、2年……この人のそれを読み取る能力は得られなかった。
「そりゃ、怒ってる……よね……」
 5倍近い年月の違いなのかとも思ったけれども、宮やさえちゃん、凛奈、そして……
「……………」
 昨日までの静はわかりやすかったことを考えると……単なるパーソナリティの差なのだろう。
「罵られる覚悟も、ぶたれる覚悟も、もちろんある。どうとでもしてくれたらいい。ただ……」
 この時の俺は、気付く由もなかったんだ。事の残酷さに。
「会長に認めてほしい」
 己の幼さゆえに。
「みんなにも認めてほしい」
 あの日の、あの人と一緒で。
作品名:十月革命 作家名:みやこ